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私と店長の他愛もない話。  作者: 仮『どん』
最終章 いついつまでも他愛ない話。
38/41

幕間 彼と彼女の描いた未来。(2年前)

「…………………」


「…………………」


 とても静かな店の中で、店員と客が一人ずつ。


 店員の若い女性は白と黒を基調にした大人の雰囲気が漂う服を、客の大学生くらいの若者は、彼が普段から着るようなものではない少しオシャレで高価な服を着ている。


「(最近元気ないんだよなぁ、あの人)」


 無言のまま手元の漫画雑誌をパラパラと捲る彼女と、出されたコーヒーをスプーンでひたすらぐるぐるとかき混ぜる彼。


「…………………」


「…………………」


 漫画雑誌のページが捲れる音と、柱時計の秒針が時を刻む音。


 今日に限っては原因不明の焦りしか生まない、その不安定な静寂を切り裂くように、彼は勇気を出して声を掛ける。



 ○



「ーーランチにでも行きませんか?」


 小雨降る6月のある休日。

 その日もいつもの喫茶店で暇を潰していた彼は、自分の心にある不透明でもやもやとした気持ちを彼女に勘付かれないよう、素っ気なく言った。 ……彼なりに、割と勇気を振り絞って。


「……えっ?! い、いいい、いいですよ!」


 一方の彼女は彼からの唐突なお誘いに、読んでいた漫画雑誌をバタッと床に落としてしまう。


 焦る彼女は落ちた漫画雑誌には目もくれず、「ランチ、どこにしますか!? 」 と咄嗟に付け加えてあくまで平静を装う。

 しかしその顔には、明らかに喜びと焦りの両面が見て取れるのだった。




「どうして誘ってくれたんですか? いきなりランチなんて」


「いや、美沙さん最近元気ないなぁ、と思いまして」


 駅前のデパート。

 時期も時期だからだろうか、あまり客足は多くない。

 レストラン街が揃う地下に向かう途中、二人は少しぎこちない会話をしていた。


「そうですか……。 やっぱりそう見えちゃいますか」


 心配そうに彼女の顔を覗き込む彼の隣で、一方の彼女も少し下を向いて力のない言葉を発する。


「じゃあやっぱりーー」


「いや、もう大丈夫です。 こんな私をランチに誘ってくれるお人好しさんがこの世界に居るって分かっただけで、もう私は元気になりましたから」


 じゃあどうして、どうしてそんなに辛そうな表情(かお)をするんだろう。

 彼は喉元まで出かかったその言葉をなんとか抑え込み、出来るだけ明るく言った。


「よし、それなら行きましょう! カレー好きだって言ってましたよね? ちょっと地味だけど美味しい店知ってるんです!」


「てことは私の店みたいなところかしらねー?」


 二人は互いに無理をしている。

 無理に笑顔を作っている。


 それでも、それが互いを想うが故のことだとすれば、そんなに悪いことではないのかもしれない。




「うわぁ、静かなお店ですねー。 いい匂いが漂ってくるし」


「そうでしょうそうでしょう。 ウチの喫茶店に匹敵するほどのこの心地良さ」


 ……そんな会話を楽しむ二人の目に、一組の男女の姿が飛び込んできた。

 店の厨房で、何やら業務上のやり取りをしているらしいコック姿の男性と店員服の女性。


 その光景を見て彼は、ふと思う。


「将来、こんな風になれたらいいなぁ」


「え?!」


 瞬時に硬直した彼女を見て、慌ててかしこまる彼。 心の中で思ったことがそのまま言葉に出てしまったのだ。


 そして気付いた時には既に時遅し。

 目の前の彼女は奇妙な程の笑顔になったり、悲しみを含んだ切ない顔になったりと、ころころとその表情を変えながら、遂には泣き出してしまった。


 それを見た彼はさらに慌ててしまう。


「すいません! 気分悪くさせるようなこと言って、ホントすいません!」


「……いい、のよ。 ヒック、そん……な、みらい、ヒッ、きたら……ヒック、どんな、に、楽しいか……な、って」


「………?」


 その時の彼には、まだ彼女の涙の理由は分からなかった。

 それを知るのは、もう少し後の話になる。


 それでもーー


「……ほら、早く食べましょう! 貴方は将来ウチの店長になるんだから!!」


「……はあ、まあ、とりあえずいただきますっ」


 決して叶えられることはない、二人の幸せな未来を二人は描く。


 その時はまだ、めいっぱい幸せに。



 ○ 〜おまけ



「何これ辛いっっ!」


「調子に乗って10倍のを頼むからですよ、僕の説明聞いてました?」


「そんなの知りません! とにかくからいぃーっっ!」


「ハハハ、水いります? まったく人の話はちゃんと聞かないと。 それと一口もらっていいですか?」


「……んむむぅ、いいですよ。 あと水、ください」



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