御曹司カフェRoyal
ビルの階段をかけ降りる。
白のパーカーに、インナーはちいかわ。シナモロールの手提げを持って、よく見える丸メガネで、踏み外さないように注意しながら。
パーカーから、髪がなびく。私は急いで電車に乗る。秋葉原から池袋までは山手線で少しあるから。
ぼーっと外の景色を眺める。
「ソラくんみたいな優しい人がいるから、私は嫌なお客さんでも」みたいなこと、言ったんだっけ。
そういう考え方も出来るけど、やっぱり傷つくことは傷つくし、今日だって、髪切った方が可愛かった、とか、メイク突っ込んできた人もいたし……。
だからといって私自身の価値観を変えなくてもいい。そんなことは、知ってる。知ってるんだけどさ……。
池袋駅を降りて路地裏を歩く。エレベーターで3階。右手一番奥の、高級そうなドアを開ける。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
御曹司カフェRoyal 。ここに来れば、私は少しだけ、遥斗くんの特別な存在になれる気がするの。
「……そっか。わかるよ。傷つくこと、言われる、よね」
「……うん。お仕事でお客さんに色々言われると、つらくってさ。メイクのこととか、髪型のこととか……」
「そっかそっか」
遥斗くんは私のことをじっと見つめる。赤の髪は右に流されていて、シュッとした小顔に、切れ長の、青みがかった大きな瞳。かっこいい系? 王子様系、ってやつかな。とってもタイプかもしれない。
「……やっぱり、りさちゃんは今のままが1番素敵だと思うよ」
「……ほんと? 信じていいの?」
「本当だよ。その黒髪のロングヘアも、涙袋のキラキラも、全てが素敵」
「そっ……か。遥斗くん、私、遥斗くんのこと……」
遥斗くんは首をこてんとかしげる。
「……やっぱ、何でもない」
遥斗くんはフフッと笑って、私の頭を少しだけ撫でた。
「そっかそっか。また、言いたくなったらでいいよ。今日もたくさん頑張ったんだね」
「……うん」
「りさちゃん、少しだけお願いがあってさ……」
「なに? 私にできることならなんでも聞くよ!」
「あのね、俺、今月……ううん、やっぱいいや! ごめんね、何でもない」
そんな泣きそうな遥斗くんの顔を見ると、やっぱり、遥斗くんのために頑張ってあげようって、思えてくるから。
「遥斗くん、一緒にこのシャンパンで乾杯しよ?」
「……いいの?」
遥斗くんのキラキラした目が見れたから、私はとっても幸せで。




