「しかも、このうえなく美しい花をつれて戻って来た」
「騎士フルトブラントが帰還した。
あの無慈悲で残忍な男が…」
「あやつは魔の森で行方知れずに
なっていたはずではなかったのか」
「そうだせっかく、
やつが愛していた女
ベルタルダを唆し、
騎士の誓いによって
罠にはめたのだぞ」
「それが通り抜けることなど
出来ようはずがない森を通り、
しかもこのうえなく美しい
花をつれて戻って来た」
「あの娘は何者だ。
まったく身元が知れぬが、
ただ美しいばかりでなく、
思慮深く慎ましやかであり、
才気もまたそなわっている」
「フーケー宰相が投獄された」
「あの善良な方が何故」
「善良であられすぎたやもしれぬ」
「我々も危ういぞ」
「逃げろ! 黒茨騎士団だ」
「もう、間に合わん!」
人の世に戻るにつれて俺にも
ウンディーネとは逆の変化が
訪れていた。
あの離れ小島での
生活より以前の俺、
冷酷で傲慢な野心家である
黒い騎士フルトブラントへ
次第々々に返っていった。
俺は政敵どもを葬るのに
ウンディーネを利用した。
彼女の使役する精霊は
水のある処であるなら
いずこでも入りこめた。
至る所に俺の目があり
耳があるようなものだ。
奴らが会合を開くのを
みはからって踏み込み、
一網打尽にしてやった。
さて、次はベルタルダだ。
あの女をどうしてくれようか。
21:00 投稿予定