1-9 異界の和室、そして初遭遇。③
明確に戦闘の邪魔になっていた少年が救出されたことで、ジョンが動いた。隊列はウルトの後ろのままブラックオーを稼働させ、脚部をその場に固定した。そして彼の魔力をその頭部に集中させる。
「【コンセントレイト】【クリティカル】【ブレイブ】【インパクト】多重起動! さあ、一気にカタを付けさせてもらおう!」
ジョンの掛け声に合わせて彼のアサルトタンマツが稼働し、周囲のエーテルを更に吸い取り、魔力へと変換してブラックオーへと注ぎ込む。圧縮されたその魔力を溜め込み、ブラックオーの2つの眼はまばゆく光った。
「【土竜】のごとき一撃だ! その輝きをその目に焼き付けるといい!」
ブラックオーの双眸から光線が放たれ、敵陣を一息で薙ぎ払った。その威力は凄まじく、ゴブリン達は耐えることも出来ずに息絶える。オークも耐えることこそ出来たが、相当なダメージを負っているようだ。タンマツに表示されている分析結果には、既にその体力が半分を切っていると示されていた。
受けたダメージが想像以上のものだったからか、オークはその体制を立て直せずにいた。その時ふとその胸元でキラリと光る何かにジョンは気がつく。ジョンは素早くブラックオーを操作し、それをオークから奪い取ると、果たしてそれはダンジョン内で発見される貴重な鉱物であった。どうやらオークの宝物だったらしく、オークは激昂する。
「ばっかもーん!!! それはわしの金歯にするために大事に拾っておいたものじゃ! よくも奪い取ってくれたな、許さんぞ!」
「やれやれ、我々人間の領域である東京タワーを不法占拠しておいてそれはないだろう。盗っ人猛々しいとはこういうことか?」
オークは「フン!」と荒々しく息を吐くと手にした棍棒を構えて振りかぶった。最前に立っているウルトを無視するつもりらしく、その後ろのジョンとヴァンのタンマツからけたたましいアラート音が響く。
「まずい、【インパクトクレーター】の予備動作を探知したか。来るぞ、ヴァン!」
ジョンがそう叫ぶやいなや、ウルトがすぐさま手元に光の輪を生み出し、オークの腕に投げつける。ダメージにはならないものの、スカウトタンマツに搭載された【妨害】の機能を発揮するには十分らしく、オークの動きは目に見えて鈍っていた。が、完全に止めるには至らないらしく、その棍棒は今にも振り下ろされようとしている。
「うわああああ!!!うわああああああ!!!!!」
ヴァンが情けない声を上げる中、ウルトはその表情が見えない顔で目の前のオークを見据える。
(マズイな、ヴァンの防御性能はオレ達4人の中でも特に低い。なら、ここが【撹乱】の切り時か! 1人しかカバーできないが……ジョンの防御性能は逆にオレ達の中でも群を抜いている。自前で耐えきれるはずだ)
ウルトは両手を十字に組み、腕から断続的に光線を放つ。その光はオークの顔面に命中し、ヴァンの位置を誤認させた。遂にオークの【インパクトクレーター】が放たれる。攻撃はヴァンに命中することはなかった。だが【撹乱】ではジョンへの攻撃まではカバーしきれず、オークの棍棒が彼に直撃する。ジョンは一歩も引かず、ブラックオーの巨大な両腕を盾に見立てて魔力を流し、防御姿勢に入った。
「【シールド】【ウォール】アプリ同時起動! ぬうううううっ!」
オークの強烈な攻撃を受け切るジョンの真後ろ、先程ウルトの【撹乱】によってダメージを受けずに済んだヴァンはその手にアイドルタンマツを持ち、【シャッターチャンス】アプリを起動する。このアプリは戦闘中でも配信の撮れ高を逃さないように設計された、直感的かつ
スピーディに動かせる思考制御式のカメラアプリである。彼はそのアプリの機能で魔力によって作られた仮想カメラを構築し、攻撃を防御しているブラックオーの背中側から正面までをあまさずドローン空撮のように撮影し配信画面へと映し出す。
ブラックオーが攻撃を耐えきり、その腕を振り回してオークの棍棒を跳ね返す。しかし一方でダメージも少なくはなかったようで、ジョンのタンマツに表示された残存魔力量は既に最大値の半分未満を示していた。
タンマツは攻撃と防御両方にその貯蔵されている魔力を消費する。先程敵陣を薙ぎ払ってみせた攻撃も相まって、ジョンの魔力消費はかなり激しいものとなっている。崩れた耐性を立て直しながらジョンがぼやく。
「流石に、そうやすやすとは勝たせてくれないか。だが、この程度ならまだ十分戦える」
「よくもジョンをやってくれたな! 敵を討ってやる! 僕以外がな!」
「まだ死んだつもりは無いのだがね、ヴァン・ヘルシング!」
「よくぞ耐えてくれたな、ジョン。今回復させよう。【ヒール】【ファストヒール】同時起動。さあ、癒しの時間だ」
ノストラダムスの両手から魔力の光が放たれ、ジョンの魔力量が回復する。最大値には満たないものの、先程の攻撃を軽減せずとも耐えられる程度の安全域には達していた。
一方、ヴァンは変わらずふざけた会話を続けつつも、彼のアイドルタンマツにインストールされた【戦闘実況】アプリにより戦況を過不足無く視聴者へと伝えていた。このヴァン・ヘルシングという男は先ほど大げさすぎるほどに恐れおののいてはいたが、実際は微塵も恐れてもいなかった。オーバーリアクションは全て配信に向けたもの。例え目の前のオークがどれほど強烈な攻撃を行おうとも、仲間たちなら確実に自分を守ってくれるだろうし、それによって仲間の方も倒れることなのないだろうと信じ切っている。配信に向けた不安や恐怖の感情と、内に秘めた安心感や信頼の感情を切り分けながらカメラの前に立つことができる。そんな配信者としての才能を、自覚すら無いままに、今初めて彼は開花させていたのである。




