1-11 異界の和室で、小休止
一行が物資回収を終えると、目に見えてテンションが上っているノストラダムスがジョンへと話しかける。
「いやぁおつかれさま! 大活躍だったなジョン!」
「おいおい、カメラが回っているんだぞ? キャラをなんとかしたまえキャラを」
「うおっとと、オホン……さて、露払いは済ませたわけだし、そろそろキャンプを張るにはいいタイミングだろう」
配信側の作業が一段落ついたらしく、2人の会話にヴァン兄貴が加わった。
「キャンプを張るって言うけどなぁ、見てみろよノストラダムス」
彼らの目の前には先程と変わらない光景、つまり日曜日の夕方に放送されているアニメに出てきそうな、古式ゆかしい日本家屋の畳が敷かれた居間があった。
「この和室だぜ? もうそのままゆっくりくつろいだらいいだろ。ほら、ウルトなんかもうあっちでくつろいでるし」
ヴァン兄貴が指さす先で、ウルトはちゃぶ台の下に寝転がってくつろいでいた。
「おお、確かにそうだなヴァン兄貴。しかし彼はこたつでもないのにあんな姿勢を?」
「言うな、ノストラダムス。アレがあいつ渾身のモノボケなんだよ」
「いやに堂に入った休日のパパっぷりだな、アレは」
自身のボケに触れてもらって満足したらしく、ウルトはのそりと立ち上がって先ほどモンスターが現れた方のふすまに向かった。彼はそこで振り返り、他の3人に向かってジェスチャーを始めた。意図に気がついたヴァン兄貴が声をかける。
「えーっとぉ……次の部屋に、偵察へ向かいたい、かな?」
ウルトの意図を正しく汲み取れていたらしく、その言葉に彼はコクコクと頷いた。ノストラダムスがそれに答える。
「うむ、よろしく頼んだ。行ってきてくれたまえ!」
ウルトは出入り口のふすまを後ろ手に閉めながら、宣言通り次の部屋の偵察へと向かった。
それからしばらく後のこと。ヴァン兄貴を筆頭に配信の視聴者とコメントを通じてやり取りをしていると、ウルトがふすまをガラッと開けて戻ってきた。
「ジュワワワジュワワ、ジュワジュワジュジュワワワワワ」
「ヘアッヘアッ!シャア!デュワ!ジュワヘアデュワワ!シュワッチ!シュワッチ!」
「すまないがヴァン兄貴、日本語で頼む」
「てめぇウルトこの野郎! というかこの一発ネタのためだけに居間まで無言キャラやってたんだな!? そうなんだな!」
「お前なら乗ってくれると確信していた」
「清々しいくらいに否定する気も無いらしいな! まったく……で、偵察はどうだったよ?」
「無論、問題ない。必要な情報は揃っている」
ウルトがタンマツを操作し、次の部屋に潜むモンスターの情報を他3人のタンマツへと送信する。
「オレが調べてきた情報はこの通りだ。お前達はどう見る?」
「いささか厄介……という印象だなウルト。仕留めたい相手こそいるが、こちらの狙いをずらせそうな相手がいるようだ。次の戦いは私も攻撃に回らねば危ういかもしれん。私は【儀式魔法】アプリで以降の戦いに備えるとしよう。本来ならばダンジョン突入前にやっておくべきことだったが、【エムカリ】の方に気を取られすぎたらしい。ああそうだ、【ファストヒール】でジョンの回復もしておこう。これで少しは先程の消耗も回復できるだろう」
「回復感謝する、ノストラダムス。だがあいにくと、まだ万全とは言えないな。ヴァン兄貴、先程拾っていた【携帯食料】をよこしてくれ。私はもう少し回復に専念させてもらう」
「その分ジョンは戦闘で大活躍してもらってるからトントンじゃないのぉ? ほら、ゴブリンが残した拾いたてホヤホヤの【携帯食料】だぞ。味わって食いねぇ」
「そう言われるとあまり美味しくなさそうに思えてくるのだがね……ともかく、ありがたくいただこう」
ジョンは受け取った【携帯食料】を開封し、ブロックタイプの焼き菓子を頬張る。その様子を眺めながら、ウルトはしみじみと呟いた。
「もしもう少し手数に余裕があれば、オレも回復に回れるんだがな……」
「そう悲観しないでくれ、ウルト。なにより情報は命だ。君がやってくれなければそもそも方針すら立てられんよ」
「そう言ってくれるのならばオレも助かる。おそらくその【携帯食料】だけでは魔力全快にはまだ少し足りないだろう、この【ポーション】も使えば回復し切ることができるはずだ、ジョン」
ジョンがウルトと話をしながら【携帯食料】を食べきると、その包装の中に1枚の紙切れが入っていることに気がついた。彼がそれを取り出すと、ただ一言『願いを言え』とだけ書かれた紙片だった。紙片の内容を確かめると、ジョンは誰に聞かせるでもなく呟いた。
「願い、ね。なら願わくば、我々の探索が少し楽になってくれれば助かる」
ジョンのアサルトタンマツが淡い輝きを放つ。【携帯食料】と【ポーション】の効果により、タンマツ魔力量の表示は最大値を示していた。しかしそれ以上の魔力がジョンの身体を巡り、タンマツの淡い発光はそのままジョンの全身をも包み込む。ヴァン兄貴が驚きの声を上げた。
「え、ナニコレ……何の光ィ!?」
「わからんが……きっと願いが叶った、ということではないかな? 先ほどと比べても少し身体の動きがスムーズになったように感じる。少なくとも害はない」
「そうか良かった……いやいや良くない、良くないよ!? 僕より目立つんじゃない! こうなったらライブだ! ライブをやるぞ!」
「わあい! ヴァン兄貴のライブだ! ヴァン兄貴のライブ大好き!」
キャッキャと喜びの声を上げるノストラダムスを「どうどう」と制しながら、ヴァン兄貴は【歌ってみた!】アプリを起動して畳に座り、弾き語りの配信を始める。曲が終わり、どれだけ数字が伸びたかヴァン兄貴が自身のタンマツで確かめているとどこからか小さく泣き声が聞こえる。彼が振り返ると、ジョンがさめざめと涙を流していた。
「ああ、畳の上でギターを弾くヴァン兄貴本当に尊い……尊いなぁ……」
「ねぇジョンさん……? それ一体どういう感情? ねぇ! どういう感情なのぉ!? 怖いよぉっ!?」




