Club Fiore
「お疲れした〜」
俺は、スーツのまま、赤髪のまま店を出る。
衣装は割と自前な事が多い気がする。店から配布されるものもあるけれど、こっちの方がお客さんついてくれる気がするから。
ぼーっとしながら電車に乗り込む。
時刻は20:30。メンコンは割と早くに盛り上がる。まあ、コンカフェだからかな。
「今のままのりさちゃんが1番可愛いよ」みたいなこと言ったんだっけ。忘れたけど、正直、お客さんの見た目に対して、何か思ったりとか、無くなってきた気がする。これを言ったら喜ぶことは分かるから、なんて言葉が頭に浮かんでくるようになって、それを機械的に言ってるだけ。AIでも出来るよこんな仕事。
ただ、俺だって俺の顔に自信がある訳では無い、というかむしろとっても自信がない。
地味だし、つり目だし、何とかカラコンで誤魔化してるけど、無理があるよな……。「今の遥斗くんが1番かっこいい」なんて言われたい。ただ、言われたところで信じられない。さっき俺は、りさちゃんに対して思ってもないのにそう言ってしまったから。
代々木で乗り換えながら曲を変える。アイドルソングからローファイの音楽に変えてみた。何となく落ち着く。地下に下り、メトロに乗り換える。
六本木から歩いて数分。路地を少し歩く。そのビルの3階、Club Fiore。
エレベーターが開くとタキシード姿のボーイが立っている。
席に着く。おしぼりが用意され、スマホをいじる。Xにさっき店で撮った自撮りを投稿していると、夏鈴さんが来てくれた。
「……それで、自分の顔に、なんか自信が持てなくて、なんでなんだろう。お客さんにさあ、たまに、顔面侮辱されたりするの」
「……そっか。私もさあ、そういうことあるの」
肩の上で高さが揃ったショートヘアでアッシュグレー、前髪は左側の姫毛を残して綺麗に揃えてある彼女。真っ白なお顔に映える水色と黒のカラコンが、とっても可愛くて癒される。
「りさちゃんも、そういうこと、あるの?」
「……うん。私ね、でも、多分、私の顔が刺さる人と刺さらない人がキッパリ分かれるタイプだと思ってるの。それって、少し話したらわかって。でも、私は、私のことを魅力的だなって思ってくれる人が少しでも居たらそれで良くてさ、それで、その人たちだけを、大切にしたいな、なんて……」
そっ……か。
「……それって、そうなのかもしれない。顔ってさ、タイプだったり、タイプじゃなかったり。でも俺は、思うの。顔がタイプでも、中身でダメって思われるような、そうしたら、俺のことをいいって思ってくれる、人なんて……」
夏鈴さんは俺に肩を寄せて、俺の左手を両手で包んでくれた。
「大丈夫だよ。遥斗くんは、とっても優しくて、素敵だから。遥斗くんを、嫌う人なんて、多分いないから」
『遥斗くん、私ね、遥斗くんのこと……』
あの時りさちゃんは、俺のことを少しでもいいって思ってくれたのかもしれない。それだったら、夏鈴さんだって、俺に対して、同じことを思って、くれているのかな……
「か、夏鈴さんはさ、俺、のこと、どう……あ、ごめんね、やっぱり、なんでもない」
夏鈴さんは、ふふっと笑って、俺の頭を少しだけ撫でた。
そうこうしているうちに、50分が経ってしまった。
「もう少しだけ、私、遥斗くんとお話がしたいかも」
上目遣いの水色の目がキラキラしてて、手もつながれていて、
「そ、それって、俺のことが、少しでもいいって思ってくれたってこと? それとも、俺の事はそんなに興味なくて、お金が……」
そう言った瞬間、夏鈴さんは、少しだけ泣きそうになりながら、首を横にふるふると振った。
「ううん、そんなことない。私は、遥斗くんが大好きで、ずっとお話がしたくて……あ、言っちゃった」
そう言ってフフッと照れ笑いする夏鈴さんを見てまたキュンとしてるの。




