15話 知らない街の名前
カランカラン、退店を伝えるベルが鳴って、澄んだ外の空気が体の中を巡り出す。大きな溜息をついて、肩の荷を降ろす。約1時間…いや、俺にとっては約3時間と言っていいぐらいには大変だった。
服飾店で服をリックと俺のを取り繕うと言って、ミアの友人である職員と共に服を見物し始めたのだが…
『…(「類は友を呼ぶ」…ってか?今回ばかりは笑えねぇ〜…)』
2人揃って、持ってくる洋服はどれもピンクやフリル、レースに獣耳、尻尾や花、ハートマークとどれも女児向けのデザインばかりだった。ミアがこうなることは可能性として考えては居たが、迂闊だった。まさか…あの職員まで似た者同士だとは思うわけないだろ。
時は遡って、約1時間前。服飾店での出来事。
「これは!?」
そう言って、全面にハートマークが散りばめられたド派手なピンクの帽子を出した。腕を組みながら、首を横に振る。そして、またミアが下がると次はミアの類友職員が最早、袖の布が見えないほどの大量のふわふわレースが着いた服を何も言わずに俺の前に出す。俺は眉間に皺を寄せ、また首を横に振る。
こんなことをかれこれ数十分間と繰り返していた。いい加減、あちらも痺れを切らしたのかミアが「これで最後」と言った。
「これが…私が選び抜いた渾身の……!!お洋服です!!!」
そう言って、出された手の中には俺の好きな色である黒と暗めの紫色でデザインされた…完全なる女児ドレスだった。
『(もうガッツリ女の子用じゃねぇか!?)』
何が渾身のお洋服だ…期待して損した。
ミアは当然ながら、その類友がマシなものを出すはずもなく…俺は俯いて大きく深呼吸をし、ゆっくりと顔を上げ、眉間にこれでもかと皺を寄せ、目を細めてミアを見つめた。
「わぁー…口元が隠れてても明らかなぐらいには嫌そうですね。」
その言葉に俺は腕を組みながら、今日初めて頭を縦に振った。首が吹っ飛んでしまう…いや、吹っ飛ぶほど頭を動かし続けた。
またカランカランとベルが鳴る。少し遅れて、店を出てきたミアは何やら満足気な様子で妙に達成感があるかのように一滴の汗を垂らし、それを腕で拭った。
「また、素晴らしい買い物をしてしまったか……!」
そう言って、空を見上げ、誇らしげに鼻を伸ばす。その姿に俺はまた眉間に皺を寄せ、直ぐに目を逸らし、勝手に歩き出した。
その後をミアは小走りで追いかけてくると、隣に並ぶように歩き始めた。
「ギルバート様〜!次は広場の方に向かいますよ。で…近くでお野菜を買ったら、ギルバート様にとっていい場所に連れて行ってあげます!」
そう言いながら、1歩2歩とスキップをする。俺の前でくるりと回る。ヒラヒラと洋服のロングスカートが舞い、無邪気なお嬢様のよう。俺の方を見て止まると、得意げに鼻息を鳴らした。建物の隙間から差す陽の光がブロンドの綺麗な髪と黄色の瞳がキラリと一瞬輝いたように見えた。
広場に着くと、そこには周りの建物と比べて妙に綺麗な噴水があって、その噴水は独特な造形と造りをしていた。水がグルグルと宙を浮いて、回るように流れ続けていた。そこの周りにはバケツを持って、並ぶ人達が居て順番に噴水の水を掬っていた。近付いてみると、噴水からはカチカチと機械仕掛けの音が聞こえてくる。
「ギルバート様は初めて見ますよね!これはあの機械卿が作った機械仕掛けの魔法の噴水なんですよ」
近付いて、噴水を見てみる。カチカチと歯車の金属がぶつかり合う音と水が絶え間なく、流れる音が聞こえる。中心の柱は小さな時計台のようで針がまた1つ、また1つと動いている。時計台の時計部分は扉のように空いていて、その中から流れてはプールにあるウォータースライダーさながらのようにグルグルと柱の周りを不思議なことに宙を流れ落ちていく。流れ落ちた先は凹凸のある独特な地面をしていて、歪ではあるがそれがよく見てみると小さな扉や窓のような彫られているのが見えた。
『…(これ、街か。)』
噴水の周りをゆっくりと見て回るとやはり噴水は時計台を中心に広がった1つの大きな街のようなデザインになっているようだった。噴水の裏側に金のプレートがあり、文字が彫られていた。
_La ville d'eau, Leuben_
『(水の都ルーベン…?見たことも聞いたこともないな。)』
噴水の全体を見ようと後退ると、ドンッと通行人に当たって、前によろけて、膝をついた。後ろを見ると、そこには巨体の皮防具を身に着けた男が居て、男は俺に舌打ちをするとそのまま何も言わずに去って行った。男の去って行った方向をジッと見て、男を目線で追い続ける。
直ぐにミアが近寄ってきて、わざわざしゃがんで、膝にリックを置いて、俺を軽く持ち上げ、立たせた。そして何やら色々と口にしているが、俺は全く見向きもせずに男の方をずっと見ていた。
「ギルバート様!お怪我は……無さそうですね。それにしても、あの男!!ギルバート様に舌打ちなんて…ほんっっと人相が悪ければ、性格も悪いんですかねぇ!?」
『………(あれが"冒険者"か。)』
目線を動かす。その目線の遠い先には月日の流れで薄汚れ、劣化して薄黒い巨大な古城がこちらを見下ろすように鎮座していた。




