第十四話
遅くなりましてすみませんでした!
い、一生懸命頑張りましたが.......
こんなにかかってしまいました。
難産な回だったので再現できているか不安ですが、読んでもらえたら
嬉しいです!では、どうぞー。
ここはどちらかと言えば孤児に優しい町なんだよね。だから孤児でも新年祭に参加できるし、職だって多少の制限がある程度。酷いところでは、普通に虐待紛いのことをされてるらしい。
これに関しては一重に代々の院長先生が少しずつ改善していった成果なのだと、うちの孤児院では耳にタコができるくらい聞かされる。
それだけじゃなくても、私を育ててくれた院長先生には感謝してるし、もちろん尊敬もしている。面接で尊敬できるひとを聞かれたら院長先生ですと食いぎみに答えられる。それは間違いない。間違いないんだけどもね。
「二人で仲良く回っていらっしゃい」
えーと..........何でこうなったんだっけ?
ルーセル先輩が言うには、始まりはキュリーからの手紙らしい。
それはさておいても、ルーセル先輩にはさすがに手紙すべてを朗読する必要はないと言いたい。どうして遠く離れた土地でピンクな話を聞かされなきゃいけないんだろう。っていうか、キュリーはあんなこと手紙にまで書いちゃうんだね。聞いてるこっちがいたたまれなくなって、その後セルマ先生がまともに会話できなくなっちゃったじゃないか。ざっくり要約.........いや、ピンクな話以外は、忙しくて新年祭を見に行けなくて残念だよって内容の手紙だったと思う。
ルーセル先輩は愛しい恋人のため、お土産を買っていってあげようと思い立ったらしい。愛を込めたお土産ならキュリーも新年祭気分を味わえるだろうからとかいってたなあ。
まあそれで新年祭に沸く領地内の街を一人で冷やかす予定だったみたい。いつもなら万年新婚夫婦は二人の時間を取れると喜んで送り出す、はずだったんだけど。
奥さんは子供が出来ない体質で、養子のルーセル先輩をとても可愛がっている。大事なことだから二回言うけど、とても、可愛がっている。で、その息子の婚約者であるキュリーも自分の娘のように思っているらしい。
だからか、話を聞いた奥さんは全員でいろいろなお土産をたくさん集めてキュリーに届けようと提案したんだって。
師匠さんが最愛の妻のかわいい願い事に許可をださない訳がなく、そして弟子が師匠の決定に逆らえるはずもなく、ミュゼ子爵一家の新年初仕事は新年祭お土産漁りになったわけだ。
更に、どうせなら違う町から集めましょうよっていう奥さんの一言もあって、セルマ先生は1人、ここでお土産を探すことになった。
正直どの町で買っても新年祭で売り出されるものはそうかわりないと思うんだけど、その辺はいいんだろうか。他校の友達から貰った修学旅行のお土産と同じものを別の人からも貰うっていう、なんか反応し辛い状況にはならないよね。いや、嬉しいんだけどね!もう持ってるとかそんなことは言えないし、素直に喜べない残念感というか.........。
その辺はまあ、そうなってもルーセル先輩が何とかするよね。
それよりも何で私がセルマ先生を預かって、二人で買い物に新年祭へ繰り出すことになるのかが分からない。
そもそもお土産を買うだけなら、宿はやってるんだしそっちに泊まれば良いと思うのは私だけなのかな。言われるがまま孤児院の客室整えたのは私なんですけどね!
「付き合わせてすまないな」
「いえいえ。あまり気にしないでください」
予定通りなら、私は今日10歳以下のちびたちのローテーションを組んで、楽しく買い食いしてたはずなのになあ。今年はわたしたちに任せて、なんて院長先生に言われたら逆らえない。セルマ先生にもそれに付き合ってもらって、ついでにお土産買えればそれでよくない?
院長先生の中での私の結婚相手が、おそらくセルマ先生で確定したんだろうなあ。
端から見たら新年早々2日連続で私を訪ねる20代ぐらいのイケメン、加えて私が家に泊まれるよう手配した相手なんだよ。結婚に対して私がつれない返事ばかりしていたのはこの男との関係があったから、なんて思うのはまあ、必然と言えなくもないよね。実際のところはわからないけど、キーディア結婚させ隊を一人で結成してる院長先生のことだ。今頃良い仕事したとばかりにニヤニヤしてるんだと思う。
私は薮蛇をつくのが嫌で黙ってるし、セルマ先生はまさか自分が婚約者と思われてるなんて考えてもいないんじゃないかなあ。明日の朝には私は寮に帰るし、余計なこと言われて拗れるのは嫌だから、セルマ先生も一緒に戻ってもらいたいんだけど、更に勘違いを増長させそう。どうしよっかな。
けどまあ、年に一度のお祭りだし、楽しもうかねえ。
「親父さん、全部、1つずつ包んでくれ」
「毎度ありー!」
「そ、そんなに買うんですか?」
「俺はキュリーの好みなんて知らないから、それっぽいものを片っ端から買っていこうと思っていたんだ」
いち、にい、さん.........じゅうごはさすがに要らないと思うんですが。
私たちは日持ちのする食べ物や新年祭名物と銘打ってあるものを、言葉のごとく片っ端から買っていた。すでに手では持ちきれず、それを載せるための馬車まで買って御者たちを雇ったときにはなんだこの金持ちと思った。言わないけど。人通りが多いので、馬車は少し離れたところに待機させてるんだけど、こうやってものを買うと御者の1人がさっと現れて馬車に運ぶ。いや、楽だしいいんだけど、なんだかなあ。
今、セルマ先生が買ったのは新年祭では珍しくない置き人形。幸せを呼び込む縁起物で、おそらく各家庭に一個はある。ただの土偶にしか見えないのに色の種類が豊富で、全15色。黒とか縁起物っていうより呪いの人形みたいだし、ショッキングピンクのはなんかこう、変態さんとかを呼び込みそう。原色とか正直気持ち悪いし、やっぱり茶色がしっくり来て良いと思うんだけど、残念ながら一番の不人気色らしい。一番人気は淡い紫色.........ちょっと納得いかない。
「そうだ、キーディア。何か欲しいものはあるか?」
「置き人形は要りませんよ?」
は?いや特にっていうか。
置き人形が欲しそうに見えたなら医者にかかってもらいたい。
「置き人形でも良いが.........迷惑をかけたお詫びに何か礼がしたくてな。今日だって本当は孤児院の子供たちと来る予定だったんだろう?」
「それはそうですけど.........セルマ先生だって巻き込まれただけじゃないですか」
「.........言われてみれば、そうだな」
セルマ先生は今気づいたように、くしゃりと笑った。
うわーお。
色気が全開過ぎて直視できない。授業では毎回人垣の向こうに居るし、それ以外でセルマ先生と会うときはいつも動揺した姿しか見てなかったから、この破壊力は想定外だ。何でこの間ちゃんと会話できるようになったのを喜んだんだ私.........!
はっきり言う。
私は色気のある男の人が大好物だ。決して変態とかそういう訳じゃないよ!
私が彼氏と呼んだのは全部で3人。はじめての彼氏は泣きぼくろの素敵な男子高生、次の彼氏はスーツが似合う社会人、最後の彼氏が近所の神社の息子だった。全員に共通して言えることは、種類は違えど全員男の色気がムンムンだったってことだろう。師匠さんが好みだって言ったのは、師匠さんの顔と声が理想としては完璧だからだ。
っていうか油断してたから見事にあてられたっ。不意打ちはだめだよね。ダメだと思う。
観賞用にするにはいいんだけど、ここまで近いとちょっと耐えられないぞ。くう、耳が熱い。
大丈夫、私にはプラス前世の経験値があるから!ヤバイくらいの色気だってスルーするよ。通算すればセルマ先生より、精神年齢は上!いや、誰がなんと言おうと大体16歳だからあれ?下だ、じゃなくて上なんだけど.........いやもうこんらんしてないよ!
「.........ディア?キーディア!?」
「うわはいっ!なんでしょうかっ!」
「顔が赤い.........風邪か?熱は、ないな」
「さ、寒いと顔が赤くなるんですよ、私!他にっ他に買うものはありませんかっ?」
うわあ!
顔が赤い、でセルマ先生の手が頬をするって撫でた。
風邪か?.........聞きながらくすぐるようにそっと前髪が掻き分けられて。
熱は、のときに一瞬だけ額に手のひらが乗った。
ないなって色気全開で微笑みながら、前髪をやさしく整えて頭を撫でる。
何なの!?この人!こないだまで 私に対してまともに喋ったこともなかったクセに!そういうキャラじゃなかったのに、何?何に目覚めたっていうの!こんなんされたら私ならドン引きするはずなのに、色気のせいで逆にうれし.........ちが、いや、お前は私の彼氏かってツッコミたい!関西人じゃないけど、むしろ地球人ですらないけども!
あてられた精神を正常にする隙が見当たらない!苦しい言い訳を、ほんとに苦し紛れにいってしまった。セルマ先生の気が逸れたから良い.........としよう。うん。ほんとに良いのか大いに疑問だけど、今は平常心保つのが最優先。
私が気持ちを落ち着かせている間にも、セルマ先生は回りを見回してめぼしいものがないか探していた。
何とか平静を装って数十秒後、セルマ先生はこれだけあればいいだろう、と馬車を見る。そういえば、あれ全部キュリーへのお土産なんだよね。最低でも同じ程度は向こうでも用意しているはず。.........これ、修旅のお土産がどうこうなんて枠じゃ収まらないよね。でもキュリーは律儀だから、全部きっちり保管するんだろうな。私だったら.........やっぱりちゃんととっとくな。ボロボロにしたらなんかありそうだし。
「じゃあ帰りましょうか」
「祭り夜までやってるのに、もう帰るのか」
「もう十分ですよ。それに明日寮に帰るので、荷造りとかしないといけないんです」
もう十分、これ以上この人の無意識フェロモンにさらされたらおかしくなっちゃいそう。.........いや、あの恋とかじゃなくて、ほら、変態的な意味で!あれ、その方がヤバイな.........これはそういうんじゃなくて戦略的撤退だ。とりあえず今落ち着けたら、根拠はないけど次は色気にあてられない自信がある。
「セルマ先生はどうしますか?夜まで見ていきますか?」
「ああ.........いや、帰ろう。もう目的は果たしたしな」
私たちは人の流れに逆らって孤児院まで歩いた。
セルマ先生の身長は多分170くらいかな。私の身長じゃギリギリ前は見えないけど、先生がすぐ前を歩いてくれてるお陰で流される心配は無さそうだった。思ってたより小さいんだなあ。思えば、セルマ先生と二人で話すのって初めてかも。いつも誰かしら一緒だった気がするし。話したことあっても覚えてないだけとかだったら申し訳ないなあ。
んー.........キャラがどうとかさっき考えた気がするけど、そもそもこの人がどんな人だか知らないな、私。イメージはあんまりないけど、めちゃめちゃ女たらしだったりするんだろうか。あ、ゼルガ兄様が国にいたら聞いてみようかな。ルーセル先輩には聞かない。聞けない。そんなことしてらそこに至るまでを洗いざらい吐かされるし、答えてくれてるけど大笑いされるなんてヤだしね。
まあ女たらしだったとしたらさっきの行動はそんなに考えることないかな。っていうかさっきのは問答無用で慣れてる認定してもよくない?あー.........セルマ先生の歳と顔を考えたら慣れてない方が逆に不自然かも。それを女と見れば全員にやるのかどうか。そこがたらしかそうでないかの境界だよね。
って、待って。
たらしかそうじゃないかとか、普通ならどうでもよくない?ソレってつまり、そういうこと?いやいやいや、まだ!まだ結論出すのは早い、よね。もしかしたら、たぶん、きっと、色気に酔って思考が流れてるだけ。冷静になって見れば、きっとそんなこと思わない、と思う。
はあ.........恋愛、結婚ねえ。
彩音は彩音、私は私。前世の記憶があってもいろんなものが混ざっても、今の私が私だって断言できる。私の生きてきた人生で、日本人の倫理観をもつ彩音の記憶が拒否を示したことって本当にない。ナニかを殺すときだって、この世界の常識通りの行動ができる。それは、法はあっても日本よりは曖昧だし、身分によって命ですらも格がついてるこの世界で、身を守る行動に出るということがどういうことかを私が理解していたからだ。
.........たぶん、私は怖がってるんだろうな。恋人らしい直接的な行為とかをじゃない。私が未だ未経験なはずの感情が、記憶には生々しい経験と動きをもってあるから。今の私の感情なのか彩音の感情に引きずられているのかわからなくなってるのかも。だから結婚しろって言われても、言い訳がましい拒否反応がでるんじゃないかな。折り合いはつけたつもりでいたけど、未知の問題に遭遇するとやっぱり問題がややこしい。結局気持ちの問題なのは分かってるんだし、何とかなるよね。
考えても仕方ないっておもいつつも、こういう思考にはまると何で抜け出せないんだろう。
ぱっと顔を上げたらもう孤児院の前で、セルマ先生が心配そうにこっちをのぞきこんでいた。あ、私、帰ってる間中無言だった。そりゃ心配そうに見られるわ。いつの間にか帰りついてるし。
「.........やっぱり体調悪いのか?」
「え?いえいえ、大丈夫ですよ。キュリーのお土産、あんなにあって大丈夫なのかとちょっと真剣に考え込んでしまって」
「.........ならいいが。あれじゃおそらく少ない方だろうな」
いや、どんだけなの。
「ルーセルだけじゃあの二人の抑止力にはならん。俺たちのに加えて、更に倍以上のお土産が侯爵家に届くだろうな」
「いや、えー?」
「限度を知らないんだよ。領地経営はほぼ部下に任せきりだし。よくもまあまだ爵位を持っていられてると身内でもいっているくらいだ」
良い領地なのは確かなんだけどね。
トップが魔術具の開発と奥さんにしか興味はないって公言する人だからなあ。キュリーのトコとは対極って聞いたことがある。何で侯爵様と子爵様は仲良いんだろう。
ちょっとだけ渋い顔をして、セルマ先生は首を振った。なんか苦労があるんだろうな。セルマ先生は弟子だけど養子ではないから、無理難題を押し付けられやすいらしいし。
「そういえば、キーディアにお礼を買い忘れたな」
「それは良いですってば。セルマ先生も巻き込まれた側ですよ」
「それとは別だ、キーディア」
「別?」
セルマ先生は、またも色気を全開に微笑んだ。
「今日は宿にでも泊まる。院長にはよろしく伝えておいてくれ。それと後日ミュゼ子爵家から謝礼が届くよう手配しておいたから、それも。じゃあ明日、迎えに来る」
「え、あ、わかりました。でも、私は明日帰」
「分かってる。一緒に帰ろう」
いや、うん?それは良いけど、もうなんでも良いんだけど!
本気で駄々漏れのフェロモン何とかしてくれませんかねえ.........。
「新年早々、キーディアと会えて嬉しかった。じゃあ、また明日」
「.........ぅ、はい。また明日。お気を付けてお帰りください」
たぶん今、私は茹でたタコみたいに、なってるんだと、思う。




