11話 前世の記憶
包帯やガーゼに身を包まれ、ベッドで眠る息子を見る医者が言った。
「身体はかなり傷を負っていますが、命に別状はないでしょう。少しすれば意識も戻りますよ」
その言葉に安堵の息を零す。身体中に小さな傷跡を負った息子の隣では、もう1人の息子が泣き疲れたように眠っていた。
『そうか。』
静かな部屋で呟く。妻のディアンヌは目を覚ましたものの、後遺症で酷く衰弱している。身体中に切り傷を負った長男のギルバート。
それらを引き起こす要因となったまだ赤ん坊のもう1人の息子…リック。
『(膨大な魔の力はいずれ世間から疎まれ、拒まれる。周囲を巻き込み、邪なる者になりやすい…この子が成長し、万が一でも人類に反旗を翻そうとした時には…一体何が……)』
数々の歴史書に多くの悪役が存在した。その殆どは膨大な魔の力を有し、そして人類を軽蔑した。最悪な歴史と多くの犠牲を生み、そして倒れてきた。それがこの世界での歴史だ。
『…過ぎた力は人とこの子を隔ててしまう。どう守るべきか』
魔の手に堕ちないために大人がこの子を導いてやらねばならない。そしてそれはきっと、大人の我々だけでなく、もう1人の息子にも強いることになるだろう。
考えれば考えるほど、気が重くなる。どれも避けては通れないことで手のかかる息子達に溜息が出る。けれど、嫌悪のような気分の悪い感覚は全くなかった。寧ろ、清々しいほどに安心感を感じた。
波の音が聞こえる。白い砂浜と青い海。雲一つない快晴の空。朝の光が海を照らしている。
『…綺麗だ』
そんな言葉が自然と口から零れた。年相応に凝り固まった足腰や、仕事の疲労が癒されるような気がする。
ホーンの大きな音とともに煙突から煙が空に漂った。島から出るフェリーは比較的小さい機体のはずなのに自分と比べると何倍も大きい。
ゾロゾロと沢山の人が歩いて、搭乗する。中には髪の長いセーラー服を身にまとった少女が居た。見たことないはずなのにその少女の姿に何処か不思議な感覚を覚えた。
飛び起きるように身体を起こす。
『…!?』
そこは何時もと何ら変わりのない部屋の景色。無駄に大きなベッドと広い部屋。小さな自分の手足とだだっ広い窓の外の庭園。
夢に見た、身に覚えのない景色。直ぐに分かった。それが自分の曖昧だった前世の記憶だと。疑う余地もなかった。
腕を組んで、目を閉じる。夢で見た景色が薄らと脳内に浮かび上がる。
『(海…海水、水…フェリーの煙…エンジン…燃える…炎!)』
背筋に雷が走ったようにピンッと背筋を伸ばす。目を見開いて、慌ててベッドから飛び降りる。机の上にある沢山の本から、青と赤色の本を1冊ずつ手に取る。窓際に置いて、近くに腰を下ろす。
赤の本の表紙には「炎魔法」と書かれた単語がある。青の裏返った本をひっくり返す。表紙には「水魔法」と書かれていた。




