1-8 異界の和室、そして初遭遇。②
最初に動いたのはウルトだった。仮面のような表情のない顔の裏で、彼は事前に分析した情報を思い出す。
(モンスター総数は4、内3体は目の前のゴブリンとオークで確定。後1体罠カテゴリのモンスター反応があったが……あの助けを求める少年が罠モンスター扱いか)
ダンジョンにライバーが潜るようになって既に久しい。彼らは配信を通じて多くの視聴者の認知を集め、己の存在を補強することによってダンジョンからの侵食に抵抗する。だが一方で、ダンジョンもまたそれに対して常に無策であったわけではない。
何らかの知性を持つと推測されているダンジョンは、いつからかライバー対策に偽物の人間をダンジョンに配置するようになった。これはダンジョンに潜るライバー達の、人間と戦闘することへの忌避感を利用するのみならず、彼らに人間らしき存在を惨殺させることで配信へ干渉をするための手段でもあった。ダンジョンの対策はそれに留まらず、本物の人間にモンスターの情報を被せることでタンマツの反応を誤魔化し、モンスターと思って攻撃した相手が人間だった、という形でライバーとその配信へ妨害を行うようになっている。
この戦法の厄介な点として、ライバーからはモンスターの反応を出している人間が果たして本当に人間なのかが判別できないという点にある。特に罠モンスターとしてカテゴライズされている者は本物であるかどうかにかかわらず、攻撃すると過剰にスプラッタな光景が展開され、配信に甚大な悪影響を及ぼす。
そうしたダンジョンによるライバーや配信への妨害行為に対し用意されたのが、タンマツ側での対策である。現行のタンマツには人間への攻撃にフェイルセーフが設けられている。これにより、例えその攻撃が本来ならば相手の生命を容赦なく刈り取る威力であったとしても、相手を気絶させる程度に威力を抑えることができるようになった。このフェイルセーフは罠モンスターとして探知された相手には発動しないものの、そちらは罠モンスターそのものを戦場から排除するスカウトタンマツ標準搭載機能、【罠解除】で対処可能である。
(藤倉――スミスと桐谷――ノストラダムスの2人なら範囲攻撃でゴブリン程度は蹴散らせるだろう。後のオークの対処もスミスに任せるのが良さそうだ。なら、オレがすべきことは範囲攻撃に巻き込まれると妨害になるであろう罠モンスターの排除……! ならば、【罠解除】に連動して【遠隔解除】起動。お前を戦場から除外する!)
タンマツのアプリ起動は戦闘中の操作を排除するため、思考制御によって稼働している。一方で、適切でないタイミングでの暴発を避けるためや配信の視聴者へ何を使っているかを伝えるために、発動するアプリの名を口に出すことを思考制御のスイッチにしているライバーも少なくない。
ウルトの思考によりスカウトタンマツが反応、戦場のどこからでも【罠解除】を実行することを可能とするアプリ【遠隔解除】が起動する。その効力によりウルトは手から光線を放ち、戦場となった和室でモンスターに囲まれてしまった助けを求める少年の身体にその光線はまるでロープのように巻き付いた。ウルトが光のロープをグイと一つ引っ張ると、少年は凧を飛ばすように宙を舞い、そのまま『機動戦士月神部屋』の4人がこの部屋に入って来た入口の方へと柔らかに着地した。
「いやぁ、本当にありがとう! おかげで助かったよぉ!」
そう言って入口から逃げる少年の背中に、ウルトは無言のまま手を振って見送った。




