1-6 ダンジョンライバーに、なりにいこう。⑥
青本の情報収集はスムーズに進み、東京タワーダンジョン入口付近の情報は十分に得られた。彼がその情報を分析しつつ彼らのタマリバへと帰ると、ちょうど同じタイミングで、ビニール袋を手に下げて桐谷と藤倉がどこからか帰ってきた。
「二人共出かけていたのか? もし何か必要なものがあったのなら、オレがついでに調達して来ても良かったんだが」
「いや何、実は君が出た後に私達の間で、ダンジョン前の腹ごしらえをしておこうという話になってね。そもそも私達を代表して情報収集へ出ていった君に更にお使いを頼むのも忍びなかったから、私と藤倉クンで買ってきたんだ。青本の分は私達で勝手に決めてしまったけど、もし気に入らなかったら交換するから言ってくれ」
そう言って桐谷が青本へ差し出したのは海鮮丼、それも具材が溢れそうになるくらいに盛られた上等なものだった。
「随分豪勢だな、ありがとう。遠慮なくいただこう」
青本が海鮮丼に手を付けると、タマリバにしている食堂のキッチンから門楠が出て来た。その手には熱湯が注がれたらしいカップ麺が握られている。
「門楠は本当にいいのか、それで?」
「いいんだよ青本、これで。僕から頼んだんだ。僕はこれから歌を配信で歌うだろ? それなのに食べすぎて声が出ない、なんてオチはごめんだからな」
そう言って門楠はカップ麺の蓋を開けてすすり始める。桐谷と藤倉はといえば、二人共皿に盛られた見慣れないお菓子をそれぞれ食べていた。
「それは……一体なんだ? ずいぶん小洒落たものを食べているな」
「これはイル・フロッタントだよ、青本。火を通したメレンゲをカスタードクリームに浮かべたものさ。買い出しに出ている途中で見つけてね、私も藤倉も気になったから買ってみたんだ。中々旨いぞ!」
そうこうしている内に門楠は全て食べきったらしく、スープを飲み干して残ったゴミをゴミ箱へと捨てた。
「ふう、ごちそうさま。それじゃあ僕は配信告知を兼ねて歌の配信を始めるよ。ああそうそう、食べてる間に青本が集めてきた情報を見せてもらった。あの感じなら大丈夫そうだから、さっき頼んでおいたことをやってもらえるか、桐谷」
「ああ、任せておきたまえ! 配信の間にこちらでやっておくから、君は歌の方に集中するといい」
「わかった。そっちもよろしくな」
門楠はギター片手に広げられた手製の配信室へ向かい、手元のアイドルタンマツを起動する。配信を開始すると同時に【歌ってみた!】アプリを起動し、ギターの弾き語りを始めた。【歌ってみた!】カテゴリの巡回をしている視聴者がいるのか、初めての配信の割には順調に数字が伸びている。それを眺めながら、桐谷は手元の端末を操作して【エムカリ】アプリを起動する。食べ終わった食器の片付けを終えてそれを見た藤倉が桐谷の横へ座った。
「それって確かダンジョン探索者が余ったツールを売り買いするアプリでしょ? 何か買い忘れたものでもあったの?」
「いや、むしろ逆だよ。私がツールを売りに出す側さ。さっき門楠と話してたんだけど、最初の支給品で貰った【ダンジョン保険】は要らないんじゃないかと、彼は言っていてね。それなら今のうちに売り払って軍資金にしてしまおう、ということになったのさ」
「えっ、【ダンジョン保険】って確かタンマツの魔力が切れた時に復活させられる生命線みたいなうツールじゃん!要らないってどういうこと!?」
「確かに君の言う通りだね。ただ、今私達に手元にある【ダンジョン保険】は1つだけ、門楠の分だけだ。彼の考えだと、直接戦闘能力に乏しい自分だけが生き残っても仕方がないから売り払った資金で戦力強化をした方がよっぽど生き残りの目が見える、ということらしい」
「なるほどなぁ……あ、売れたんじゃない?」
「おお、流石にそこそこまとまった金額になるなぁ。と言うわけで藤倉クン、君のタンマツに送金しておいたから、早速このお金で君のタンマツを強化したまえ!」
「ちょっ、ちょっとちょっと待って桐谷さん!? こんなに俺が使っていいの!? ホントに!?」
「もちろんさ! 戦闘力が弱かったりそこそこ止まりの私達を強化するより、既に強い君をさらに強化した方が遥かに強いに決まってるからね。さ、そろそろ配信の時間だ。早いこといい感じのアプリをインストールしてくれたまえ!」
「そ、そんないきなり言われても……ええいっ、これとこれだっ! インストール完了、これで戦力増強だ!」
藤倉のタンマツにアプリがインストールされたことを確認すると、桐谷は白いローブをまとい、目元を隠す仮面を装着した。彼はニヤリと笑って他の3人へと叫んだ。
「よし、これで全員準備完了だ。みんな、タンマツは持ったな!行くぞォ!」




