遥か東より来た騎士13
巨人の後を追って、ヨシタカ卿たちは南へと馬を走らせていた。ラムロック卿の言った通り、辺りは穏やかな丘陵が続いている。巨人の姿を探して小高い丘の上で周囲を見渡すと、エレンが南西を指差した。
「いました!」
「どこだ?」
ラムロック卿が眉を寄せて目を凝らす。
「あれか?」
自分は遠目が利く方だと思っているヨシタカ卿だったが、エレンの示した影は大木のようにも見え、いまいち判然としない。
「間違いありません」
「エレンは目が良いのです」
エレンの言葉をメローラが支持した。
「行ってみよう」
エレンの指差した方角へ向かうと、確かに双頭の巨人の背が見えて来た。
「おお、追いついたぞ!」
巨人に気づかれぬ程度の距離で、馬の足を止める。身の丈はヨシタカ卿の6倍ほどもあろうか。頭が2つ、横に並んで生えていた。毛は赤く、肌は浅黒い。手足は太く、ヨシタカ卿が目一杯両手を伸ばしても、半分も囲えそうになかった。結んで繋いだ毛皮を腰に巻いており、いくらかの知恵があることが見て取れる。棍棒にするつもりなのであろう、樹木を引きずっていた。
「ペルシ―の町が近い、手負いで逃げ込まれると面倒ゆえ手早く片付けるぞ。まずはランスで足を突いて跪かせるのだ、一か所に固まるなよ」
ラムロック卿が手早く指示していると、エレンが大声を上げた。
「あれを!」
「なにっ!?」
ラムロック卿が驚愕の声を上げる。見れば、同じような風体の巨人がもう1体、近づいてきていた。
「なんということだ」
ラムロック卿が呻く。
「まずいのですか?」
「かなりな」
ヨシタカ卿の疑問にラムロック卿が答える。
「まさかと思うが、ほかにはいまいな?」
「今のところはいないようです」
辺りを見回したエレンがラムロック卿に答えた。それを聞いても、ラムロック卿の眉間の皺は深いままだ。
「巨人が群れで動くとは聞いたことがないが、それでも同族を守る程度の知恵はあるやもしれぬ。ただでさえ双頭で死角を取りがたいのに、互いにかばい合うとなると……」
「同士討ちするか確かめますか?」
自身の従騎士の言葉に、ラムロック卿はかぶりを振った。
「そうならなかった時、打つ手がなくなる」
「では引き離しましょう」
「それが最善であると私も思う。が……」
提案したヨシタカ卿を、ラムロック卿がまじまじと見た。
「ヨシタカ卿。私は卿の腕をくだんの武勇伝でしか知らぬし、そちらの従騎士3人も此度が初陣と聞く。それでも1匹任せてよいか?」
「無論です」
ヨシタカ卿の答えを聞いて、メローラたちヨシタカ卿の従騎士は背筋を伸ばした。
「わかった。こちらを片付けたら加勢に参るゆえ、しばらくの間引き付けるだけでもよい、無理はしてくれるな」
「お気遣いあるな。それに、我らの方こそラムロック卿の加勢に参るかもしれませぬぞ」
不敵に笑うヨシタカ卿を見て、ラムロック卿も口の端を釣り上げた。
「ガレス卿の期待を裏切るなよ。オークニーの一族は執念深いゆえな」
「そのようなことにはなりませぬ!」
きっとして異を唱えるメローラを見て、ラムロック卿が声をあげて笑った。
「さすがはオークニーの姫よ。ではな。卿らに神のご加護があらんことを」
「卿もご武運を!」
互いの武功を祈りつつ、騎士たちは二手に分かれた。




