1-10 異界の和室、そして初遭遇。④
タンマツのロードが終わり、再びウルトが動けるようになった。しかし彼はジェスチャーによって他のメンバーへ先に行動するように指示する。罠モンスターの除去によって既に最低限の仕事は済ませた上、スカウトタンマツの特性故に敵への有効打を見込めないことから、活躍をジョンに譲るつもりである。彼の考えを汲み取ったジョンはブラックオー越しに一つ頷くと、攻撃の構えを取りながら最前に出る。
「いささか消費が激しいが、やむを得まい。再度アプリを多重起動!【コンセントレイト】【クリティカル】【ブレイブ】【インパクト】だ! 私の趣味ではないが、仕方がない。荒っぽく行くぞ!」
ブラックオーが右腕を大きく引いてパンチの姿勢に入ると、ジョンのアサルトタンマツからブラックオーの右腕に魔力が注がれ始め、その装甲の側面からシリンダーが飛び出す。肘の部分にある特に太い3本のシリンダーが飛び出し、込められた魔力により右腕全体が光を帯び始めた。それを見たオークが危機感を覚えたらしく、大きく飛び退いてジョンとの距離を離した。
「ばっかもーん! そんなものを振り回すんじゃない! 危ないだろうが!」
「そういう君のほうがよっぽど人間にとって危険なことをしているのだがね? その程度でこのブラックオーから逃れられるとは思わないことだ!」
ブラックオーの腰から鎖付きのアンカーが射出され、オークの身体に巻き付いた。オークはそれを引き剥がそうとするが、アンカーはしっかりとその身体に絡みついて離れない。ブラックオーは空いている左手でアンカーの鎖を掴んで一息に引っ張り、オークを目の前まで引き寄せた。
「【鬼殺し】の一撃だ! 遠慮せずに受け取りたまえ!」
ブラックオーは輝く右腕でオークを殴りつける。オークはブラックオーの拳を受け止めるが、ブラックオー右腕装甲側面のシリンダーが全て一度に収縮して魔力が圧縮される。巨大なブラックオーの右腕全体が更に強く輝き始めた。
「バイバイ!」
ジョンが叫ぶと轟音とともにブラックオー右肘のシリンダーが収縮、超高温超高圧となった魔力が拳から射出され、オークの身体に叩き込まれた。その威力は先の攻撃で既に傷ついていたオークを仕留めるのに十分だった。その攻撃を見てヴァンが喜び声を上げる。
「FOOOO!!! さっすがはジョンだ、かっこいいぜ! 撮れ高満載、サイコーの見せ場だ!だから既に【シャッターチャンス】アプリは起動している!」
ヴァンの宣言通り、先程ジョンがブラックオーを操って放った【鬼殺し】の大技はその一連の流れを余すこと無く配信画面へと様々な角度からの映像で映し出されていた。ド派手な技の演出と、それに合わせて綿密に打ち合わせされていたかのようなダイナミックで緻密なカメラワークによって、そのワンシーンのみで配信の数字が大きく伸びていた。
ジョンの一撃により戦闘が終了し、ウルトがスカウトタンマツ操って周囲の敵の存在を確認する。彼が安全を確認し、もう大丈夫だということをジェスチャーで示すと、他の3人は戦闘態勢を解いた。ジョンがくたびれた声を上げる。
「やれやれ、勝てたとはいえタンマツの消耗がいささか激しすぎるな。ドッと疲れた気分だ」
安全が確保されたことで、4人はそれぞれモンスターの残した戦利品の回収を始めた。中にはすぐに使用できそうな薬の類や、外の世界で市販されている【携帯食料】もあった。早々に回収作業を終えたヴァンが待ち時間の間、配信の視聴者に向けて軽い雑談をしている。
「ヘイヘーイ! さっきの戦闘でも大活躍だったヴァン・ヘルシングお兄さんだぞ! 気軽にヴァン兄貴って呼んでくれーい!」
回収作業をしている中でその声を聞きつけたジョンとノストラダムスがすぐさま配信に届くように揃って声を上げた。
「「兄貴! 兄貴! ヴァン兄貴! 流石は兄貴! ヴァン兄貴!」」
「あ、あの……ちょっと気恥ずかしいからやっぱやめにしようぜ」
「「やめない!絶対やめないぞ!」」
ふとヴァン兄貴が配信に流れたコメントに気がつく。
「えーっと? 『あのいぶし銀の活躍をしたシルバーなお兄さんが見たいわ! もっと配信に映してちょうだいヴァン兄貴!』か。コメントありがとう! おーいウルト、ちょっとこっちに来てくれ!」
ヴァン兄貴に招かれたウルトは配信カメラの前で腕を組み、渾身のドヤ顔をして見せる。
「まあ、そうするしかないよな……」
ヴァン兄貴の脳天に、抗議の意味が籠もった渾身のチョップが突き刺さった。




