表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の聖骸布を布おむつにしたら、勇者の隠し子が《聖王》になった  作者: あゆと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/10

とうちゃんを、いじめるなーーー!!!

「雑魚がイキがんなよ。荷物持ちのくせに、誰に逆らってんだ?」


アレンは血のついた剣を肩に担ぎ、鼻で笑った。セイルは左肩から胸元まで斬られ、片膝をついたまま傷を押さえている。指の隙間から血が溢れ、白い床を赤く染めていた。


「これで分かっただろ? 俺がその気になりゃ、お前なんか一瞬なんだよ。次はマジで殺すからな」


「とうちゃん!」


ルウが駆け寄ろうとすると、セイルは荒い息を吐きながら腕を伸ばした。


「ルウ……来る、な……」

「とうちゃん、ち、いっぱい!」

「大丈夫……だから……」


声はかすれ、身体は今にも倒れそうだった。それでもセイルはルウを自分の後ろへ押しやろうとする。


「ルウ……下がってろ。怖く……ないからな。とうちゃんが……守る、から……」

「とうちゃん……?」


言い終えたところで身体がぐらりと傾いた。ルウが慌てて抱きつくが、五歳の身体では支えきれず、セイルは床へ手をつく。


「とうちゃん! ねえ、とうちゃん!」

「……大丈夫、だ」

「ねちゃだめ!」


ルウが傷口へ両手を押し当てる。小さな手のひらは、すぐに真っ赤になった。


「いたいの、とんでけ! いたいの、とんでけー!」


淡い黄金色の光が灯った。二歳の頃、セイルが指を切った時と同じ光だ。傷の端がわずかに塞がるが、深い傷は消えず、血も止まりきらない。


「なおって! とうちゃん、なおってよ!」

「もう……いい……ルウ……」

「よくない! いたいの、とんでけー!」


ルウは泣きながら何度も繰り返した。


「死んでねえだろ。そんな雑魚にいつまで力使ってんだよ」


ルウの動きが止まる。


「……え?」


アレンは血のついた剣を軽く振った。


「そいつが俺に逆らったから斬られただけだろ。ほら、そんな奴ほっとけって」

「とうちゃん……いたいのに……」

「だから何だよ。生きてんじゃん」


ルウの唇が震えた。


「……おまえ、きらい」

「あ?」

「とうちゃん、いたくした……! なのに、わらってる……!」

「そいつが悪いんだろ」


ルウの顔がくしゃりと歪み、涙がぼろぼろと落ちる。


「おまえ、きらいいーーー!!!」


「ガキが調子乗んなよ!」


アレンが剣を向ける。ルウは血まみれの両手をぎゅっと握った。


「とうちゃんを、いじめるなーーー!!!」


──光が爆発した。


「なっ!?」


《聖骸布》から噴き上がった黄金の光が、一瞬で大聖堂を呑み込んだ。真正面にいたアレンは抵抗する間もなく吹き飛ばされる。


「ぐああっ!?」


ドゴンッ!


数メートル先の石壁へ叩きつけられ、アレンが床へ転がる。


「勇者様!」


取り巻きたちの悲鳴と同時に、大聖堂の奥から鐘が鳴った。


カァァァン……!


誰も触れていない大鐘が、二つ、三つと次々に鳴り始める。聖杯が輝き、聖杖が浮かび、聖石や聖印までもが黄金の光を放った。


「これは……!」


司教が息を呑む。《聖骸布》はルウの背後へ浮かび上がり、大きく広がった。大聖堂にあるすべての聖具が、まるで主を迎えるようにルウへ向いている。


けれど、ルウは見ていなかった。


「とうちゃん!」


すぐにセイルのもとへ駆け戻り、傷へ両手を当てる。


「とうちゃん、なおって! お願い、なおって!」


黄金の光がセイルを包んだ。


「……っ」


焼けるようだった痛みが消えていく。裂けた傷は見る間に塞がり、止まらなかった血も完全に止まった。


「とうちゃん! いたくない?」

「……ああ」


セイルは血に濡れた服の下へ触れた。傷は跡形もない。


「ああ……もう痛くないよ」

「ほんと?」

「本当だ」

「よかったぁ……!」


ルウが泣きながら抱きつく。


「とうちゃん、ねちゃいそうだったぁ……!」

「ごめんな。もう大丈夫だ」

「ほんとに?」

「ああ。とうちゃん、ここにいるからな」


ルウは声を上げて泣きながら、セイルの胸へ顔を押しつけた。セイルもその小さな身体を、力いっぱい抱きしめ返す。


「……クソが」


壁際から声がした。


アレンが額から血を流しながら起き上がり、落ちていた剣をつかむ。


「このクソガキ……俺を吹っ飛ばしやがって……!」


その瞬間、右手の紋章が光った。


「……あ?」


《剣聖》に続いて、《超再生》《無限魔力》《全属性適性》《神速》《幸運》《聖盾》。七つの紋章すべてが、一斉に輝き始める。


「何だよ……これ」


《剣聖》の紋章が、アレンの手から浮かび上がった。


「待て」


黄金の光となってルウへ飛ぶ。


「……は?」


続いて《超再生》が離れ、《無限魔力》《全属性適性》も後を追う。


「おい、待て! ふざけんな!」


《神速》《幸運》、そして最後に《聖盾》。


「やめろぉぉぉ!!」


アレンが叫んでも止まらない。七つの光は次々とその身体を離れ、ルウの周囲を巡ったあと、その小さな身体へ静かに溶け込んだ。


「……なにこれ?」


ルウはセイルの服を握ったまま、首を傾げる。


「とうちゃん、ぴかぴかきた」

「……そうだな」

「なんで?」

「とうちゃんにも分からないな」


アレンは呆然と自分の両手を見た。七つあった紋章は、一つ残らず消えている。


「……嘘だろ」


その時、《聖骸布》の表面へ古代文字が浮かび上がった。


「司教様!」


老神官の声に、司教が白布を凝視する。


「《真なる聖王が地上に現れ、その御力を受け取る日まで、異界より招きし仮初めの器へ七つの神力を預ける》……」


「……は?」


アレンが顔を上げた。


「《器は神力を育み、時至れば聖王へ返す。それをもって真なる使命は果たされる》」


「待てよ……」


アレンの顔から血の気が引いていく。


「……預ける?」


六年以上前、この世界へ呼ばれた日に女神が告げた言葉が蘇った。


『真なる使命の時まで、この力をあなたに預けます』


与える、ではなかった。


預ける。


「嘘だろ……俺は、勇者だぞ……?」


《聖骸布》に最後の文字が浮かび上がる。


《七つの神力、真なる主へ帰還せり》


司教は息を呑み、ゆっくりと膝をついた。


「……《聖王》」


神官たちも次々と膝をつく。


「真なる《聖王》が……お目覚めになった……」


「せいおう?」


ルウは首を傾げたが、すぐにセイルへ向き直った。


「とうちゃん」

「ん?」

「もう、ほんとにいたくない?」

「ああ。もう痛くないよ」

「ち、でない?」

「出ないよ」

「ねちゃわない?」

「寝ない。ずっとここにいるよ」


ルウはじっとセイルの顔を確かめてから、もう一度ぎゅっと抱きついた。


「……よかったぁ」


セイルはその小さな背中を、両腕でしっかり抱きしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ