第二十二話
あれからちょっと時間がたって、学園の教師陣に私がセルマ先生の弟子になったことが広まったようだった。別に意図的に広めた訳じゃなくて、キュリーに報告してるのを聞かれただけ。そこから色んな先生に、ほんとにセルマ先生の弟子になったのか聞かれてとっても面倒だった。だって、一回聞けば分かるはずなのに何度も確認してくるんだもん。正直うざ.........めんど.........耳が悪いんだと思う。
何でこんなにたくさん確認されるのか、意味が分からないんだよねえ。
「何を言っておるのだか。キーディアはルフェダオスの寵児であるゆえに決まっておろう」
「私はそんな大層なものじゃないですってば」
「これはルーセルの受け売りであるがな。本を読んだだけで自分の陣を生み出せるのは、魔術が確立されてから確認できているので十数人、らしいぞ? 3年の実技を受けられる実力があり、知識もそれ相応に有する.........それも、今まで師に教えを乞わず《・ ・ ・》に。これを知の神の寵児と呼ばずしてなんと呼ぶのかのう。月並みに天才と呼ばれたいのか?」
「うう.........そういう訳じゃ」
「教えられずとも出来たゆえに、在学時のセルマ先生やルーセルを置いてそう呼ばれるのだ。.........正当に自身を評価出来ておらぬ上の謙遜は卑屈と同義であるとわたくしは思う。明らかに力を持つものがその様子では、同学年が妬むのも仕方がない面はあるのではなかろうか」
それじゃあ調子に乗ってるって思われないかなあ。
魔術の歴史を習ったことはあっても、歴史って細かいところは教わらないし、私は歴史に興味がなかったから本を読んでも実用書ばっかりだった。何よりテストに出ないことを覚えてもしょうがないって言って知ろうともしなかったけど、ただ単に優秀なだけな人がルフェダオスノの寵児とか言われるわけないよね。それなら確かに師匠を持たないまま魔術が使えた私が大層なあだ名で呼ばれるのは当然の流れなのかも知れない。実感は全く沸かないけどね。
「.........キュリーの言う通り私はルフェダオスの寵児って言われてますけど、だけど何でそれがこの質問攻めの理由になるんです?」
「ほんに、キーディアは賢いにも関わらず抜けておるの。まあそこが可愛いのであるが.........」
そう、この事が広まりだした頃から、学校の教師陣はもちろんあったことないような学園外の魔術師たちがわざわざ私のところまできて確認してくる。聞いた話、セルマ先生のところにも毎夜お客さんが来てるらしい。何で夜かは教えてくれなかった。
キュリーとの訓練のために闘技場へ向かう道でやたら聞かれて、一人の大体5分くらい粘って聞いてくる。そういえば確認だけじゃなく、なんでセルマ先生を選んだかとかそういうことも聞かれた気がする。
「わたくしはキーディアが知らなんだということに驚いているのだが、まあそれは良い。実はキーディア争奪戦というものがあってのう」
なにそれ。
キュリーが言うには、私.........というよりルフェダオスの寵児を弟子にしたいと思っていた魔術師が水面下で色々争っていたらしい。なんで水面下かと言えば理由は簡単。私が師匠さんの申し出を断ったから、それに遠慮してたんだって。
魔術師の世界的には、所謂天才って呼ばれてる私を弟子にすることで自分の名誉になるし、天才がいることで研究がはかどるかもしれないとか何とか。正直なところ私が居たところで何が出来るわけでもないから、無駄としか言いようがないんだけどな。それでも魔術師たちは水面下でどうやったら私が弟子になるのか考えてて、計画はそれぞれ着実にたててたみたい。特に危険なのを最優先に実行されそうな計画は、セルマ先生とかルーセル先輩とか師匠さんとかが潰してくれてたらしいから、私がそれに気付かなかったんだろうとおもう。でも急に、私がセルマ先生の弟子になっちゃって、みんな慌てて確認に来てるってことみたい。
はあ.........私が思ってたより私って凄かったんだなあ。
調子に乗った発言だけど、こんなことになったらそうでも言わなきゃやってられない。
魔術の勉強をしていて、今でも思うのは魔力に量ってないんだな.........ってこと。
魔力は、もしかしたら多い少ないはあるのかもしれないけど、基本的に計ることは出来ない。そもそもが皆平等に持ってるものだしね。魔力って精神力とか気力っぽいものっていうのが私の解釈。魔力を使いすぎれば疲れるし、だるいけど死ぬことはない。だけど、魔力切れな状態って死体なんだよね。ただ、魔力が切れたから死んだって訳じゃなくて、死んだ生き物の魔力は魔素として拡散しちゃうから死ぬと魔力がなくなるってことなんだけど。
でも、じゃあ、何を基準に魔術師は弟子を取るのかっていうと、つまり計算能力だ。たぶん、彩音の世界の数学者とかがここに来れば、私でさえ天才と言われる位なんだし、ものすごいことになっちゃうと思う。あーでもそういう人たちってこういうとこ来ても信じられなくて発狂しちゃうかも? そうでもないかな。イメージでは世界自体を否定しちゃいそうだよねえ。でも、受け入れさえできればあとは、それこそチートっていうやつ? だろうなあ。魔力を計る魔術とか編み出しそう。むしろ作り上げて欲しい。
何でこんなこと考えたかっていうと、魔力に多少の差があるかは分からないけど、体力の違いは見れば大体分かるでしょってことが言いたかったから。
ねえ、キュリー? 見れば分かるでしょ? 私って普通の人間なの。だから、だからね。
これ以上やったら死ぬから!
「.........これでもかなり削ったのであるが.........キーディアはもっと体力をつけねばなあ」
キュリーはぼやくけど、そんな姿でさえ綺麗。
私と同じ運動量こなしてるはずなのに、かたや爽やかに金の髪を風に靡かせて微笑む美女と、だらだらと汗をかいて立ってられないから座り込んでる私。あー.........格差ってこういうところに出るよね。でも救いはキュリーが目立つおかげで私が横でどれだけへばっててもあんまり注目されないことかな。キュリーが目立つおかげ、いやあ目立つ友達がいるとね、存在感てあってもなくなるっていうかね。
今日はキュリーと体術の訓練。
実は私、この訓練で体術らしい体術習ったことないんだよね。
最初は、初めてだし運動神経も悪くはないけど良くもない感じだし、存在感なじゃなくてどっちかっていうと不器用だしで不安だった。だけど、キュリーみたいに動けたら気持ちいいだろうなあって期待もあって、ワクワクしてたんだ。
基本は受け身からなのかなって訓練に入ったけど、ほんとの基本は体力だよね。でも初日から各項目300回はおかしいと思うんだ。
私の体力は、孤児で動き回ってたこともあって学園の魔術師よりは多い方だと思うけれども。
「ですから、キュリー。たぶんキュリーの言うほど追い込まなくてもやっていくうちに体力はつくと思うんです」
「むう。そんなに体力を使うこともなかろうと思うておったが、キーディアの体力がこれほどないとは」
そうだよ、頑張ってこなそうとしてみたよ!?
だけどさ、運動してない人間がいきなりそんな量できるわけないし!
結局各100回にも満たなかった私に、キュリーはあきれたため息をついた。
騎士科と魔術科の基礎体力の違いって話じゃないかも。この人には常人と侯爵一家との違いっていうのが根本的に分かってないのかなって思った発言と態度だ。
あのあと、侯爵一家の訓練やその量がどれだけ過酷で多いのか、世間一般で言われていることを語ったけど、たぶんわかってもらえてないと思うけど、とりあえず体力と筋力をつけるってことになった。
だから今やってるのはただの体力作りと筋トレのはず。死ぬほど過酷な気がするけどね。まあ各項目で、目標100回。なら、ギリギリまで頑張れる。頑張れてるはず。
「では、そろそろ段階を上げるゆえ、今はまずわたくしの動きをよく見よ。その後同じように動いて貰う」
「あ、はい」
キュリーは、私が姿勢を正してからすぐに動いた。
脚は流れるように位置をずらして動く。全然力が入ってるように見えないのに、蹴った場所のえぐれ方からしてかなりの力が入っているみたい。
この闘技場は石畳に土を薄くひいてクッション性を持たせてるんだと思う。
私の目でも終えるくらいの、ギリギリの速さで繰り出された蹴りが、ちょっと尋常じゃない量の土を巻き上げて石畳を覗かせる。
手の動きはなんだろう。太極拳とかそういうイメージかな。脚とは対照的にゆっくりゆっくり、緩く動いてるように見える。かといってこれなら私にもできるかもなんて思うなんて出来ない。あんなにゆっくりなのにシュパとかヒュッとか、何を斬ってるんだろうって音は出せない。
じわりと両手が下ろされて両足が揃えられ、キュリーの見本は終わった。
無手の演舞を見た気分で楽しくもあったんだけど、出来るか? 私にも.........。
「これが基本の型。これが完璧に出来るようにさえなれば、人間相手ならばそれなりに逃げる時間は確保できような」
さあやってみろ、といわれてもなあ。
最初は、確か、脚を踏ん張って腰を落とす。うわ、筋トレのあとこの体勢きっつ! 空気椅子に近いなあ。それから、腕を一度上に伸ばしてから、ゆっくり落として肘は直角、だったよね。右手は二の腕を地面に平行に持ってきて、左手は肘から下を地面と平行に。
.........ぷるぷるする。
このあと、右足を引いて、両手をいれかえる、ん、だ、け、どお!
むに、という感触で、私はキュリーに受け止められていることを理解する。全体重をキュリーに預けているみたい。あー、私支えきれなくて転んだんだ。だけど、立ち上がろうにも足に力が入らない。うん、どうしようか。
「今日はここまでだな。キーディアにここまで筋力がないとは思わなんだ」
面目次第もございません。
あんまりキュリーが軽くやるから、油断してたなあ。ここまであの体勢が辛いとは思わなかった。多分に筋トレが効いてるからっていうのもあるけどね。
いつも、筋肉痛が残らないようにキュリーがマッサージとストレッチをしてくれる。筋トレでは使わない筋肉をつかったせいか、いつも通りのそれではあまり効果がないように感じるけれど、詳しいことが分からない私が口を挟むのも、ねえ。
数日キュリーの特訓を受けて、実はちょっと気になることがある。不満があるとかそういうんじゃないんだけど、ちょっとだけ確認したいなっていうかなんていうか。
「どうした?」
キュリーがマッサージをしながら聞いてくる。うーん、聞いてみちゃおうか。
「えーと、キュリーってこういうマッサージとか詳しいですけど、お家で訓練指導とかよくしてるんですか?」
「ん? いや、普段は稽古をつけられるばかりだな。基本的に我が家の訓練はエント兄上が担当しておるし、わたくしはまだ学生ゆえ指導に参加することは殆ど無いといっていい」
あああああ。やっぱりかあ。
キュリーの感じからして、指導慣れとかしてなさそうだったもんなあ。こう、自分が分かるから私も分かる。自分ができるから私も出来るっていう。出来る人の理論っていうのか、そんな感じがひしひしとしてたんだよ。
だから私の基礎能力で出来ることを上手く計れなくて、訓練計画がぶっ飛んでたり、さらっとやらせようとするんだと思う。
「へえ、でも、じゃあいつもはエント様に.........?」
「まさか。エント兄上などに指導などしてもらいたくもない。わたくしは父上に指導してもらっておるのだよ」
まあ、キュリーに教えるの下手なんて言うわけにもいかないし話をそらしちゃうんだけどね。
優秀な騎士だって優秀な指導者にはなり得ないよねえ。そもそも私は剣で戦いたい訳じゃないんだし、もしかしたらキュリーの最低限と私の最低限は違うから、その差がこういう状況を作ってるのかもな。.........まあ、私の努力不足を否定する訳じゃないけどさ。
そのあと、私とキュリーはマッサージやストレッチをしながら雑談をした。
内容はほんとに他愛もない。最近見つけた美味しいお店だとか、ルーセル先輩との手紙の話とか。女の子同士だから盛り上がっちゃって、私が動けるようになってもしばらく続いちゃった。
「大丈夫ですよ。学園内だし、送って貰うほどじゃありません」
「.........まあ、大丈夫であるとは思うが.........。気を付けるのだぞ」
「はい。キュリーも気をつけて下さいね」
キュリーは多分馬車が迎えに来てるんだろうけど、一応言っておく。ポンと私の頭を撫でると、キュリーはそのまま去っていった。
まだ夕方とも言えない時間、どちらかといえば来て困るのは魔術師の方だ。寮に着くまでにどれだけ時間がかかることか。
とか、思ってた時期もありました。
「おみゃあが、キーディアっちゅう奴け?」
私は黙って、自身の周りに結界を張った。
「何黙っとる。話さんきゃあ分からんがね」
「.........はい。キーディア、です。.........どちら様でしょうか」
出来れば学園の講師とかいってほしいんだけどなあ。この服装は近衛隊の、式典とかで良く見るきらびやかな隊服だ。
勲章とかからして、間違いなく、この男はキュリーの兄。
「俺はエント・ベルセルクル・レオナルド」
で、デスヨネッ!




