13話 出不精デバフは外出?
少し離れた場所で本を読み、横目で弟が遊んでいる光景を見守る。そんな時間がここ最近は、俺の時たまの気分転換になっていた。読んでいる本は当然、魔法関連のものでその光景を見たミアには、もはや呆れられるほど俺は魔法にどっぷりと片足を突っ込んでいた。
日々、本に明け暮れ、部屋に引き篭って、魔法ばかりに打ち込む俺とは違って、弟のリックは活発でよく庭園で使用人や母と散歩しているのを見かけた。
ここ1年で、リックについて分かったことが多くある。まずは目の当たりにせざるを得なかった人間離れした莫大な魔力量だ。あの魔力量は国の存亡までにも関わりかねないほどの代物だろうな。攻撃魔法で兵器として使ったり、莫大なエネルギーとしても使えるし、他にもきっと俺には想像し得ない用途があるだろう。
『…(父上達はいつまでリックを守れるのだろうか)』
王族の次に続く上級貴族のロビルアート公爵家であるからこそ、そこらの貴族と比べればやりようはいくらでもある。けれど、貴族というのは共通して王族からの命は逃れられない。王族から命令が下されれば、どうなるか…そんなものは想像に容易い。
『(そんなことを今、考えても無駄か)』
弟のリックはまだ1歳になったばかりで、まだ物心すらついているか危うい。そんなまだ先の話を5歳児の俺が気にする必要もないだろう。今は両親を信じることにしよう。
他に分かったことと言えば、リックの性格についてだ。リックは家族によく懐いているようだった。時たま、テラスで本を読んでいる時があるのだが、その時には、気付くと必ず足元にリックが居て、こちらを余りにも熱心にジッと見つめるものだから。思わず、本を閉じて、リックを膝に乗せてしまうのがもはやルーティン化していた。
「あい!」
足元から、そう高い子供の声が聞こえ、本を視界から退かす。いつの間にか、リックが俺の目の前に居て、積み木を俺にプレゼントしてくれているようだった。
『(ありがとう)』
話せない代わりに俺が笑ってみせると、リックの表情はパーと明るくなる。そして、いつもみたく短い両腕をこちらに伸ばす。本を閉じ、隣に置くとリックの腕の下に手を通して抱き抱えた。膝の上でパタパタと短い足を揺らして、ニコニコと笑っている。
頬を指先で軽くつつくと、それを手でギュッと握る。手を自分の口元へ引っ張っていくと、指先にキスを落とした。それに俺が小さく声を漏らすと、リックは声を出して笑い、更に体重を掛けた。自分の体温と小さな身体から移る体温が段々とポカポカと心地のいいものになっていく。2つの子供の体温が混ざりあって、気付けば兄弟水入らず眠りについていた。
そして、翌日の昼。俺は朝食も食べず、昼時にも関わらず眠っていた。昨日は夜に読み始めた本が思ったよりも、面白くて気付けば夜更かしをしてしまっていた。
心地よく、自室のベッドで眠っていると突然部屋のカーテンが開かれ、部屋中が明るく太陽に照らされた。小さな呻き声を上げ、布団で頭を覆った。
「おっはようございまーす!!!朝どころか、もうお昼ですよ。ギルバート様〜?」
そう言って、俺の覆い被さっている布団を容赦なく奪い取った。鋭く、眩しい光が俺の目を刺激する。腕で光を遮るがそれでも変わらず眩しいままだ。大きな溜息をつくと、ミアは布団を畳みながら言った。
「ギルバート様?私は最近思うのです!」
ボフッとふかふかの布団をベッドの端へ置く。腰に手を当てて、こちらを真っ直ぐと見つめるとミアはハッキリと口にした。
「ギルバート様はお屋敷の中に居すぎです!たまには庭園でリック様と追いかけっこでもしてください!いつも、いつも…遊んだとしても屋敷の中ばかり。」
ごもっともなことだった。ここ数年の俺の生活と言えば、起きて、朝食を食べて、書庫で本を読み、リックと会えば一緒に絵本を選び、昼食を摂って、自室に戻り、魔力操作の練習をして、次は自室で本を読み、夕食を摂って、湯浴みを終わらせれば、また自室で本を読んでは時たま夜更かしをする。まさに出不精そのものだ。
「ですので、本日は午後からリック様と私と共に街へお出かけに参りましょう!!」
そして、ミアは用意をしてくると言って物凄いスピードで部屋を後にした。
『……(え、選択権与えられない感じ?)』
部屋に1人取り残された俺はただ唖然としていた。
街か…前世では馴染みのあるものだが、この世界で街に行くのは初めてだな。少しだけ、楽しみかもしれない。だが、その前に俺にはこの睡魔に打ち勝つという重大クエストをクリアしなければ行けなさそうだ。




