第十八話
書き上がったので出勤前にあげちゃいます。
何でも国立ルフェダオス学園4年生には、特別な行事があるらしい。それは基本的に討伐演習に向かう班ごとに行うもので、それを達成できなければいくら成績がよくても卒業を認めてもらえないらしい。細かい内容は班ごとに微妙に違うみたいだけど、毎年厄介なことには変わりないらしい。
さっきかららしいってことしか考えれてないけど、三人から聞いた内容がそうなんだから又聞きの私もそうなるよね。
その行事っていうのが国軍の訓練への参加。
先輩たちが調べてきた内容によれば、試験変更の原因はこれなんだって。
学年を越えてのペアっていうのはそうあることじゃない。基本的に実力の見合った同じ学年同士で組むことが多いし、カリキュラム的に討伐演習に出られるような実力がつくのは2年からっていうのが普通。ほとんどの生徒が大体それくらいで自分のペアを見つけるんだけど、もし違う学年で組んでペアの相手が参加を認められなかった場合、上の学年の人はそのペアのために討伐演習が出来ないってことになる。今まで一学年違うペアならたまにいたらしいけど、それだってかなり珍しいんだって。そういうペアは研究タイプの魔術師だったって言うこともあって、行事に参加しても裏方で魔術具弄ったりしてるだけだから問題かったみたい。それでも普通なら同学年でペアを組んで、下の学年が演習に行けるようになったらパーティに参加させるのが一番時間を無駄にしないし、現に大所帯のパーティはそうやって代替わりしつつやっていってるらしい。
で、私たちペアは二学年離れちゃってる上に実戦タイプのペアだから、学園側は私をその行事に参加させるか否かを検討しはじめたんだと思われる。
学年的にみれば、さすがに2年を参加させることは出来ない。けれど、私を含めた4人で動いているパーティのメンバーを一人減らしたことで、残った三人が実力を発揮できない可能性ももちろんあるし、特にペアを組んでるケーン先輩がひとりでは連携も何もあったものじゃない。じゃあ別の誰かをペアに、と思ってもケーン先輩の立ち位置的なことを考えると魔術科の貴族が群がるだろうことは目に見えてる。
それじゃあ参加させるかとなったときに、本当に大丈夫なのか?という疑問がうまれた。私にはそれに足る実力があるのかっていう疑問。誰でも思うだろうけど、それでも学園側は、実技や成績を見る限り大丈夫だろうって判断して軍部に申請書を提出した。
だけど、軍部はそこまで私のことを知らない。成績に現れてはいるけどそれは書類上のことで、到底ついてこられると思えないって突っぱねて来たんだって。で、この時にその判断をした人は別の学校に通ってたかなんだかで、ルフェダオス学園は実力がないものをどうのこうのって言って来たらしい。もうこの辺は曖昧にぼやかされたけど、つまり馬鹿にされたと、誇りを傷つけられたと判断した学園側は軍部に、誰の実力がないだって?こちとらルフェダオスの寵児出してやるっつってんだよ、と挑戦状を叩き付けた。
そこで、パーティメンバーの手助けなしに、突然の試験変更にも対応できる実力があるなら行事に参加させる。落ちるようならケーン先輩には別のペアを用意し、私を外して行事に参加させるという契約が、学園と軍部の間にあったらしい。ついでに言えば、老師がわざわざ出てきたのも現在在籍している教師だと不正が行われては軍部につたわらないから。そのためにわざわざ老師は、お孫さんと涙を飲んで離れ、更にどちらにも肩入れしないって誓約までして試験官をしてくれたらしい。
学園と軍、私と老師を巻き込むなって言ったら、ダメかなあ?
まあ、無事に2年生へ進級できた私は、今現在、膨大な量の宿題にひいひい喘ぎながら、自室にこもって勉強してます。授業で出た宿題じゃなく、ルーセル先輩に出された宿題。.........むしろここまでくると夏休みの宿題なんて目じゃない過酷さだなあ。前世であれだけの宿題でも何でこんなにたくさんあるのって文句言ってたのを、私は心から謝りたいと思うよ。
それ以外でも頭にぐるぐる回ってる言葉はあるけど、まだ考えちゃダメだ。集中集中.........。もう、どうしてこんなことに。
とりあえず頭を整理しないと集中出来ないよねと言い訳しながらペンをおいて、私は今日一日を思い出した。
少しだけ過去に遡る。
ルーセル先輩に頼んだのは追跡魔術の計算を教えてもらうだけだったはずなんだけど、その行事に私が参加するという可能性が出てから、顔を真っ青にして師匠さんに連絡を取って、何十冊と魔術書を送ってくれるように頼んでいた。明日にはきっちり調べてくるからと、その場は解散になって魔術書を送ってもらう意味はわからないままだった。
聞いた通り、私が行事に参加することはふざけた契約のせいで確定事項。今日それを伝えに来てくれた時にはもう両手に紙袋ひとつずつと、更に後ろにキュリーが押している台車一杯の魔術書が私の部屋に運び込まれてた。
ええー、と。これ、全部追跡魔術の参考書なのかな?まさかそんなわけあるまいし.........じゃあ何事?
とりあえず招き入れて、師匠さんからテスターがてらにもらった保温箱から紅茶を取り出すと振る舞う。
「.........ディア、キュリーのお兄さんで会ったことないのは誰?」
「え?えーと、一番上のお兄さんですかね」
「.........ああ、あれは会ったに入らぬよな」
「え、何ですかそれ」
気づかないうちにすれ違ってたとか?
え、物陰から眺めてただけとか聞こえたんだけどなにそのホラー。
「長男のエント様は.........キュリーが本当に好きなんだよね」
「わたくしも困っておるのだが、兄上方が基本的に、その、わたくしを好きすぎることは、キーディアも知っていよう。ゼルガ兄上やティルダ兄上、ネイス兄上はわたくしの好むものは.........不可解ではあるがルーセル以外は認めてくださる。が、エント兄上は激しく嫉妬をするゆえ、今までわたくしがキーディアに近寄るなと言い含めておったのだ」
だから物陰から.........。や、眺めちゃダメでしょ。接近禁止されてたんなら。
「あの行事にディアが参加することになったなら、基本的には僕を標的にするだろうけど、もしかしたらディアだって狙われるかもしれない。異例の参加になるからよくも悪くも注目を浴びるだろうし、そこで無理難題を押し付けられて出来ないからって僕ら全員を落としかねないひとなんだよ」
「わたくしもやめるように言い含めておるが、ルーセルのことではまったく効果がなかったゆえ、今回もあまり意味が無さそうなのだ。力になれず申し訳ないが、キーディアが4年以上の実力を身につけておらぬと、どうにも何かやらかしそうでのう」
えっとそれは、みんなの卒業が私にかかってるってことなのか?
「もちろん気に食わぬからといって不正をしたら二度と兄上と顔を合わさぬと言っておいたから、行事をこなせればそれ以上のちょっかいはかけてこぬと思うが」
「あの人に認めてもらおうと思ったら、想定は高ければ高いほど良い。だから.........」
ルーセル先輩は三冊、紙袋から選びとるとずいっとこっちに差し出してきた。キュリーは遠い目をしながら必死に目をそらしてる。いやまあキュリーの家族の話だもん、そうなるだろうねえ。ああ、でもやっぱりキュリーって綺麗だなあ。死ぬほど強いし、圧死とか絞殺とかの不安を感じたりもするけど、これだけ生粋の貴族にこういう風に接することができるようになるとは思わなかった。
とまあ、キュリーについて考察したわけだけど、私も必死に目をそらしてたわけで。
だって、さっきの話からしたらルーセル先輩が持ってきたのって、最低でも4年生で勉強するはずの魔術書なんでしょ?差し出された三冊は、無属性魔術、同時撃ち(5属性以上)計算について、例外的な属性魔術っていう題名のの本だ。一冊目は私が頼んだことだしいいとして、5属性以上って何だ。4属性だってまだ使えないのに。そんでもって最後の例外的な属性魔術って、それって上級も上級の魔術じゃないか。特にこの三冊は、今まで私が勉強してたことが高校から大学前半レベルだとすれば、たぶん大学院越えて下手したら教授の研究に相当するレベル。
これ、4年以上の実力っていうかさ。
「行事は夏。だからそれまでに、ここまで使えるようになっておけば安心だから」
だからちょっと待て。
このレベル使えるようになったら、普通に最高学府のこの学園で教壇に立てるって。本気でそこまでしないとヤバイ訳なの?
「エント兄上とルーセルがはじめて顔を会わせたときは.........ルーセル、生きておって本当に良かった.........」
「あのときは、僕ももう死んだと思ったよ.........」
「血塗れで倒れておるから、わたくしも思わずエント兄上に斬りかかってしまいそうになったしのう。他の兄上方に押さえられておらなんだら、加勢もできたであろうに。母上に助けられ身を隠してから3日も目覚めぬのだから、あのときは焦ったぞ」
「でも、あのときがあって僕はもっとキュリーのことを好きになったんだし、エント様に会うたびに死ぬ思いをしてもキュリーがいるだけで僕は幸せだよ」
「わたくしも、ルーセルが後ろを支えてくれるからこそ闘おうと思えるのだ。愛しいルーセル、血を流し腕がもげようとも、わたくしは二人のために剣を取ろうぞ」
「キュリー.........愛してるよ。僕も二人の未来のためにエント様に殺されないようにするからね」
私、なめてたかもしれません。
いくらシスコンったって、さすがに友達を殴ったり蹴ったりはしないでしょ。って思ってたんだけど、これは認識を改めるべきだとピンクの空気をスルーしながら確信した。
ルーセル先輩は、確かに特別激しい嫌悪の対象だろう。
何せ愛しい妹に付いた悪い虫、兄様方にしてみれば排除すべき対象だ。出来れば死んでくれないかなあ、くらいの攻撃が入ったのは.........理解も納得も出来ないけど、そんな人たちならあり得るんだろうってことにしておく。
さすがに私に対してそれ以上のことはしてこないだろうし、少なくとも私の場合は、ゼルガ兄様とティルダ兄様、ネイス兄様が敵にならないけど、それ以上はしてこなくてもそれ以下の可能性は十分にあるよね。
ルーセル先輩が生死の境をさ迷ったってことは、例えば"療養の必要はあるけど死ぬほどじゃない"状態にされるとか、もしくは"怪我自体は大したことないけど精神的にキュリーと一緒に居られない"ようにしてくるってことも考えられるなあ。キュリーとルーセル先輩はそれが逆効果だったみたいで、逆に燃え上がれたようで結構だけど、私がそれに耐えられるかはやっぱり疑問が残るよ。
しかも、おあつらえ向きに舞台は軍の訓練だ。エント様は確か王太子様の近衛隊隊長だったはずだけど、侯爵家はほぼ全員これに参加するらしいから、ちょっかいだそうとしたら出せる位置にいる。.........なんか、私ってもうまな板の上に寝かせられてない?飛んで火に入る夏の虫とかそういう感じをひしひしと.........。こんなことなら、試験に合格しなきゃ良かったと思ってしまう。いや、それはそれで困るんだけどさ。これじゃ無事合格とは胸はって言えなくなってる。
「それと、キーディアには護身術の訓練もしてもらわねばならぬ」
「へ、護身術?」
「2年になると、体術の授業があるんだよ。生身で戦うようなことになったら魔術師としては死んだも同然だけど、まだ逃げる余地があったときに体力筋力全くないモヤシです、じゃ困るから」
「魔術師の平均よりは体力があるようだが、もう少し体捌きを覚えても損にはならぬ。夏まであと半年もあれば、多少は使い物になろうぞ」
「とりあえず今日はこれを置きに来ただけだけど、明日から一日交代でセルマ先生とキュリーが特訓するからね」
「は、はあ」
「それから、演習日程は変えぬゆえ、実戦でもいくらか指導することになろうが、しっかりな」
「はあ。私も死ぬのは嫌なんで頑張りますけど。何でルーセル先輩じゃなくてセルマ先生なんです?」
この流れだったら普通ルーセル先輩とキュリーで教えてくれるんじゃないだろうか。ここでセルマ先生になる理由がさっぱりわからない。エント様から身を守るのにこれだけの力が必要なら、ルーセル先輩だって間違いなくもう修めてるはず。いくら上級の上級だって、ルーセル先輩も教えられそうなのに。
まあそもそも、学園でだって例外的な属性魔術.........時属性のことだけど、それを習うことはない。扱いがかなり難しいらしくて、師匠から弟子にゆっくり伝えられるものだって聞いた。概要はここにあるように本にもなってるんだけど、これを見て使えるようになったら前代未聞の天才って言われるくらい複雑で難解なんだとか。
こういうと、確かにセルマ先生に頼んでもおかしくないんだけどさ。
「..................ディア」
「はい」
「僕はこれから、演習以外は実家で師匠と修行なんだよ」
「ルーセル先輩が、修行?」
あまりに悲壮感漂う声に、むしろ今からエント様に会いに行くのかと思った。
暗雲と人魂を背負ってるように見える先輩は、うん、と頷いて説明してくれた。
もし仮に、ルーセル先輩がエント様に負け、殺されたとして。
キュリーはもちろん悲しむ。そして、エント様を殺してわたくしも死ぬ、とか平気でやりそう。これにうんうん頷いてるキュリー?え、そうだっけ?わ、わたし知らないよー。
.........で。ルーセル先輩を跡取りに据えているミュゼ子爵家の、当主である師匠さんの溺愛する奥様は、その跡取りと婚約者を、これでもかというくらい愛している。彼女が息子たちを失ったときの悲しみを思うと、奥様を溺愛する師匠さんは奥様が悲しまない方法はないかと考えたらしい。そこで閃いた、というか当然の話なんだけど、ルーセル先輩が死ななきゃいい、って結論に至った。最初はキュリーの兄たちを全員、呼吸が出来なくしてやればいいって思ったらしいけど、そこまでやるにはさすがに侯爵様に悪い。じゃあルーセル先輩を鍛えて殺されないようにしちゃおう、ってことで、地獄の特訓が始まった。
最初は私みたいに知識を詰め込むことから始め、今では実戦的に、師匠さんに追い詰められる修行らしい。
学園に入学してからはこの長期の休みだけ帰って修行しなきゃいけないらしくて、私のことまで考えられる余裕はないから、兄弟子であるセルマ先生を頼った。
ってことみたい。
師匠さんの思考回路が全くわかんないんだけど!何、呼吸できなくするって。何でそこだけ遠回しなの?最初からルーセル先輩鍛える結論に持ってこうよ。って思ったけど、そうなんですか、と返事するだけに留めておいた。何かね、もう突っ込んだらまずいっていうか負けっていうか、ね。よくそんなひととかありえないシスコンに囲まれて育って同じように歪まなかったよ。歪んでないよね?あれ?
でもこの時のルーセル先輩たちは、ちょっとおかしくなってたんだと思う。普段だったらこんなミスするようなひとたちじゃないし。
「ディアも前に兄さんの弟子になりたいって言ってたんだし、ちょうどいいから弟子入りしちゃえばいいよ。じゃあ、これと、これとこれ、それからこれも。明日までにある程度理解しておいてね。兄さんは午後には教室にいてくれるから。じゃあ、僕たちはこれで」
「邪魔をしたな。わたくしの事情で申し訳ないが、頑張ろうぞ。では」
先輩たちが出ていくのを見届けて、私は手渡された本を開いた。
ぱっとみるだけでも、今の私にはちょっとレベルが高くて、すぐには理解できそうもない。でも、それよりも。
「まじか.........」
私が弟子入りしたがってた魔術師って、それはひとりしかいない。あの魔術師だけ。
それがつまり、セルマ先生ってことだよ、ね?
えーと。
ビックリしすぎて、正直どういう反応したら良いの分かんないや。




