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「みな夢。いつかさめる。ならば、俺はさめぬ眠りにつこう」

狂えるものなら、狂いたい。

なぜ、狂えぬのか。


そのように思ったときには、

すでに狂っていたのだろう。


リングシュテッテンの城主は、

静かにひそやかに狂ってゆく。



死を招き寄せようとするかのように、

城主はベルタルダとの婚礼をいそぐ。


すべてがとめえぬ破滅に、

むかっているようだった。



陰鬱な婚礼はおこなわれ、

今はなき面影が探される。


驕慢な花嫁は化粧水のために、

封じた泉の蓋を取り去らせた。





蝋燭の炎に蛾が焼かれて落ちる。


姿見は物憂さに沈み込んだ、

気怠い俺の面を写していた。



「空耳か」



きこえるかきこえぬか、

かすかに扉が叩かれる。


あれはいつもそのように、

俺へ訪れを告げたものだ。



「まいりましたわ、あなた。

泉の封印が解かれたのです。


やって来たくはありませんでした。

それでも来なければならなかった。


会いたかった。

これ以外に会えなかった。

こんなことのため会いたくなかった」



俺は背後に冷気を感じながら、

鏡に映る白い姿に身震いした。



「いや、待っていた。


だが、面をヴェールで

覆っているのはなぜだ。


たとえ、死のみにくさに

喰いあらされていようと


一向にかまいはせぬぞ」



「死んではいないのですわ。


出会いの頃と同じ顔をして、

同じ体を持ち続けています」



「ならば、ヴェールをとれ。


そして、我にくちずけし、

死の眠りにつかせるがよい」



「それは真でございましょうか。

ならばそのように――」



誓いを破りし我は、

誓いをかわせし、

かのときのごとく、

かぼそい体を抱き、

くちづけをかわす。



お前からこぼれる涙が

俺の眼と口に入り、

ゆるやかに心臓を止めていく。


もはやなにもみえぬ。

闇の中にお前だけが、

白い花のように……。



「――昏い、そして甘い」








「あの人を涙で殺しました」




墓の傍らに小さな泉が、

湧き出して墓所を巡る。


人々はいう、ウンディーネが

騎士を愛しているのだと。


泉の水が涸れぬ限り、

愛しつづけるのだと。



はるかドナウの水源みなもと

リングシュテッテンの地に、


泉はいまも涸れない――。

 

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