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第二十三話

お待たせ致しました。

更新再開です...。


 「何で俺だけキュリーに嫌われとるがね? さっぱりわからん! 条件は兄弟みんな同じだら!」


 そそそ、そんなこと言われましても!


 どうして私、目下敵と認識されてるこの人とお茶飲んでるんだろう。

 流れを思い返せば、突然表れたエント様に、連れ出されそうになったんだけれど、門限がどうだのと言い訳して断ろうとしたら学食ならいいだろって案内させられ、お茶とお菓子を頼んで話を聞いている(今ここ)ってところかな。

 本当ならルフェダオス学園に門限なんてない。いや、あるんだけど、こんなに早くはない。エント様も卒業生だからそれはわかってらして一瞬殺られるんじゃないかってくらい怖い顔をされたんだけども、女は危ないからこの時間までに寮にいるようキュリーに言われました!と叫んで納得してもらった。ありがとう、キュリー。

 キュリーはすでに自宅に帰っているし、ルーセル先輩は実家、ケーン先輩は城にいるはず。結局私は特訓があったから孤児院には帰れなかったんだよなあ。ってそんなことはどうでもよくて。

 ずっとエント様がそばにいたから、誰かに助けなんて求められなかった。

 エント様は私を学食に連れ込んで話はじめたけど、愚痴......でいいのかな? 何で自分だけキュリーに嫌われてるのか意味が分からない、てことを言葉を変えて延々とわめいているだけ。私はお茶を飲み、お菓子をつまみながら、悟りを開いた気分でそれを聞いていた。ついでに言うなら、ずっとアルカイックスマイルも浮かべている。

 条件は一緒じゃないんじゃないかなあ。

 そう思いつつも、喋り続けて喉が乾いたのか、冷めた紅茶をごくごく飲み干している危険人物(シスコン)に言う勇気もない。


 「そこで、だ」


 何がそこでなんでしょう。


 「おみゃあはキュリーと仲良いだら? ちょっくらコツでも秘訣でも俺に教えぇ」


 こいつ、馬鹿か......!

 コツもなにも、と思うのは私だけじゃないよね。どう考えたって、エント様がキュリーに嫌われた決定的な理由はルーセル先輩殺害未遂しかない。それ以前から鬱陶しがられる要素が十分にあったとしても、それさえなければキュリーだってあそこまで嫌悪しないはず。

 もし、自分の目の前で好きな人が殺されかけたら。その犯人が家族だってムカつくじゃ済まなくなるのは普通に考えたらわかることでしょ。

 とはいっても、馬鹿正直にあんたの行いが悪いから嫌われてんだよもう修復不可能だから諦めな、なんて言ったら、間違いなく私、死ぬよねえ。


 「ええと、そのコツと言われましても」

 「何もないわけないやろ。あれだけキュリーに好かれとる癖に」


 いや、だからさあ。


 「本当にコツなんてないです。しいて言うなら、そうですね。相手の嫌がることをしない、相手のことを思った行動を心がけていれば、嫌われはしないはずです」

 「そんなもん、当然だがね。他になんかないんけ?」



 はー......ここで、出来てねえからこの状態なんじゃねえか!って言えたらどれだけいいのか。口が悪くなるのはしょうがないよね。

 結局、私も同じようなことを言葉を変え延々と言い続けることになる。どういったって伝わらないってすごいストレスだよね。

 随分経って、紅茶を何杯飲んだか数えるのも億劫になったところでエント様は席をたち、また来るという意味不明な言葉を残して帰っていった。

 

 私は長く息を吐いて、やっと帰ったという気持ちを隠さず食器を返す。

 返したら部屋で復習し、ん? え、また来るって何。まさかほんとに、またこんな話をするためにだけに来ないよねえ? 来ないよ、来ないはず、だけど。

 そうやって楽観視するにはエント様が怖すぎる。

 今、私がこのことを相談できて頼りになるのは、キュリーとセルマ先生。

 だけど、もしキュリーに相談なんてしたら、やっぱりエント様との亀裂は更に決定的なものになってしまうよね。それってすっごく私の立場が悪くなる。口止めはされなかったけど、絶対これ漏らしたら死亡フラグ立つ。ってことは、だ。セルマ先生に相談して、なんとか命だけでも助かるように準備だけはしておこう。

 死ななきゃいいや、なんて痛いのも苦しいのも嫌だから言えないけど、しょうがないよなあ......。次は一人でじゃなくてゼルガ兄様と一緒に来てくれたらいいのに。



 セルマ先生に話して暫くは一緒に行動してもらったんだけど、その間エント様は全く姿を現さなかった。

 一週間様子を見て、演習に出て、更に一週間。ようやっと基本の型をなんとか出来るようになり、セルマ先生との間でももう来ないだろうって結論が出た。ただ、用心のためにあまり一人にならないように心がけて行動してた。

 なのに、どうして狙い済ましたように一人になっちゃったときに現れるかなあ......!


 「おみゃあ、魔術科なのになんであんな真剣に体術やっとるん?」

 「え、あ、えっと卒業行事に出るためでして」


 お前にいちゃもんつけられないためだよ、なんて言えたらいいのに!

 木の影から唐突に現れたエント様に捕まりました。


 「私、行事に必要な体術とか体力とか身に付いてなくて、付け焼き刃でもやってないよりましですから。私のせいでキュリーたちが卒業できないなんて嫌ですし」

 「ほー。そんで、訓練?」

 「はい。全然身に付いてる気はしないんですけどね。やっと基本の型がなんとか出来るようになったくらいで」

 「ほんなら、基礎よりむしろ実戦形式でやった方がいいに」

 「え」


 苦笑しつつ歩き出す。話が続きそうだと思ったのもあるし、どうせ私じゃ追い返せないなら素直に従った方が労力が少ない。

 食堂に向かって足を進めれば、エント様は戸惑うこともなく着いてきて落とすように呟いた。


 「半年もないけえ、基礎から仕込んでも本番じゃ使い物にならんと思うで。だったら、考えうる状況を想定して体に覚えさしとく方がまだましだがね」

 「体力も、キュリーが言うくらいついてないですし」

 「そもそもおみゃあ魔術師やん。体力作りすんのは当然としてもウチの基本の型が出来りゃあ、まあ学生の間は問題ないら。軍の魔術師だって例外を除いたら、接敵されたら危ないのも居るんやし、今でもそれなりに使いもんにはなると思うに」

 「............」


 そう、なのかなあ。確かに基本の型は、すべての動作を終えるまでに時間がかかる。姿勢制御って言うのがこんなに体力を使うのかって思ったのも事実だけど、それを軽々とこなせる存在が近くにいると、あまりに自分のポテンシャルがないのがわかってしまう。

 まだまだ足りないと思っていたから、思いがけなく与えられた”認め”る言葉を上手く受け入れられない。


 「護身術は無駄にはならん。足りないっちゅうて訓練すんのも必要なことやけど、今みたく魔術は魔術、体術は体術で鍛えるより、魔術と併用で動けるように訓練しんと無駄だに。言われるがまま訓練積んだところで捨て駒にしかならんってーのは極論ちゅうても、もうちっと考えて動きゃあ」

 「考えて、訓練」

 

 魔術師は後衛で、前衛の騎士より前に出ることはない。2ペア以上で組んだパーティで動くことが基本だから、敵に接近されることは少ない魔術師は、何かあっても大概結界で事足りてしまう。そうなると魔術師は演習に必要な体力があればよく、いかにコストを少なく魔術を計算するかということが課題になってくる。

 騎士が外に強さを置くと言うのなら、魔術師は内に強さを深める。といえば聞こえはいいけれど、つまりはどんどん引きこもって体力が落ちていく。

 私は、少なくとも学園内の実戦を好む魔術師のなかでも体力はある方だと思う。近接戦闘なんてしたらそこらの女の子に負けるかもしれないほど自信はないけれども、討伐演習で魔獣を狩るにはそう困ることもない。

 

 あ、そっか。


 「行事は、対、人............」


 しかも、国軍訓練への参加。

 まだ内容は分からない。準備期間は二週間という短い時間だったから、知らされるのはその頃。でも、魔獣討伐に国軍が出ることは滅多にないことを考えれば、必然、相手は人間っていう結論になる。もしかしたら、軍人相手に訓練とはいえ一戦やらかす可能性も低くない。

 あー............なんで気づかなかったかな。討伐演習とは根本的に違うことにさっぱり意識が向いてなかった。

 魔獣は、魔力のある存在を本能で狙う。魔術師の魔力が多いとかそういう訳じゃないから、騎士でも魔術師でも近い存在を標的にする。だから、魔術師は騎士の後ろにいれば対処可能だった。

 あーそうだよ、前衛後衛なんて関係ないんだよ。敵に接近されることが少ないなんて言えないんだ。だって相手は考えて、狙える隙間を突いてくる、それを考えられる人間なんだもん。

 もし私がパーティの壊滅を狙うなら、先に後衛の魔術師をどうにかする。下手な作戦を考えなくても、人海戦術で囮を用いれば私程度の魔術師なら簡単に動きを封じられる。


 いくら私が今から本格的に体術の修練を始めようと、エント様の言う通りどうやったって行事に間に合うように身に付けることは不可能だ。キュリーとケーン先輩が囮に押さえられている間に背後から騎士が現れる、なんてことになったら、正直対処のしようがない。や、もちろんあらかじめ結界をかけとくとか、出来ることはやっておくけども、隙って言うのはどうやったって出来るし、相手方にだって魔術師がいるんだろうから陣を壊されたらおしまい。経験豊富な軍人を相手にするのに付け焼き刃の体術でなんとかできると思うのはなめすぎている。

 

 「どう、訓練したら言いと思いますか?」


 考え込んでいる間に食堂に着いて、今日はお茶もお菓子も頼むことなく椅子に座る。タイミングがいいのか悪いのか、時間帯的なものもあってがらんとした食堂に、私の声はよく響いた。


 「とりあえずはゼルガでもセルマでも、経験豊富な奴に話を聞きゃあ。最悪を想定して、どんな状況でもある程度対処ができるように準備を怠らんように。経験がないなら道具で補助するのもええし、セルマの師匠にでも頼んで融通してもらやあ」

 「それだけ、ですか」

 「今まで通り体術の訓練は続けるべきだに。それとは別に、これにはこれっちゅう動きを即座に判断できるようにせにゃ折角動けても意味がない............したら、ゼルガ辺りにでも頼んで不意討ちしてもらうっちゅうのはどうだがね」

 「どうだ、と言われましても」

 「俺がやってもええにゃけど、実はキュリーにおみゃあに近付くないわれとってな。実は今日来たんも、こないだは悪かったって謝りたかったんとキュリーに言わんように口止めにや。ゼルガなら暇だら。使い倒したらええに」

 「はあ」


 さらっといわれたなあ。口止め。

 まあ、もともという気はなかったからいいんだけど。

 それよりも、何かちょっと印象変わったって言うかなんていうか、キュリーたちから聞いてたエント様のイメージがボロボロ崩れた。一応、この間の件を悪かったと思ってるらしいし、前回だって今回だって、キュリーと仲の良い私に剣を向けるどころか嫉妬みたいな感情をぶつけてくることもない。前回の問答は嫉妬って言うより、子どもが親に何でなんでと質問をぶつけてくるような感じだった。下手に大人だから納得できるまで食い下がるだけで。

 何か、思ってるより常識人じゃない?

 単純かもしれないけど、たかが孤児の私に対して親身なアドバイスをしてくれたエント様を、私はあんまり悪い人だと思えない。そりゃ、口止め料ってこともなきにしもあらず。分かってるよ。

 でも、上手くすれば、意外とキュリーと仲良く出来るんじゃないかなあ。ルーセル先輩が絡まなければーーーってことは無理かな。


 「じゃあ、セルマ先生に相談して、ゼルガ兄様に頼んでみます。ありがとうございます、エント様」

 「.....構わんがね。んで、おみゃあがなんでキュリーに好かれとるか、教えてもらいたいにゃけど」


 さあって、来たぞ。この問答。

 まずは、本人に何が悪かったのか聞いてみよう。自覚があるかどうかって大事だよね。


 「あの、エント様は何でキュリーに嫌われてると思うんですか?」

 「俺だけ名前よんでもらえにゃあからや。目も合わせてもらえんし、近寄ろうもんならすーぐ殺気放ってきよる」


 違う。あれ、私聞き方間違えた?

 欲しい情報とは異なる答えに、もしかして原因も理解してないんじゃないかと不安になる。バカだバカだといいつつ、いや今も思ってるけど、ほんとに分かんないなんてことないはず。


 「そ、そうでなくて、ですね。その、原因はなんだと思うんです?」

 「............」

 「それが解決されないことには、現時点でキュリーに好かれるのは難しいと言うか、不可能に近いというか」


 黙りこんだエント様に、嫌な予感が膨れ上がる。この場合は、地雷踏んで殺されるんじゃないか。それとほんとにわかってなかったらどうしようっていう。

 もう一回言うけど、ほんとにわかってなかったらどうしよう。


 「............あのガキ殺しかけたことやろな」

 「あのガキ............ルーセル先輩ですよね。なんでそんなことしちゃったんです?」


 絞り出すような答えに、安堵6割、残り恐怖で踏み込んでみる。

 平成を保ってはいるけど喉がからからで、無意識にテーブルにのびた手は何も掴まない。ああ、今日はお茶ないんだっけ。


 そして踏み込んだ先の答えに、私は頭を抱えてため息をつくことになった。



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