第三話「月光の下で」
作戦開始の合図とともに、足に力を集中させる。
待機していた家の屋根からターゲットのアジトに向かって高速移動をする。
レクターは俺とメイガの合図の後に突入するとことになっている。
窓ガラスが割れてアジト内にガラスの破片が飛び散っているのを確認できた。
後に続いてメイガも突入する。
突入から約1秒後。
前方から大きな網が俺たちを襲ってくる。
左右に避けつつ相手がどこにいるかを確認。
網が放たれた方向にターゲットの網使いの能力者がいた。
ただ相手がどうやって網を放つのか分からない。
よく観察して戦わないと。
「お前ら何者だ!」
表情からしてびびってるなこいつ。
会話は戦闘が終わってからすればいい。
とにかく今は短期決戦だ。
さっさと倒して他のバディのカバーに備えないと。
続いてターゲットに向かって高速移動。
その瞬間ターゲットが窓の外から脱出した。
多分逃げる気だな?
そのまま他の仲間のところに行こうって魂胆だろう。
俺も急いで後を追う。
「レクター!俺たちのことは置いてっていいからターゲットを追ってくれ。」
「は、はい!」
別に俺とメイガが高速移動しても全然追いつくけど、あいつがどれだけ動けるか見たい。
レクターは最初の自己紹介の時に「足が他と比べて速い」って言ってたからな。
さてどんなものか…。
っとレクターがいた方向を見ると、そこには誰もいなかった。
俺たちが早すぎたのかと最初は思ったけど、少し後ろを見てもレクターはいない。
「リテル、見て!」
メイガが驚いた口調で言うもんだから瞬発的にメイガが指差した方向を向く。
少し先にレクターがターゲットに攻撃を仕掛けていた。
足が他より速いって……俺より速いじゃねーか。
つーか革命軍最速なんじゃないか?
この足の速さはもはや才能だな。
って、驚いてる場合じゃない。
早く合流して戦わないと。
「メイガ、一気に終わらせるぞ。」
「オーケー相棒!援護するよ!」
高速移動で一気に距離を詰める。
「レクター!俺に合わせろ!」
「はい!」
剣をターゲットの腹に目掛けて突き刺す。
それと同時にレクターが双剣をクロス状にして切りかかる。
その時、ターゲットがポケットの中から何かを出そうとしてるのが見えた。
でも、俺は攻撃を止めない。
というか止める理由がないんだよな。
なぜなら……。
「調子に乗るなよ!クソガキ!」
「パシュ」と小さな音が俺の後ろから聞こえてくる。
俺には聞き飽きるほど聞いてきた音だけど、こう言う時は思わず笑ってしまうぐらい嬉しい音だったりする。
その音と同時にターゲットの手は出血している。
おかげでターゲットが怯んだすきをつけた。
さすがメイガの射撃技術だな。
そのまま俺とレクターの斬撃がターゲットにヒットした。
相手は赤色の血で出血しているし、ターゲットの表情を見るにかなり痛がっているのが分かる。
ベアポーションは飲んでないな。
ポーションを飲んでいると、人間から出る赤色の血は出ない。
その代わり紫色の血がでる。
ポーションと同じ色の血だ。
紫色の血が出ている間は効果が続いてる証で、逆に赤色の血に戻った時は効果が切れた証になる。
相手がポーションを使っている時、どのくらいダメージを与えると効果が切れるか。
逆に自分が使っているときはどのくらいのダメージまで耐えられるか。
そこの境目が結構難しいんだよな。
まぁでも今回の相手はポーションを飲んでいないから助かる。
このまま一気に終わらせてやる。
貫通した剣を抜いて、そのまま剣をしまうと同時にターゲットの顔に向かって蹴りを入れて家の壁に体を叩きつけた。
砂埃が舞っているから、すごい衝撃だったんだろうな。
「クソガキィィィィィ!!」
情けない雄叫びをあげながら、視界全体にでかい網が俺たちを襲った。
にしてもでかいな。
小さい家なら軽く覆えるぐらいの大きさだな。
「メイガ!レクター!」
「わかってるよ!」
「は、はい!」
全員総出で網を素早く刻んでいく。
網に触れたらどうなるか分からないからな。
常に最悪のケースを考えなくちゃいけないのが本当に面倒くさい。
そろそろ大人しくしてもらいますか。
ターゲットに向かって高速移動し、腹に向かってストレートで殴った。
そのままピクリとも動かなくなった。
「やりましたね!リテルさん!メイガさん!」
「待って、レクターくん。」
「はい、どうしました?」
「まだ相手が本当に気絶してるか分からないから距離をとって。」
そう、最後まで油断しちゃダメだ。
少しの油断が命に関わってくるからな。
「リテルさん、メイガさん。
クライシスバンドが光ってます。」
「ほんとだ、緑か……ってことは私たちとは反対方向のところだね。」
「まぁ大丈夫だろ。
近くにいるバディが応援に行くだろうし。」
「それもそうだね。」
「そんなことよりまだ作戦は終わってないぞ。」
ターゲットに向かって剣を突き立てながら、ゆっくり近づく。
……動かないな。
「もう大丈夫だろ。」
「やりましたね!リテルさん、メイガさん!」
「喜んでる暇ないよレクターくん。」
事前に用意していた“ヒーリングドラッグ“を使ってターゲットの治療を行う。
これを飲むと切り傷、打撲とかのある程度の怪我を一瞬で治すことができる。
「ちょっ、何やってるんですか?
なんでターゲットを治療してるんですか?」
「俺たちは世直しをしたいだけで、人を殺したい訳じゃない。」
「私たちがやることは、ターゲットが動けなくなったところを拘束するだけだよ。
あとは“警備隊“に任せればいいんだよ。」
「なんでですか?!こいつを倒したことを僕たちが言えば、みんな絶対称賛してくれますよ。
能力なしで勝てたんですから。」
……レクターはまだ分かってない。
この世界のクソさが。
さっきターゲットを叩きつけた衝撃で、周囲の住民がぞろぞろ出てきた。
少し暴れすぎたな。
あんだけでかい音を出し続けたらそりゃ気になって出てくるか。
「2人とも、そろそろ切り上げよう。」
「え……でも……」
レクターがまた何かを言おうとした瞬間……それらは聞こえてくる。
「何かと思えば“世直しお子ちゃま軍団“ね。」
「こんな真夜中に暴れないでくれる?」
「明日も仕事なのに起こすなよ。」
これ以外にもいろんな非難の声が聞こえてくる。
まぁいつも通りだ。
「な、なんで……僕たちはみんなのためにこいつを倒したんですよ!
なのになんで…。」
「レクターくん、もう分かったでしょ。」
悔しいけどこれが現実だ。
たとえどんだけ世直しをしたところで、俺たちは無能力者。
世間の評価なんてこんなことじゃ変わらない。
家の屋根に向けて高速移動。
レクターの表情からでも伝わってくる。
悲しさとかそんな単純な言葉じゃ表せられないぐらい“悔しい“ってことだろうな。
俺だって悔しい……だが、言われっぱなしで終われるほど俺は優しくない。
民衆の声に背を向けてた体を反転させる。
地面にしっかり足をつけて、腹式呼吸を意識しながら思いっきり息を吸う。
「バーーーーーーカ!」
街中に聞こえるぐらいの勢いで大声を出した。
「ちょっとリテルさん?!」
「2人ともいくぞ!少し離れたところで待機しとこうぜ!」
その場から逃げるように屋根を経由しながら移動する。
レクターが驚いている横でメイガがツボにハマっていた。
「お前笑いすぎ。」
「だってさ!もう、アンタ最高!!」
やっと笑ってくれた。
相変わらず、レクターは動揺してる。
さすがにいきなりはびっくりさせてしまったな。
「レクター、世界変えるって夢語ってるトリオがあんな野次に惑わされたらダメだろ!
今はまだこんなだけど、この野次がいずれ歓喜の声になるさ。
その為に俺たちと一緒に戦い続けていこうぜ!」
「……はい!」
「いいねいいね!すごい盛り上がってきた!」
3人で笑い合いながら移動し続ける。
しばらくして見晴らしの良い家を見つけて、屋根の上で待機することにした。
「そういえば、レクターくんめっちゃ足速かったね。」
「ありがとうございます!足だけは自信あるんで。」
「にしても速すぎんだろ。
多分革命軍最速だぞ!」
「えぇ!僕が!?」
「ああ、これはすごい戦力が入ったもんだな。」
「少し照れますね。」
俺はこういうどうでもいい会話が好きだ。
俺たちが目指している世界にはこんな毎日が続いてるんだろうな。
「そういえば今回のターゲットって全然能力使ってこなかったですよね。
使える場面は結構あったと思うんですけど。」
「多分使わなかったんじゃなくて、使えなかったんだよ。」
「え、でも網を出すぐらい簡単だと思うんですけどね。」
「そこが間違いなんだよな。」
「間違いですか?」
レクターがポカンってした顔で俺を見ている。
「多分、ターゲットの能力は網を出す能力じゃなくて、“触れたものを網にする“能力だろうな。
網を出すだけなら突入した瞬間に網を出しまくってただろ。
でも、それをしなかったってことは発動条件を満たしていなかったって考える方が自然だ。
それに、俺が蹴飛ばした時にターゲットはデカすぎる網を出してきた。」
「あーあの時のめっちゃ大きい網ですよね。」
「そそ、砂埃でターゲットの姿は見えなかったけど、あいつの近くには水車あった。
多分それを網に変えたって感じだろうな。
実際網を出してきたあとは水車は無くなってたし。」
「すごい!あんな一瞬でここまで分かるんですね。」
まぁずっと前から活動してたしな。
「そういう考察ならメイガの方が得意だぞ。」
「まぁ私って後方支援だからどうしても分析に慣れちゃうもんだからさ。」
「すごいなぁ……僕も早く2人に追いつかなくちゃ。」
「焦る必要はないよ。
私たちも、まだまだだから一緒に成長していこ!」
「はい!よろしくお願いします!」
また絆が深まった気がする。
これからどんなことが待っているんだろう。
どんな試練が待っているんだろう。
ワクワクが止まらない。
この3人ならどんな試練も乗り越えられる気がする。
「とりあえず初討伐を記念して……」
両手をメイガとレクターの前に出す。
2人がそれに応えるように、同じように両手を出す。
「お疲れさま!!」
「お疲れー!」
「お疲れさまです!」
3人でハイタッチを交わしながら、笑い合う。
楽しい。
これからも頑張っていこう。
俺たちの未来の為に。
「そういえばクライシスバンドまだ光ってますね。」
「ほんとだ。」
「確かに変だな。
あれから結構時間が経っているのに。」
いつもなら応援要請が入ったあと、すぐに近くのバディが駆けつけてすぐ決着が着く。
更に妙なのは色が変わらず緑のまま。
つまりそこのバディのターゲットは応援が入ったにも関わらず戦いが終わってない。
応援が入らないってことはまずありえない。
これだけ時間が経てばどこかのバディは決着がついてるはず……。
これまでこんなことはなかった。
そう思ってた時だった。
−–– バーーン!
っという音が街中に響いた。
それと同時に上空にでかくて赤い花火が打ち上がった。
その花火を見た瞬間に俺はとてつもない焦りを感じた。
それはメイガも一緒だった。
「今日花火なんてありましたっけ。」
「違う、これはただの花火じゃない。
これはアビリティアイテムの“レッドアラート“。」
「なんです?そのレッドアラートって。」
「街中に知らせないといけないほどの緊急事態が起きた時に使うアイテムだよ。」
「緊急事態ですか?」
「つまり……
−−−死人が出るほどの緊急事態が起きたってことだ。」
〈警備隊〉
この世界には能力者犯罪の拘束、牢獄までの移動を行う組織がある。それが警備隊。
基本的に能力者犯罪はそえぞれの“対能力者犯罪改善組織“が犯罪者の撃破を行い、その後の基本的な後処理は警備隊が行う。




