遥か東より来た騎士14
巨人は急いでいる風もないが、その歩みは人が走るよりよほど早かった。さてどうやってこの巨人の息の根を止めたものか。ヨシタカ卿は考える。殺して死なぬことはなかろうが、太い首をどうにか落とすにしても刃が届かぬ。心の臓を突き通すにも同様で、しかも刃を柄まで埋めねば厚い肉を貫けそうにない。血でも流させようか。足の筋を切るのはよいかもしれぬ。御伽噺では酒を飲ませて眠らすのが定石だが、今は叶いそうもないのう。
「ランスを構えますか?」
訊ねるローランに、ヨシタカ卿が答えた。
「まだよい」
ラムロック卿は機を見てランスで突く心積もりだったようだが、いまだヨシタカ卿はランスをうまく扱いかねていたし、メローラたち従騎士は尚更だった。寄せては返す波のように仕掛け、巨人を翻弄するには修練が足りていない。とはいえ、このままではすぐにラムロック卿たちの許へ着いてしまうし、あまり考えている猶予もなかった。
「差し当たり、この巨人をラムロック卿たちから反対側へ引き離す。私もすぐ行くゆえ、そなたたちは先にあちらへ向かえ。追いつかれるなよ」
言って、単騎従騎士たちから離れて弓を構える。棍棒を持つ右手の後方から巨人に近付いていくのは、拳の真下に棍棒を振り下ろすのは容易ではないからだ。馬の足音に気付いた右の頭が振り返り、ヨシタカ卿を見た。その瞬間、弦を離す。放たれた矢が、右の頭の右目を貫いた。巨人が棍棒を取り落として目を押さえ、肌まで震わすほどの咆哮を上げる。ヨシタカ卿は右へ転回し、従騎士たちの方へ走り出した。巨人が荒い息を吐きつつ棍棒を拾い上げ、寸前までヨシタカ卿の姿があった場所へ振り下ろすと、打たれた大地が揺れた。激昂した巨人が自分を追いかけ始めたのを後ろ目に見て、ヨシタカ卿はほくそ笑む。まずは狙い通り。巨人が諦めぬ程度に間を開けて馬を走らせ続けるヨシタカ卿。業を煮やした巨人が棍棒を投げつけてきたが、うまく手綱をさばいて避けおおせた。近くを見回すと、ほかに投げつけられそうな岩もない。今後の手筈を考える余裕ができたところで、メローラたちが馬を併せつつ声をかけて来た。
「お見事です!」
「何かよい策はあるか?」
ヨシタカ卿の問いに、ローランが答えた。
「輪乗りして疲れさせましょうか」
「我らは4人おるしなあ。だがあまり時をかけてラムロック卿に加勢されるのは気が進まぬな」
「残りの目も射抜かれますか?」
とエレン。
「やれぬことはないかもしれぬが、さすがに巨人も警戒していよう」
「先ほどマーリン殿からいただいた紐があるのですが、これで巨人の足を搦め取るのはいかがでしょう」
マーリンから受け取った紐をかざしてメローラが言った。
「そんなに細くては搦め取るどころかすぐに切れよう」
「生半なことでは切れぬとマーリン殿は仰っていました。あの方のくださったものですから、きっと魔法の力が込められているかと」
魔法の力か。首尾よくいかずとも、紐が切れる程度なら危険は少なかろう、とヨシタカ卿は考える。
「わかった、試してみよう。私とエレンでこのまま間合いを保ちつつ輪乗りするゆえ、メローラとローランは駆け抜けて紐を用意せよ。紐を張ったまま左右に分かれて巨人の背後から近付き、追い抜け。追い抜いたら巨人の前で交差し、そのまま後ろへ駆け抜けるのだ。すれ違う時に互いを引っかけぬよう注意せよ。それと、紐を馬に括りつけるなよ、本当に紐が切れぬなら、馬ごと巨人に引きずられるやもしれぬ。引き倒す必要はない、足を括るだけでよい」
「わかりました」
「ではかかれ!」
ヨシタカ卿の合図と同時に、メローラとローランが馬に拍車をかけた。




