「わたしは水の娘、父は水界の王」
老木の葉叢の下、
草花の褥に座り、
騎士は少女に結婚を求めた。
なんとしてでも自分の物にし、
掴まえて置きたかったからだ。
少女はいつになく、
考え込む面持ちで、
しばし黙っていた。
「最初はいわない
つもりだったわ。
あなたが離れていく
かもしれないから。
でも、話すことにした。
だから、聞いて。
あたし、人じゃないのよ。
水の娘、父は水界の王。
人のような姿してるけど
魂を持ってないわ。
父はあたしが人となり、
魂を持つことを願った。
その方法はただひとつだけ。
人間と愛を交わし、
結ばれることなの。
あたしは魂なんて、
どうでもよかった。
軽々しくて楽しく、
それでよかったわ。
でも、あなたを好きになった。
あなたのために魂を持ちたい。
人でなくたって
愛してくれるなら、
あなたのために
人になりたい」
少女が人でない、
それはなにかしら
腑に落ちるものがあったが、
そんなことはささいに思えた。
騎士は抱き寄せようとしたが、
少女は退けた。
「ただひとつお願い、
これだけは誓って。
たとえどんなことがあったって、
水の上であたしを罵っちゃだめ。
そしたらもうあたしは、
あなたのとこにいられず、
水底にかえらなきゃいけない。
それだけじゃないわ、
ほかの女と結婚したら、
あなたを殺さなきゃならない。
あなたに捨てられるのはいや。
ほかの女にあなたをとられるのもいや。
でも、あなたを殺すのはもっといや。
あたしにそんなことをさせないと
誓ってくれる?
でなきゃ、いまここで
捨てられたほうがいい」
騎士は誓い、
抱きしめて、
くちづけをかわした。
――真実だった、そのはずだった。
だが、人の心がどんなに、
あてにならぬものなのか、
俺はそれをしらなかった。