第十一話
遅くなりまして申し訳ありません
「あっ!キーディアだっ」
「え?あ、おかえりー!」
「あそぼー!」
口々に叫んで駆け寄って来る子供たちを受け止めながら、私はただいまと笑った。
寒いのに元気に外を走り回る子供たちを見ていると、子供は風の子って本当だなって思う。うぐ、ち、力加減もそう言えば知らないよね、子供って。
「あたまきったの?」
「ほんとだ!けがない!」
「私は髪を切ったけど、頭は切ってないよ。それからはげてるみたいに言わないように」
頭を切ってはないし、毛はある。言い方を考えてくれ、子供たちよ。
まあ幼い言い回しなだけだと思うし、そこまで気にしないけどね。
「いんちょーせんせー!!キーディア、あたまきったー!!」
ちょ、それはとっても誤解を受けるっ!
まとわりつく子供たちにお菓子を渡して食堂に行かせ、私は持ってきた毛布を子供たちの寝室に人数分ずつ配った。結構重労働だったけど、孤児院で働く先生が手伝ってくれたからそんなに時間はかからなかった。
お礼を言って私は院長先生の部屋へ向かう。
さっき、子供たちの言葉で慌てて出てきた院長先生は、手にハサミと針を持ってたんだよね。
繕い物をしてただけよ、なんていってショートも似合うって誉めてくれたけど、もし本当に切れてたら私の頭でもためらわず繕うんだと思う。.........縫い針でね。先生の繕い物の技術はピカイチだ、繕い物の技術は。
「おかえりなさい、キーディア」
先生は、紅茶をいれて待っててくれた。
一口飲んでほっとする。気を張ってるとも思ってなかったけど、やっぱり家族と会えると違うよね。学園の長期の休暇は年末年始と雪の間だけだから、入学してはじめての里帰りだ。
「ただいま帰りました、院長先生。あの、これどうぞ。よかったら使って下さい」
今日も、先生が羽織ってるのは継ぎ接ぎのあるストールだった。
うちはそこまで貧乏じゃないけど、孤児が多いから運営が大変なんだよね。私が後見を受け始めたのが12歳の半ばだったから、今は多少楽になってるはず。なのに先生が着ているものは相変わらずで、ほっとする反面ちょっと不安になってしまった。経営、大丈夫だよね?
「まあ、贈り物?ありがとう。開けてみてもいいかしら」
「はい。気に入ってもらえたらいいんですけど」
包装というには簡素すぎる包みを丁寧に開いて、先生は中身を取り出した。
「これはストール.........?」
「今年は寒くなるらしいので、一番暖かそうなもの選んできたんです」
「あらあら。とっても素敵な贈り物だわ。ありがとう、大切にするわね」
少女みたくくるんとターンすると、似合うかしらってお茶目に聞かれた。似合うけども、なんかむず痒くて笑いながら頷く。
院長先生っていいおばあちゃんなはずなのにスッゴい可愛いんだよね。
お婆ちゃんってどうやって年を取ったかで本当に違う。キュリーのお婆様は上品で優雅で隙がなくて、院長先生はお茶目で可愛くてちょっとおっちょこちょい。できれば私は院長先生みたいに年を取りたいんだけど、なんかすでに別方向に行ってる気がしてしょうがない。皮肉で冷たくて、おっちょこちょいとか?うーん、おっちょこちょいだけは似なくてもいいんだけどな。
「そう言えば毛布も買ってきてくれたのね」
「院長先生だけじゃ、子供たちが拗ねるでしょう?かといって服は変えなかったから」
「これもとってもいい品だけれど、毛布もそんなにたくさん買って生活は大丈夫?伯爵様に生活費の援助はしていただいてないのよね?」
「大丈夫ですよ。実はとってもお得に買えたんです」
実はこの毛布は、キュリーの家から売って貰ったものなんだよね。
いろんなお店回って探したんだけど、流石にそんなに大量に用意できるお店はなくって、高くつくけどいろんなお店から数枚ずつ買おうかって話をキュリーにしたら、おうちに招待されたんだ。何でも遠征用に年に一回大量に作らせるんだけど毎年余るから処分して欲しいんだって。家で使わないのか聞いたら、使用人用の毛布として利用してたんだけど使いきれなかったみたい。遠征用の物置部屋に放置してたらいつの間にかすごい量になってたらしい。
遠征を増やす話もあったんだけど、ベルセルクルの遠征はものすっごい過酷なのが有名なんだよね。増やしたら増やしたで死人が増えそうでな、なんて一人言、私には聞こえなかったんだから。
孤児院へは私からプレゼントしたかったから友人割引で買い取ってきました。いや、下手に適正価格で買おうとすると高いんだよ。遠征ではいい睡眠をとれるかどうかが生死に関わるらしくって、丈夫で暖かいものを特注しているんだって。
ちなみにストールは、キュリーのお婆様が協力してくれた。毛布を買い取ってくれる礼だとか言ってたけど、どうなんだか。よく嫁にこいって言われるんだよね、キュリーの。嫁には行けないから、性別的に。っていうか、私がキュリーの嫁になったら、もれなく死ぬと思うんだけど、そこのところはどうだろう。絶対にルーセル先輩には聞かないけど!
運ぶのも量が量だからって馬車を出してくれて、ついでに私も送ってもらった。酔い止めなんてないから途中何回か吐いたけどね。
せっかくのプレゼントだし値段を言うつもりは無いから、笑って誤魔化した。
うん?何で院長先生のが意味深に笑うの?
「一気に大人っぽくなったと思ったら気が付けば伯爵様の後見まで受けて、貴女ったら昔からそうなのよね。わたしがお世話していたのなんて本当に小さかった頃だけ」
「ええ?そんなことありませんよ。院長先生が居なかったら生きられませんでしたし」
お世話になりっぱなしだったと思うんだけどな。
「ほら!その敬語!10歳くらいから突然そうやって話すようになって.........」
「え、そうでしたか?よ、よく覚えますね」
うわ、うん。あの頃は記憶が戻ってすぐだったし、初対面じゃないけど初対面な初老の女性と話すのに子供のように話せるほど現状理解出来てなかった。
感覚では刺されたばっかなのに、頭では化け物に襲われた経緯を理解してて、あのときは本当に、よく泣き叫ばなかったなって今でも思う。必死でリソとガレを守ろうとか思ってたんだよね。でも驚異が無くなったら一気に精神が不安定になってむしろ人は怖かったな。誰でも通り魔に見えたし。
私はキーディアだって、この世界で生きてくことを考えたら段々恐怖心は和らいだけど、その時に喋ってた話し方が癖になって戻せなくなったんだよね。
「だってショックだったんだもの。襲われたのが原因なのはわかっているけれど、そうしたら魔術の勉強をはじめて、討伐隊にまで参加するようになってしまって.........」
「.........すみません。でも、あのもともと本は好きでしたし、たまたま初級魔術書もあったから、使ってみたくて」
あ、敬語喋りの原因はそういうことになってたんだ。
確かに本来なら本好きでも魔術書なんか理解できなかったよ。
初級魔術書はパズルみたいな問題を解いて、自分の陣を発現させるって言うのが最初の内容だった。彩音の記憶が甦ったからか最初から読み込んだら解けちゃったんだよねえ。身を守るのに使えるって思ったらいてもたってもいられなくて、魔力で陣を描くってところから本を片手に練習しはじめたんだった。
「今では学園の魔術師だもの。わたしも鼻が高いわ。下世話な話、そのお陰で援助が増えたのよ。院もとっても助かっているわ」
「それは良かったです。まだまだ頑張りますよ!」
良かった。経営は大丈夫そうだ。
気合いも入って決意表明したら、笑ってるのに怖いって言う難しい表情をされた。あ、これあれだ。目が笑ってない状態。
「これ以上頑張らなくてもいいのよ。それにキーディア、貴女、今いくつかしら」
「え?一応、16です、が.........?」
話が読めないぞ.........?
「リソとガレの2人は覚えているわよね?」
「はい。あ、あの2人も今年成人したんですよね。今どうしてるんですか?」
孤児院は成人したら出なきゃいけないから、2人とも働いているはずだ。
ガレは男の子だから働き口は多くありそうだけど、リソはあまり体が強くない娘だったからちょっと心配。私も余裕無くて気にかけても居られなかったけど、大丈夫かなあ。
「あの2人は結婚して、国を出たのよ」
「え、そう、は、ちょ.........ええええ!?」
「キーディア、びっくりしたかしら?」
「ええええ、結婚.........!?国を出たって、ええええ!?」
「もう、驚きすぎよ」
だって入学前は普通にここにいて、そのときは恋人がいるなんて話は聞いたこともなかったよ。まだ1年もたってないのに結婚って、正直信じられない。孤児院で3人だけの同い年なのに、ちょっとあの2人薄情すぎない?
「まあ、いろいろあったから.........特にガレはちょっと.........いえ、わたしの口からは言えないわね。2人とも今はシェーリの宿屋で働いているそうだから、また機会があったら手紙でも送ってあげなさい」
いろいろあったってのも気になるけど。
「ちなみにいつ向こうに行ったんですか?」
「もう.........3か月くらい前かしら」
ニアピンしてるよ、私!
私だってまさかシェーリに行くと思わなかったけど、2人がいるとは思わなかった。私が泊まった宿ではないだろうけど、うわー、悔しい。知ってたら挨拶もできたし、結婚相手を見ることも出来たのに。彼らは同い年ってこともあって孤児院では一番仲が良かった。けっこういいトリオだったんだよ。病弱なリソの世話をガレが焼いて、そのガレの世話を私がして私のフォローをリソがしてくれるっていうトライアングル。
あの2人の結婚相手は、私の屍を越えていける人じゃないと認めないつもりだったのに。言いたかったな、お前に娘・息子はやらん!って。
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと。私、この間まで.........いえ、今はシェーリに居るなんてびっくりしすぎて」
危ない。
学園でのことはちょくちょく手紙でも送っているけど、討伐演習に出てることは言っていない。本来ならまだ1年で行っているはずがないし、手紙でも報告するタイミングを逸してズルズルここまで引っ張ってしまった。
.........さっきの怖い顔からして、ここで討伐演習に行ってることを、それも事後報告で知らせたら。
私の暮れの休みは外よりも寒く冷え込む気がする。
よし、黙ってよう。大人げないと言われても怖いもんは怖い。いや、逆に0点のテストを隠す気分かも。0点なんて取ったことないけどさ。
「そうね、でも本題はそれじゃないのよ」
「本題、ですか?」
「あの2人はもう結婚して、お相手の家に入ったわ。今年成人で残っているのは貴女だけなのよ」
「ええと、院長先生?」
ん?2人の結婚と私がどう関係するの?
まさか結婚しろとか言わないよね、私まだ学生だし。
「孤児だと言うだけで風当たりは強いわ。成人すればそう言うのはある程度無くなるけれど、それでも学園では大変でしょう?」
「院長先生.........」
だいじょうぶですよ。ルーセル先輩もキュリーも、マッグケーン先輩もいるし。
うーんでも、やっぱり心配かけちゃってるよね。ますます討伐演習のこと言いにくくなるんだけども。
「だからね、せめて結婚したらどうかと思うのよ!」
「無理ですっ」
やっぱりかっ!
即座に否定したのに、うきうきと相手について話し出す院長先生。
どうしよう、とりあえずは流して流してすり替えよう。無理になったら何がなんでも寮に帰る。
私は、帰省したのに早く寮に戻りたくなった。




