1-7 異界の和室、そして初遭遇。①
日本人ならば誰もが知る建造物、東京タワー。既にダンジョンへ変貌して久しいその巨大な塔には、日々多くの探索者が稼ぎや配信の撮れ高を求めて出入りしている。4人は既に必要な手続きを済ませ、タンマツを操作しダンジョンの中へと入っていた。彼らがダンジョン内に入ってすぐ、青本――ウルトが調査した部屋へと向かうまでの道中で、門楠――ヴァンは『機動戦士月神部屋』の配信を開始すべくタンマツを操作する。その横で桐谷――ノストラダムスは他のメンバーの変貌ぶりを興味深げに眺め、藤倉――ジョンはタンマツと自分の武器との連動を確かめながら試運転をしていた。
「配信チェック……よし、全員揃ってるかな」
「私の方は問題ない――あーっと、ヴァン。しかし本当に姿そのものが変わるものなのだな。【ファッション】アプリというものは本当に凄まじい」
「俺の方も大丈夫だ、ヴァン。ウルトの方も問題ないらしい」
ウルトはヴァンを無言で見据え、コクリと1つ頷いた。4人がそれぞれ配信の視聴者へ向けて自己紹介をしながら道を進んでいくと、ウルトがジェスチャーで一行を制止した。事前の調査を行った部屋に到着したらしい。中に入ると、4人が自分の目を疑う異様な光景が広がっていた。
畳が敷かれた和室。そこにはちゃぶ台とタンス、そして年季の入った部屋には似つかわしくないほどに真新しい最新式のテレビが置かれていた。直前まで歩いていた、いかにもダンジョンという景色の廊下との違いに4人が動揺を隠せずにいると、彼らが入って来た入口とは反対側にあるふすまが開き、一人の丸刈り頭の少年が慌てた様子で入って来た。
「あややややや! あっ、ライバーの人たちか、良かった! 助けて!このままだと僕殺されちゃうよ!」
その言葉が終わるが早いか、続いて2匹のゴブリンと1体のオークが入ってくる。ゴブリン2匹は単純な単語しか発さないが、驚くべきことにオークは流暢に言葉を喋りだした。
「DEATH~」
「DIE~」
「ばっかもーん!これからお前を殺そうというのに逃げ回ってどういうことだ!」
ゴブリン達は素早く少年とライバー4人との間に入り、少年は身動きが取れなくなった。地形と合わせたあまりにも異様な光景にヴァンが思わず声を上げる。
「ウワーッ!? 日曜の夕方が襲ってくるぞ!」
「あれが実物のモンスターか……どうするんだ、ヴァン。流石に助けを乞う者を配信のカメラの前で見殺しにはできんだろう」
「なに、人語を解する相手にはこちらもやりようがある、ということさノストラダムス君。さあ行けィ、交渉人ジョンよ! 話せばわかるということを教えてやれ!」
「まあ、あの様子では無理筋だとは思うが、やるだけやってみよう。そこのオーク! 彼我の実力差は見えているはずだ! 大人しく抵抗をやめて、人質を解放するのが賢い選択だろう?」
「ばっかもーん! わしは人質を取っているんじゃない! 赤の他人を理不尽にいじめていじめていじめ抜いて精神が疲弊したところを殺すのがオーク生の楽しみなんじゃ! 邪魔をするんじゃなーい!」
「くっそー、やっぱりこうなったかー! 仕方ない、口で言ってわからないやつは実力行使するしかない! 一発かましてやるんだジョン!」
「君のその棒読みぶりを聞くに、最初からこうなることはわかっていたように思うんだがね? まあいいだろう、話を聞こうともしないやつはこうだ! ブラックオー、アクティベイト!」
ジョンが叫び声を上げると、彼のアサルトタンマツから光が放たれ、次第にそれは巨大な両腕を持った高さ2Mはあろうかという重厚な機械鎧を形作る。その背部ハッチが開くとジョンは素早く中へと乗り込み、すぐさまハッチが閉まって機械鎧――ブラックオーが起動する。同時に配信画面には、準備段階でジョンとヴァンが事前に用意していた機械鎧の起動演出が再生され、その後画面に実際のブラックオーの顔面が映し出される。その両目に光が灯された。起動完了の合図である。
「君達のような交渉にも値しない相手は、この超重量級強化外殻機械装甲ブラックオーでお相手しよう!」
「うおーっ! すごいぞブラックオー! かーっこいいぞぅ!」
「おい、おい! ノストラダムスやい、配信に声乗ってるぞ!」
「何のことかねヴァン君。さて初陣の相手としては申し分ない、といったところか。このノストラダムスの前に立ちはだかると言うならば、排除させていただく」
「もうイメージを保つのは無理があるんじゃないかな」
そう言いつつ、ジョンもブラックオーの拳を構え、モンスターと対峙する。ウルトは3人の様子を無言で眺めていたがサッとモンスターの方へと振り返り、腰を落としてファイティングポーズを取った。
――戦闘開始、である。




