第十七話
やっと投下です。
「ひゃっ!ひょ.........ちょ、うわっ」
私にアクロバティックな避け方は無理っ!
縦横無尽に跳ね回る的を必死で避けながら、陣を描く。けど、陣が完成する前に向かってくる的のおかげで最後まで描ききれない。編みかけの陣が、@のaだけが様々な色で浮いている。結界はギリギリかけれたからその部分なら平気だけど、後ろ側面から来ると直撃だ。
床にめり込む的なんて当たったら私、即死する。
正面には結界、横から来るのを後ろに飛ぶっ!.........っ!くう、勢い余ってこけるとか.........。結界には跳ね返るみたいだし、なら出来れば床に落としたいんだけどっ。
「何が、特別にした、から、ね.........だよっ!」
悪態をつきながら反射した的を横に転がってよけた。
「なんだっけ.........物理で、入射角と反射角だっけ。これって丸無視.........してんじゃないってばああ!」
光属性の魔術を、マシンガンみたく撃つように編んで、陣そのものを動かしながら的を狙う。
真横にまっすぐ飛んだ的が結界にぶつかって、地面の、それもあたしに向かって飛び出すとかあり得る?普通!この結界は四角くて、ぶつかった感じ固いし、普通なら同じ方向に跳ね返るもんでしょ!.........私の記憶違いかもしれないけどさああ!
「くうぅ.........ふっ」
結界に背中を預けて、もう1つ陣を描く。
中途半端だった結界を全身を覆うように補強して、散らばってる陣の魔力が枯渇しないように補給しながら移動する。これで、なんとか当たっても即死まではしないはず。だと思う。
床にめり込んでも平気なあの強度からして、的にはたぶん物理攻撃に対する結界もかかってる。けど、それは形を保つだけのもので一気に畳み掛ければ壊せるぐらいに見える。たぶんキュリーとケーン先輩なら、一撃で壊すんだろう。ルーセル先輩だと追跡魔術で追いかけ回して、追い付けば一発。それくらいの強度だと思う。ただ条件がついてるのか、結界にはゴムボールみたく跳ねるんだよね。結界で囲いこんで中で破裂させることも考えたけど、あの速度を捉えるのは難しい。
問題は逃げ回る速度なんだよ。ギリギリ目では追えるけど、計算が間に合わない。
追尾するかあの速度以上の速さで魔術を撃つか、罠を張るか。前者2つは無理。そもそも使えないし、今以上で計算とか頭パンクする。計算にもよるけど、きっちり理解して訓練した魔術の計算速度に関してだけはルーセル先輩や一部の教員だって上回ってるのに。やっててよかったよそろばん.........。
まあ、一番良いっていうか出来るのは罠を張ること、かな。
今残ってる陣は光、風、重力、水、土の5つ。ただ単に正面に向かって撃つっていう陣だから、罠としては微妙に使いにくい。魔力に余裕があるうちは残しておくとして、他に罠を仕掛けなきゃいけない。罠なら地雷か時限か.........ああもう。
またも動き出した的に、思考は中断させられる。
罠を仕掛けるなら、もう一回、あれが動きを止めた瞬間かな。
タイミングを見計らって、私は的を狙う。避けられてる訳じゃないのに、当たらないってすごいストレスだわー。右足でブレーキを掛けて無理やり反転する。跳ね返って正面から来た的を地面に叩き落として距離をとると、おまけにもう一発叩き込む。
方向転換したときにちらっと見えたけど、こっちは必死に走ってるって言うのに、老師は舞台でも観劇してるみたいにくつろいだ体勢だ。椅子に座ってゆっくりしてるみたい。表情まではわかんないけど、もしかしたら寝てるか、笑ってるっぽい。
くあー、ムカつく。ムカつくけどゆっくりムカついてる隙がないのがムカつく!
方向的に使えそうだったから残してた土属性、水属性を発動させて、更に時間を稼ぐ。ぶつかると即座に結界が作動するように陣を描いて、地雷式の罠をいくつか設置。
「上手くぶつかってくれればいいんだけど」
2,3個描いたくらいに、的がぐっと動き出すのが見えた。
めり込んでいた的は、どんな動きかポンと床から抜け出すと一瞬滞空して、私に向かって加速した。狙いは私だって言うみたいに.........。
あ、逃げてるんじゃなくて狙ってきてるのかな?そう考えれば跳ね返る角度がおかしかったりするのもわかる。や、勢いでそのまま進んでいかないのはおかしいと思うけどさ。
これなら、残ってる陣も有効活用できるかも。
とりあえず、罠を張りながら走り回んなきゃいけないか。マッスルな魔術師じゃないし、さっきまでもやたら走って逃げ回ったし、体力使うのはあんまりやりたくないんだけどなあ。
私は覚悟を決めて、陣を描きながら走り出した。
「あ、キーディアちゃん。おっかえりー」
「疲れたであろう、茶でも飲むか?」
「ディア、随分消耗してるね。そんなに難しかったかな?」
ええ、ええ。
順当に進級してったら難しくはなかったのかも知れませんけどね!
好意に甘えてキュリーの隣に腰掛けて、行儀悪く突っ伏した。もう無理。一年分くらい走った。この世界に世界陸上とかあったら、今なら見るだけで吐ける。正直老師が治癒してくれなかったら絶対吐いてたし、体だって酷使しすぎて動けなかった。.........元凶なんだけどね!
よし、少なくとも1週間位は休もう。金銭的に討伐演習には出なきゃ厳しいけど、もう暫くは授業だってないし、その期間くらいは寝倒してやる。
「難しいって言うより、私には鬼畜でしたよ」
「どんな内容だったんだよ?」
ケーン先輩が聞いてくる。私を背負ってあの速度で走れる人なら大変でもなんでもなかったんだろうなあ。思わず恨めしげな目で見ちゃったけど、体力つけろってことなのかなあ。
結局あの的が壊れたのは、短時間で最大威力を発揮できる光の属性魔術で罠を張って、それを十数発命中させたくらいだった。
あの的は条件付きの結界と、私がまだ使えない追跡魔術、つまり対象物を追いかける魔術がかかってた。最初床にめり込んだときはそんなに威力があったわけでもなくてすぐ追いかけてきたから気づかなかったけど、一度動きが止まると浮いて対象物をロックオンし直す仕様だったんだろう。だから私はぐるぐる逃げ回りながら何十発と縦一列に陣を描いて、自分と的の間に来るよう 誘導した。
陣っていうのは物理的に隠す以外は魔術師には見えちゃうものだから、対人っていうか対魔術師だと使えない。だけど思考しない相手なら意外に有効だった。魔獣には見えるのと見えないのといるから一概には言えないけど。
っていうか、もうほんとに、信じられないくらい走った。前世に比べて基礎体力とか身体能力は格段に上がってる自覚はあるけど、それメインに鍛えてた訳じゃない。いくら実戦向きの魔術師だからってあれはない。もっと熟練すれば結界と同時に魔術で補助出来たかもしれないけど、今の私に魔術で補助できるほどの余裕はなかったよ。
全員からお疲れさまって労ってもらって、冷たい紅茶を飲んで一息つく。一応合格はもらったし、進級は出来るはずだ。
「なあ。結局キーディアちゃんは何年になるんだ?」
「普通に2年生ですよ.........ね?」
「だが、実技では4年への進級要件は満たした訳であるゆえ、それも断言しかねる状況ではあるな」
「うー.........。でも私、筆記は1年生で受けましたよ」
「.........僕もちょっと意味がわからないんだよね。まあ、僕が飛び級させたくて動いていたけど、それだってほとんど相手にされなかったし」
ええ、ええー?
そういうことやってるから腹黒王子様なんだよこの人。.........うーわ。微笑まれたー。思考くらいは自由にさせてほしい。っていうか私そんなに分かりやすいのかな。顔に出してるつもりはないし、読まれやすいほどの癖があるとかだったら魔術師としてはちょっと不味いかも。
「誰が、何の目的かわからねえのが気持ちわりいよなあ」
「そもそもディアを飛び級させることでメリットがあって、学園に働きかけられるっていうと実家含めた僕らと、ミレス伯、くらいしか今の状況じゃ想像つかないけど」
「皆.........何もしてませんよね?」
「少なくともミレス伯閣下はなにもしておらぬはずであるがの。後見だからといってそこまでのことをするにはリスクが高すぎようて」
そっか。いくらそれができる力があっても、したあとのことを考えれば迂闊に手が出せない領域が学園なんだっけ。それに、裏から手を回せば簡単に飛び級させることが出来るなら、そもそも貴族が平民やら孤児やらの後見を進んでするわけないよね。ミレス伯は基本的に典型的な貴族だし、爵位にしては結構な権力持ってるけどそこまで私に対して働きかけないだろう。現状分不相応とはいえ、大層なあだ名をつけられてるわけだし私にテコ入れする必要性は感じないと思う。
これで私の後見人説は大分可能性が低くなった。だけどむしろそうなったから特定が難しくなった気はしないでもないけど。
「モスバーグならともかく、ここじゃ俺に学園に作用する力なんてねえからなあ」
「わたくしの家は、やろうと思えば出来なくもない.........が、まあ知っての通り、わたくしたちが権力を利用するなど王家や国に関わること以外はないな」
「動機としては僕の家が一番高いけど、正直そこまでの力はないからねえ」
先輩たちは揃ってため息をついた。
ほんとに情報が無さすぎる。言葉にすれば、ただ一年の私が四年の進級試験を受けただけだからなあ。これだって学園が飛び級を認める訳がないんだから、仕向けた相手もその目的も推理なんて出来ない。よく某係の眼鏡の刑事とか、計算式で事件を解決する学者さんとか、刑事のお嬢様が主人の執事さんとかならわかるのかもしれないけどね。
「じゃあもうお手上げってことですよね。あ、学園に問い合わせてみたらどうでしょう」
「現時点でディアが説明されてないんだったら、あんまり期待しない方が良いかもしれないけれどね。一応しっかりした書類で問い合わせてみようか」
「んじゃ、とりあえずその辺はおいといて、冬期休暇の予定でも立てようぜ。いくつか良さげな演習内容持ってきたし」
ケーン先輩が、脇によけてあった紙を真ん中にずらす。
見事に討伐数が多いのばっかりだなあ。確かに、あればあるだけ私の生活に余裕は出る。だけど3人はそんなこと気にする必要はないのに付き合ってくれてるんだよね。核は基本的には4等分するんだけど、割りきれない端数は私に配分してくれるし。
場所はカイル森林が多いのか。あそこは不思議な場所で、異様に魔素が少ないのに魔獣発生率が高い。私たちが前に遭遇した世界樹は、カイル森林では土地柄芽吹くことが出来ないからあそこまで大きな森林になったんじゃないかって何かの本に書いてあったな。
加えてカイル森林は、エーネオよりも温暖な気候帯だから冬でもそんなに雪が降らないし、寒さも厳しくないからこの時期の学園生はここで演習することが多いんだよね。
「需要が多いと供給も多くなるよねえ……」
ケーン先輩が言うだけあって、ある内容は全部条件が良さそうなものばかり。
「この、アクッラ湿原ってどこにあるんですか?」
「カイル森林越えた辺りだな。国ひとつ越えるからかなりの長旅になるし、キーディアちゃんは俺らと違ってまだ座学がいっぱいあるから避けてたんだけど、この時期ならなんとかなるだろ?だからどうかなって持ってきた」
「それに湿原に出る魔獣は平原と違う属性だったりするし、動きが遅い魔獣が多いから追跡魔術の練習には最適だよ。ここにするなら計算教えるけど、どうする?」
「ここにしましょう!」
くう、やっぱり私って現金だよね。分かってる、分かってるけど、今の私は魔術オタクだからしょうがないの!しょうがないよね!追跡魔術の計算さえ理解しちゃえば同じ要領で無属性の勉強も進められるし、練習場所も確保できる訳だから一石三鳥だ。ルーセル先輩が言ったみたいに、平原や森林に出てくる魔獣は動きが速いものが多いから練習には確かに向いてないしね。
「キュリー、長旅ってどういう準備したらいいんですか?」
話をふると、顎に手を当てて考え込んでいたキュリーはゆるゆる顔をあげて、言いにくそうに口をつぐんだ。準備するものってここじゃ言いにくいものでもあるのかな。
ルーセル先輩がどうしたの?と尋ねるけど、キュリーはやっぱり言いにくそうに口を開閉する。なんだろう。言いにくいなら言わなくてもかまわないとは思うのに、こうも思わせ振りな態度はどうしても吐かせたくなる。
しばらく待ってみると、意を決した顔でキュリーが話し出す。
「先ほどの話に戻るのだが、わたくしたちは目的を定めすぎていたのではないかと思ってな」
「へっ?」
「仮にキーディアの試験変更の目的が飛び級ではなく、何か他の試験を兼ねていたとするならば。ルーセル、ケーン、わたくしにはひとつ思い当たるものがあるのだが、二人は思い付かぬか?」
「あ.........!」
「あー.........」
先輩たちは何か納得したようだけど、私にはさっぱり分からない。
空気を読んで、もうちょっと待って見てから聞いてみよう。
決して、決して聞いたらいけないような気がする訳じゃないんだからっ!




