第十五話
すみません!
やっと復元、15話です。
おまたせしました。
お楽しみください!
「何、言ってるんですか?」
「いやあねえ。お話はちゃんと聞くものよ?」
「出来れば聞き間違いだと思いたいんですが、もう一度言っていただけますか?」
「だーかーらあ、『魔術科1年キーディアは、3年次の実技試験を受けること』って伝達。分かったらさっさと移動しなさいねえ」
ちょっとおおお!!!
私が今いる1年次の実技試験会場は広い学園内の西端にある狭い闘技場だ。
騎士科、魔術科が同時に使うこともあって、学園には闘技場が多く作られている。それぞれに番号が振られているとか名前があるとかされてないのは、基本的に学科学年で使う場所が分けられているから。だから、私は実技試験の今日、1年次の試験会場である闘技場で試験官を待っていた。
昨日のうちに復習して、どんな試験であっても大丈夫なように準備はしていたから、他の魔術科生のように今魔術書を広げる必要がなくって、正直さっきまでは暇だなとか思ってた。だってやることないし。同じように暇なのかうじうじ言っていた人達もいたけど、あの二人で鍛えられたスルー能力に勝ってくるような真新しい嫌みもいやがらせもなくって、ほんとに暇だったんだよ。
でも、そうやって相手にしてなかったせいでこうなったんならこれからは全力で相手してあげても良い。
何だってそんな伝達を試験当日にするわけえっ!?せめて前日に分かってたらそれ用に復習したのにっ!!
やって来た試験官が開口一番、そう告げてくれたせいで、1年はちょっと騒ぎ出してた。学園は飛び級を認めてないから、通常なら進級試験はどれだけ実力があろうと学年に合ったものを受けるからだ。今回のこの伝達が、間違いなくおかしいものであることは私だけじゃなく、一年全員が分かってる。だって、2年次の実技を受けている子達は数名いるんだよ。私だけがそうやって伝達されるのは何らかの力が働いたと考えるのが妥当だ。考えられるのは私のパーティの3人ぐらいだけど、なんか、ねじ込めそうで疑わしい。かといって、昨日行われた筆記は1年次のものを受けたし、いくらあの3人が特例で飛び級させようとしたってもう無理なはず。なら、無駄なことを彼らがするとは思えない。
さっぱり読めない。誰がどうして、しかもどうやってこんな状況にしたのか。
「キーディア、急ぎなさぁい」
試験官に促されて、私はぱっと顔をあげた。
ぺこりと一礼して闘技場を飛び出すと、東方面へ真っ直ぐ突っ切る。目指すは正反対の位置にある3年魔術科の闘技場だ。
学園の敷地は、きれいな円形に整えられている。
真ん中に講堂や食堂なんかが入ってる巨大な建物があって、その周りに4つの校舎が等間隔に並んでるんだよね。正門のある南側は普通科、北側は医学科、西側は騎士科、東側が魔術科の校舎って決まってる。で、更に周りにはアナログ時計の数字みたく、等間隔に計八個の闘技場が設置してあるんだけど、偶数学年と奇数学年でそれぞれ対極になるようになってる。だから、私は今全力で走ってるんだけど!
本来なら別学科の校舎って用がない限り入ることってない。ああもう、恥ずかしい。魔術科だってすぐにわかるし、騎士にしては足が遅すぎる。すれ違った騎士科生がびっくりしてるのは分かったけど説明してあげる余裕は今のとこないんだよ!
「うあっ!?.........キーディアちゃん?」
「っ!.........マッグ、ケーンせ、ぱい」
階段を、魔術で補助して飛び降りたら、目の前にマッグケーン先輩が現れた。危うくぶつかりそうになって、後ろに倒れかけたのを先輩に支えられたみたい。走ってたからなのか驚いたからなのか、心臓がおかしいくらい早く鳴ってる。間違いなく両方原因だけど、息が整わないのは後者のせいだとおもう。
「キーディアちゃん、何してっていうか、かっる!!え、軽すぎねえかこれ」
「あ、今は魔術で、補助してますから.........先輩こそ、なんで、ここに?」
「キュリーと試験官の試験が終わらねえから、順番待ちの間に倒された奴等を医務室に届けてきた。試験官ってキュリーの兄貴らしくてさあ。ゼルガ君と一緒で容赦ねえから、一発で終わらされた奴すげえ多いぜ。あー.........やる気失せるよなあ」
たぶん、すぐ上の兄様だろうな。近衛の長男は来るはずないし、次男は傭兵だし、三男は諜報部だから表には出てこないはず。
マッグケーン先輩の目が死んでるのはゼルガ兄様の稽古を受けたからだよね。休み明けのマッグケーン先輩はほんとに真っ白に燃え尽きてた。
「あっ!」
「ん?そうだ、キーディアちゃんはなんでここにいんの?試験は?」
「そうですっ!急いで行かなきゃっ!」
「は?」
「すみません、私はこれで失礼しますっ」
申し訳ないけど、マッグケーン先輩に構ってる暇はないんだった。自分の順番がわからない以上、早くつくに越したことはない。
「ちょおっと待った!」
走り出したらすぐに、先輩に捕まえられた。
ぐえ。首根っこ掴むのはやめてっ!
「っと悪ぃ。急いでんなら乗ってく?たぶんキーディアちゃんが走るより早いぜ」
先輩が持っていたのは、怪我人を担ぐための魔術具だった。
この魔術具には軽量化の術や不動の術などがかけられてる。実際軍では、行軍のときにこれの大型版をつかって物資を運ぶんだけど、術が恐ろしく高度で数があまりないから、学園では怪我人運搬用に数個あるだけ。しかも、鍛練のためとかいってほとんど使われることはないってキュリーは言ってた。
なんて都合よく、と思わなくはないけど、これがあれば気絶してる大の男3人を背中に背負って走れるって言うんだから私なんて楽勝だよね。大量の気絶者を運ぶことになった試験前のマッグケーン先輩は、試験前だってことを主張して無理やりかりてきたらしい。あのまま倒れてたら死傷者が出るってどれだけ激しくやりあってるの.........?
試験については先輩の順番はもともと最後の方で、怪我人を運ぶので一番最後に回されるらしく気にしないで良いと言ってくれた。ので、ありがたく担いでもらうことにした。目的地を伝えると軽くうなずいて、私なんか目じゃない速度で走り出す。
必要そうな術を思い出そうとしたけど、えーと、何が必要なんだろう。
ああ、こんなことなら昨日、試験のためにって1年用の魔術書を読み返すんじゃなかった。欲望に負けてルーセル先輩の本読んでたらこんなことになってもまだ安心だったのに。前に教えてもらった試験内容だったら、結界張ったり逃げたりする的を消滅させる、なんだよねえ。結界はたぶん何とかできる。綻びさえ見付けられれば壊すことはそう難しくない。はず。
ただ、逃げ回る的はどうしよう。
追跡魔術は試験が終わったらゆっくりやろうと思ってた所だから、何にも理解してないんだよね。無属性ってやたら難しいから概論すら分からない。そんなのを試してみることなんてできないしなあ。そもそも私はある程度でも式が分からないと魔術を使うことはできない。今の私の力は勉強の成果であって、才能じゃないからね。それに、最低2属性の魔術の同時撃ち、各属性の上級魔術、追跡魔術などの無属性魔術。この3つを習うのが3年だ。まだ1年の私が前2つ出来れば上等だと思う。
あーうーどうしよー。何にも浮かばないんだけどっ!!
一夜漬けが多かったとしても、テスト前に勉強してないことって初めてだ。前世はよく何にもしてないって人いたけど、あのひとたちすごいな。この不安、スッゴい嫌なんだけど。
「ところで、何でキーディアちゃんは3年の闘技場に向かってんの?」
「さあ?それが答えられれば、私だってこんなに考え込まないんですけどねえ」
とりあえず伝達のことを説明してみる。
先輩は「はあ!?」と声をあげたけど、走るスピードはむしろ上がった。すでに中央の講堂も抜けていて、魔術科の校舎に入ってる。そういえば、窓から入ったよね、ここ。あの位置からなら下手に入り口にまわるより早いけど、間違いなく私にはできない芸当だ。窓によじ登るより入り口に回った方が早いもん。飛び越えるとか無理無理。
「今日突然って、ルーセルくん、なんかしたのかねえ」
「やっぱり先輩もそう思いますか?でも筆記は1年のを受けたので、今更何かするとは思えないんですよねえ」
「学園が飛び級認めたとかは考えらんねえの?」
「私がすでに学園で学べる範囲を大幅に上回ってればそうかもしれませんけどね」
「十分できてると思うけど。ルフェダオスの寵児なんだろ?」
「止めてくださいよ。そんな不相応なあだ名、嬉しくないですから。そこまで優秀じゃありません」
「そうかあ?」
「そうです。ああ.........試験どんなのだと思います?」
「や、わかんねえけど。ルーセルくんに聞くのが良いんじゃねえか?」
「始まる前か終わっていたら聞けるんですけどね」
「あーそっか。魔術科って何人か一斉にやるんだもんなあ」
こんな雑談してる場合じゃないんだけどねえ。
マッグケーン先輩もよく話せるなあ。人抱えて走ってるくせに息も乱してないし、余裕そうに私と会話してやがる。これが騎士科の体力なんだねえ。移動は全部マッグケーン先輩にしてもらったら楽なのに。.........呟いたら、マッグケーン、発進!ってノリよく返してくれた。ああ、こんな場合じゃないのに!
もう放棄って言うか放置って言うか、諦めに近いんだよねえ。
でももし、もし、この無茶振り試験に落ちたら私、進級できるのかな。出来るなら良いけど、むしろ再試験でもいい、進級させてもらえれば。
進級できないとかになったら、後見打ち切りとか.........有り得るっ!この試験の成績如何では、私への援助も孤児院への寄付も無くなる.........。筆記の一般教養と魔術は4回見直したし、たぶんほぼパーフェクト。ケアレスミスならあるかもだけど、見つけらんなかったし大丈夫だよね。座学の成績は間違っても悪くならない。あとは今からの試験だけど、今から打てる対策なんて、先輩たちのを見てちょっとでも参考にするくらいしかない、よね。
「ん、とーちゃくっ!」
「え、あ、ありがとうございました。早い.........」
「だろ?お代はケーン先輩って呼んでくれればいいぜー」
「へ?」
「そんで、ケーン先輩ありがとうっ!キーディアがんばるっていってくれればなお良し!」
何いってるのこの人は。
たぶん私はちょっと引いた目をしていたんだと思う。
「うわ、いーじゃねえか!ゴミムシ見るような目で見んなよ」
ゴミムシ見るような目を見たことあるんだ.........王子様なのに。
マッグケーン先輩は私を降ろすと、ぽんぽんと頭に撫でてくれる。
「ガチガチに緊張しててもいいことないぜ。ほれ、リラックスリラックスー。冗談言えるくらいの心理状態になってりゃ、実力は発揮できるさ。キーディアちゃんは俺のペアだし、それなりにはとれるって」
「とれなかったら?」
「うえー!?.........や、じゃあ取れたら!1週間昼飯奢ってやるよ」
「1ヶ月」
「いっか、えええ?それは横暴じゃねえ!?」
「横暴じゃないですよ、ケーン先輩。ありがとうございました。私がんばるので、ケーン先輩も頑張ってくださいねっ」
どやっ!
ちょっと恥ずかしい。くう、こういうのはかわいいこの特権だよねえ。私がやったらギャグにしかならないと思う。ちなみに、祈るように両手を組んで、首をかしげて上目遣いだ。加減がマジで難しい。この仕草が似合う人って本気で顔が整ってるか、雰囲気が女の子らしいふわふわした娘だけだと思うんだよね。男の子も似合うひといるけどさ。私はそこまで整ってる訳じゃないし、ふわふわもしてない。ちょっとどころかかなり恥ずかしくなってきたんだけど、いつになったら突っ込んでくれるのかな。
「こ」
こ?
「タ」
た?
「1ヶ月奢ってやるよちくしょー!」
「えええ?ありがとうございます?」
「.........このタイミングで上目遣いは卑怯だろ。っていうかあのポーズが反則だって。応援までしてくれちゃって.........くっそ、理想の女の子像No.85にぴったりだ.........」
ここで聞きたいのは、ケーン先輩の理想の女の子像がどれくらい多いのかってことだよね。これは聞いてみてもいいものか、聞き流した方がいいものなのか。私が男だったらなあ、あ、いや。ルーセル先輩には殺されたくないし、今のままがいいね。
「じゃ、じゃ、俺行くから。キーディアちゃん、頑張れよー?昼飯のために!」
「ふはっ!お昼ご飯のために頑張りますっ」
ケーン先輩が走り去るのを見届けて、私は闘技場の扉に手を付いた。
先輩が励ましてくれたから、多少はましになった。うん、良し。
力一杯押し開く。
どうしよう、閉めていいかな。




