1-12 偽りの模造された街 ①
「さて、キャンプはそろそろいいかね?」
ノストラダムスが手をパンパンと叩いて他の3人に確認すると、彼らはそれぞれ頷いた。ウルトが立ち上がり、調査済みとなった出口のふすまを開ける。
「次の部屋へのルートを案内しよう、こっちだ」
彼が先導して一行はダンジョンの暗い通路を歩き、やがて次の部屋にたどり着いた。
ウルトが部屋の入口を開くと、部屋の中のまばゆい光によって一行の目がくらむ。その光に目が慣れた彼らが目撃した光景は、先ほど彼らが居た部屋とは打って変わって、ファンタジーを思わせる西洋風の町並みであった――ように見える。ノストラダムスが辺りを見回してつぶやく。
「ほう? これはまた典型的な中世ヨーロッパの町並みらしい。ダンジョンの空間とは本当に奇妙な繋がり方をしているようだな」
「だが、それにしては奇妙な点がある。見ろ、ノストラダムス。建材がどうも石材ではない。ローマ様式のコンクリートとも思えない。どうにも中世ヨーロッパの町並みそのものというよりは、それを模して作られた何かに思える」
「確かに、言われてみれば君の言う通りに思えるな、ウルト。しかし妙だな、なぜだか私はここに来たことがある気がしている。確信は持てないが……」
「マジかよジョン!? じゃあこの店とか見たことあるのか? 街並みに比べてやけに現代的な服を売ってるぞコレ」
「おお、本当だ。これなんか普段使いにも良さそうな服じゃないか。ここがダンジョンでなければアレコレ見て回りたいくらいだ。む、そう言えばあの空の雲……さっき見た時と比べてまるっきり動いてないのか? いや、むしろ――空も作り物、じゃないか?」
「待て、ノストラダムス……君はたった今、何と言った? 作り物の空、と言ったか? ヨーロッパを模して作られた街並み、妙に現代的な店舗、そして作り物の空――ああ、そうか分かったぞ! これはヨーロッパなんかじゃない、お台場だ!」
「な、なんだってー!? それは本当かジョン!? じゃあまさかここは……あのショッピングモール『ウェヌスポータル』!? 馬鹿な、死んだはずじゃ! 生きとったんかワレェ!」
「まあ、こういう形で現実の施設や地形がダンジョンで再現されるのもよくあることだ、ヴァン兄貴。ただ、我々が最初気づかなかったように、ダンジョン外に存在する本物と何かしらの差異があることも珍しくない。特に今回の『ウェヌスポータル』の場合、既に封鎖されて久しい施設だ。この場所についての人々の『そういえばこうだったな』という記憶……つまりは若干あやふやになった認知によって作られたものが、今こうして我々の目の前に現れているのだろう。だから、材質や店舗のあり方、それにあの作られた空も、先程我々が気付かなかったほどに現実にあったそれとは変わっていても不思議なことではない。そもそも、いちショッピングモールとしては通りも天井も店の一つ一つを取っても、元の施設と比べてあまりに大きすぎるだろう?」
4人がこの部屋の正体を確かめてワイワイと騒いでいると、全員のタンマツからアラート音が響く。モンスターが探知範囲内に現れたとわかり、一行は周囲を警戒する。ジョンがふと、先程まで存在しなかった鏡が通路の真ん中にあることに気がつく。彼はすぐさまブラックオーを装着し、鏡を監視しながら他の3人に向かって叫ぶ。
「情報通りのブラッディマリーだ! 他のモンスターにも警戒!」
ジョンの声を聞いたウルトが自分のスカウトタンマツを操作し、周辺の敵の位置を調べる。反応の位置と周囲の状況を見比べると、鏡に警戒しながら声を上げた。
「ブラッディマリー以外の敵は3体。全て店舗の中だ。位置は把握している、こちらから仕掛けずとも出てくるまで待てばいい」
その声を聞きつけたのか、辺りに可愛らしい少女のような声が響く。その声はどうやら、彼ら目の前にある鏡そのものから聞こえているようだった。
「あらら、あらら? 見つかっちゃったわ、 サプライズをさせてくれないのかしら、サプライズをさせてくれないのね?」
その言葉と共に、鏡の中のフレーム外から西洋人形のような金髪の美しい少女がひょっこりと顔を出す。そしてピョンと小さくジャンプして鏡の真ん中に立つと、軽くカーテシーをしてくるりと一回転した。だが、鏡の手前には何も無く、彼女は鏡の向こう側にしか存在していなかった。
「でもわざわざこんな僻地にまで、感激なのだわ、歓迎するわ! うふふ、あはは! 新しいお客様よ、お友だちよ! 素敵だわ、素敵だわ! さあおもてなしをしてさしあげましょう!」
その声と同時に周囲の店舗から3つの影がゆっくりと現れる。1体は風の精霊らしき女、1体は少女のような形をした植物、そして1体はコウモリの羽が生えた少女であった。敵をタンマツに表示されている情報と照らし合わせ、敵から視線を外さないままジョンが他の3人へ声をかける。
「先頭からブラッディマリー、エアリアル、アウラウネにインプ。ウルトが集めた情報通りか。さて、どうやって戦うとするかな!」
「やはりここは倒しやすい相手から倒して数を減らしていくべきか……!」
「……いいやノストラダムス、それはどうかな! 案外、そうでもないかもしれない、ぜ?」
「な、何!? どういうことだヴァン兄貴!」
ウルトの問いかけをヨソにヴァン兄貴は手元のアイドルタンマツを操作し、配信画面にエアリアルの姿を大きく映し出した。その姿は美人の女が裸のまま空中に浮き、身体の周りに舞う風のエフェクトでその局部を隠しているといったものであった。その映像によって視聴者たちが次々とコメントを書き込んでいるのを見てヴァン兄貴は笑い声を上げる。
「ゲースゲスゲスゲス、いい格好だなぁ……?コレはいい数字稼ぎになりそうでゲス!」
「ヴァン兄貴、君は彼女さんに冷凍庫へ詰められたいのかね!?」
「かっ彼女ぉ~~~~~~~~~~~~??? ちっ、ちっげぇしぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~???? ジョっ、ジョンお前何言ってんのぉ~~~~~~~~~~~!?!?? アイツとは毎日昼にラーメン食いに行く仲なだけだしぃ~~~~~~~~~~~~~~~~??????」
「アラヤダ、奥さん! あの子ったらアレで付き合ってるのバレてないつもりらしいわよ!」
「もはや隠す意味なんて無いのになぁ」
「コラッ、そこ! ウルトとノストラダムスは根も葉も無い噂をばらまこうとするんじゃあ、ありませんことよ!」
彼らのやり取りを見て鏡の中の少女――ブラッディマリーがクスクスと笑う。
「私達のために漫才を披露してくれたのね? 素敵だわ、素敵だわ! それじゃあ、今度は私達とダンスを踊りましょう? うまく踊れるかしら、うまく踊りたいわ! スロー、スロー……クイック、クイック、スロー……さあ、始めましょう?」
それが戦闘開始の合図であった。




