Club Star
ドレスを着替える。
店を出る。
遥斗くんがお酒を入れてくれたから、少しだけフラフラで、眠たい気がする。
なんか、人の悩みに寄り添うって少しだけ、大変な気がする。
そんなことを思いながら六本木の整えられた綺麗なけやき坂を歩く。
電車に乗った。色んな人で賑わうのが分かる。私は、ドアの横のスペースを取った。ネイビーのパーカーを被り、黒マスクをして、AirPodsでビリーアイリッシュを聞く。いつからこんなスタイルになったんだろうか。
アナウンスを聞かなくても、今どこの駅か分かる特殊能力を身につけた私は天才。
新宿の飲み屋街を颯爽とかけめぐると目に入る、歌舞伎町。
その路地をポツポツと歩く。
「私の顔って、刺さる人と、刺さらない人がいると思うの」なんて事を言った気がする。ただ正直、私って、可愛い〜とは言われて来たけど、私のことめっちゃ好き! ってなってくれた人は少なくて。でも、遥斗くんの顔を見ると、確かに遥斗くんって、沼る人とそうじゃない人と分かれそうだなって、思った気がするの。
だからあれは、私の顔って、って言いながら、私の話じゃ、ない……
でも、少しだけつらい気がする。
嘘、ついているわけだから……。
でも、なんだろう。それで、遥斗くんが喜んで帰ってくれたなら、そして私を本指名してくれたなら、それでいい気が……なんて思っていたら、いつの間にか着いていた。
Club Star。内勤の方が案内してくれる。入るとキラキラした世界。やっぱり目が輝いてしまう。AirPodsを取る。シャンパンコールが聞こえてくる。
空蘭君に対するものだった。別に私は被りとか気にしない。でも、多分この感じだと、少しだけ待機時間が長くなるかな。
内勤の人にカクテルを頼んで、たくさん溜まった通知にひとつひとつ返信していく。
「……お待たせ」
そうしてスっと座ってくれたのは、空蘭くんだった。
彼は、黒髪でショート、前髪は綺麗に巻かれていて、少しだけ可愛い感じの目をしている。彼を見ていると、何となく落ち着くというか……
「……それで、私って、なんか、嘘ついているんじゃないのかな、なんて……」
「大丈夫だよ。夏鈴ちゃんは嘘ついてないし、嘘をついていたとしても、お客さんが喜んでくれたらそれでいいんだよ。あとさ」
彼は私が追加で頼んだお酒を、アイスとマドラーを無駄の無い手さばきで使いこなしながら完璧な味へと仕上げていく。
そして、私の前に、はい、って置いてくれた。
「そんなふうに相手のことを想って言葉にできることって、とっても優しいことだと思うよ」
……そっか。
嘘とか、ホントとか、騙してるとか、そんなこと、最初から考えなくていいんだ。
相手が、嬉しいって思える言葉をかける、それが、私の、優しい、ところ……
「そんな、素敵な夏鈴ちゃんのことが大好き。いつも来てくれてありがとう」
ふふっと笑う空蘭くんの肩に、私は自然と頭を乗せていた。
その私の頭を彼は撫でる。
……落ち着くなあ。こんな時間が、ずーっと続いたらいいのに。
「もうちょっと、夏鈴ちゃんと一緒にいたいな」
気づいたらワンセット終わっていた。でも、彼だって多分、私と一緒にいたくてそう言っているんだと思う。そうじゃなかったとしても、私が嬉しいから、そうするだけだから。
「そうしよ。もう50分、一緒にいよ」




