↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/18

16話 小さな書店

露店や店舗をいくつか回わり終えて、馬車の御者へと荷物を任せるとミアは少し外れた道の方へ歩き出すとくるりと振り返って言った。


「よし…そろそろ行きましょうか。ギルバート様が喜ぶであろうところへ!さぁ、出発進行ですよ!出発進行〜!」

「あい〜!」


ミアがそう拳を空に掲げると、抱えられたリックも真似をして笑顔で小さな手を掲げた。2人はクスクスと笑いながら、歩き出した。そんな2人の姿に俺も思わず、少し笑ってしまうと同時に相変わらずな様子に呆れてしまう。両手を広げ、首を左右に揺らし、2人の後を早足で追いかけた。




さっきまでの大通りと比べると小さな小道をどんどんと奥へ進んで行く。進めば進むほど、辺りの景色は段々と活気が減っていく。ヒビの入ったレンガの建物や整備のされていない土のでこぼこ道。景色が変わっていくと共に心做しか、辺りの空気も少し澱んでいるような気がした。

曲がり角を曲がって、進むと古くなった小さな石造りの橋が見えた。橋にはもう水は通っておらず、ただの建造物に成り果てていた。橋の方へ近付いて行く。すると、橋の傍の階段の下に隠れるように地下に続く階段とその先に木造の扉が見えた。ミアは1歩、階段を降りるとくるりとこちらを向いて言った。


「今からは私が白馬の王子様です!ということで…お手をどうぞ、お姫様?」


そう言って、悪気ない笑みを浮かべた。普段なら、このまま素通りするところだが今日はどうしてかそうする気が出なかった。


『はぁ〜……(たまには付き合ってやるか…)』


溜息を吐きながらも、ソッと手のひらを乗せた。




木の軋む音が鳴って、バタンと扉が閉まる。扉のすぐ前には木製のカウンターがあって、奥は薄暗くよく見えない。中は狭く、少し不自由だ。壁中に本棚に本が並べられ、鉄製の梯子。少ない明かりと本と木の香りが酷く暖かいような、安心するような感覚を思わせる。

カチッと音が鳴ると、カウンターに置いてあるランプが灯る。


「魔法関連は奥の棚、魔物や生物関連は真ん中の右の棚、物語は左の真ん中と手前の棚、子供向けの童話は左手前とそこだよ」


そう言って、黒い頭巾を被った腰の曲がった老婆はカウンターの横にある小さな棚を指さした。

中に入って、辺りを見渡す。小さな密閉空間に沢山の本がズラリと背表紙を並べていた。迷わず、俺は奥の棚へと走って近寄った。近くでしゃがんで、下から本を見物する。どれも屋敷にある書庫では見たことの無い本ばかりでどこか荒い作りになっているように見えた。


「餓鬼、こんな狭いところで無闇に走るんじゃないよ。」


そう背後から聞こえ、驚いて立ち上がる。ゆっくりと後ろを見ると老婆はいつの間にか俺の後ろに立っていた。老婆はコツ…コツ……と杖を突き、奥の本棚へ近付くとソッと1冊の本を手に取った。


_histoire (魔法)de la (の) magie(歴史)_


そう書かれた緑のボロい本。それの表紙を手の平で叩いて、埃を払う。ふー、と息をかけると老婆はゆっくりとこちらを向いた。


「アンタにはこれが良いさね」


老婆はそう言って、半ば強引に押し付けるように本を押さえつけられる。直ぐに老婆は本から手を離し、カウンターの方へとゆっくりと戻って行った。

渡された本を見やる。紙は不揃いで、そこかしこに折れたり、汚れの付いた年季の入った本で表紙の文字も今にも消えそうなほど薄くなっていた。


小さな空間の中で老婆とミアの会話が横目に聞こえてくる。


「ねぇ〜!新しい本とかないの?」

「そんなもんはない。知っとるじゃろ、うちは平民でも買える…安さが売りなんじゃ」

「えー…それはそうだけどさ〜」


文句を垂れ流しながらも、童話のコーナーから本を手に取っている。そう話している2人は古くからの付き合いのような、昔馴染みのようなものを感じた。

手元の本に目線を戻し、パラパラと本を捲る。中にはここ数百年の歴史が描かれていて、主に平民と貴族に区別をして書かれているようだった。まるで壁画のような絵が書かれていて、質素な服を着た人は焚き火に魔法で火をつけ、豪華な服を着た人は大きな炎の玉を魔物に向けている。

また1枚と捲ろうとすると、突然ふわりと手元の本が宙を浮いた。そしてふわふわと揺れると、カウンターに居た老婆の手の上に本は落ちた。


「そこから先は有料だよ。読むんなら、本を買いな。餓鬼。」


そう言って、老婆クスクスと笑った。俺は老婆の方へと早足で行く。自分の背よりも少し高いカウンターに手を伸ばして、顔を覗かせる。やっとのことで目だけがカウンターの先を覗く。

体内の魔力をグルグルと回し、炎と水を思い描く。ポンッと突然、水の球体は現れる。老婆はカッと目を見開いて、顔を上げた。球体がいくつか並ぶと次はジューと燃える音がして、一瞬にしてそこに文字が浮かび上がる。


_Combien?(いくらだ?)_


その光景にゴンッと本の角が床に打ち付けられる。音の方を見ると足元に何冊かの童話が落ち、広がっている。ミアは唖然として、空いた片手が行き場を失くし、空を掴んでいた。


「ふっ…アンタ、餓鬼のクセによくやるねぇ……そっちの童話と合わせて銅貨10枚だ。返品は受け付けないからね?」


ミアはいつの間にか本を拾い上げ、そして銅貨をカウンターの上に置いた。それを1枚1枚正確に確実に数えた老婆はコインをギュッと左手で掴んだ。


「毎度あり。またのご利用を待ってるよ。」


本を受け取って、表紙の埃を払う。老婆は数回の咳払いをして言った。


「餓鬼…アタシはバーゼルってんだ。アンタはなんて言うんだい?」


その言葉に俺は本を片手で抱え、空いた片手をまたカウンターに置いて顔を覗かせた。ジッと老婆を見つめ、先程のように水が燃える音がする


_Gilbert(ギルバート)_


少ない明かりに照らされて、紫の瞳がギラリと輝いているように老婆には映った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。