1-13 偽りの模造された街 ②
先手を取ったのはノストラダムスである。彼の手には剣の持ち手らしき物体が握られている。ノストラダムスがそれに魔力を流し込むと、持ち手の先から光の刃が伸び、直剣のような形を取る。彼はその光の直剣を構えると、敵の最前線にいるブラッディマリーへと距離を詰めた。
「さて、私もそろそろ仕事をせねばなるまい。かかる火の粉程度は払わせてもらおうか!」
「いいえ、お兄さんそれはダメ、ダメなのよ? ウフフ、アハハ……そう簡単にはやらせてあげないわ、やられてあげないわ?」
笑い声が響き、鏡ごとブラッディマリーの姿が消える。気がつけば彼女の姿は遥か彼方、敵陣の最後尾にあった。その代わり最前には先程まで最奥に居たインプが居座り、人を小馬鹿にしたクスクス笑いを浮かべている。だがノストラダムスに動揺は見えない。
「前情報通りの転移能力か、厄介だが……狙いは未だブレてはいない!【拡大】起動、さあゆくがいい――ドラグーンファングよ!」
ノストラダムスが叫ぶと共に、彼が手に持っているものと同じ予備の武器が4つ背中のマウントラックから飛び出し、【拡大】アプリによる魔力放射を受け取って手元のものと同様の光刃を展開する。彼の周囲に浮いていたドラグーンファングは鋭角に曲がる直線的な軌道を描きながら敵陣のモンスター3体――インプ、アルラウネ、エアリアルを取り囲む。ノストラダムスはヴァン兄貴へ合図を送り、配信によってストックされていた余剰魔力を武器へと流し込み、その光刃はさらに輝きを増した。
「さて、アルラウネは増殖する特性を持つことは既にわかっている。多少強引にでも仕留めさせて貰おうか!」
「厭なことをしてくるのね? でも通さないのだわ、許さないのだわ?」
ノストラダムスの攻撃が命中する寸前、ブラッディマリーの声が響くと共にアルラウネの姿が消え、再び鏡とそこに映った少女が現れる。アルラウネは敵陣の最奥へと移動し、ドラグーンファングの射程範囲から外れていた。ノストラダムスは一つ大きく舌打ちをする。
「チィ! やはりというべきか狙いをずらされたか。だが、それ相応の消耗もあるのだろう? そうそう何度も転移による移動は使えまい! 【骨砕き】だ、しばらく機能不全に陥って貰おうか!」
ドラグーンファングが敵陣中央の2体に突き刺さり、ノストラダムスがその手の光刃で最前に居たインプを切り付ける。エアリアルとブラッディマリーは遠隔攻撃に耐え切ったものの、直接切り付けられたインプは耐え切れずにその場で倒れた。その瞬間、アルラウネが倒れたインプに向かって種子のようなものを飛ばす。それに気づいたウルトがすぐさま声を上げた。
「アルラウネの増殖能力だ! 敵の増加に警戒しろ!」
「発芽自体は確定ではないはずだ、頼む……!」
ジョンの言葉と共に彼のタンマツが一瞬淡く輝く。だが誰も気が付かないまま空中の種子も同じ光を放ち、すぐに両方の光が収まった。インプの遺体にアルラウネの種子が落着し、そのままピクリとも動かずに崩れ去る。アルラウネは言葉こそ発さないが、目に見えて落胆した様子を見せる。増殖は失敗したようだ。安堵している機動戦士月神部屋の一同に対し、エアリアルがかまいたちを放って攻撃を試みる。その風によって揺れ動く彼女のバストは豊満であった。敵の動きに気がついたウルトが手から光線を放ち、放たれたかまいたちにぶつけてその威力を弱めた。
「危ない真似はやめてくれ。我々は打たれ弱いんだ」
「そんな、私達のOMOTENASHIを断ると言うのですか!?」
「おうそこでスクワットしててくれるのなら考えてやるよ」
ヴァン兄貴はそう言いながらアイドルタンマツのカメラ機能で動き回るエアリアルを1秒たりとも逃さず配信画面に映し続ける。そのかいあってか、配信の数字やコメントの数が更に伸びてゆく。それ見て彼は敵の攻撃が迫る中でも配信の視聴者に向かってコメントを促し続けた。
「あそーれわっふるわっふる!みんなもわっふるわっふると書き込もうぜ!」
「言っている場合かね!?」
ジョンがヴァン兄貴を制して攻撃の前へと躍り出る。アサルトタンマツを操作し【ウォール】アプリを起動。配信閲覧によって生じた余剰魔力を込めることで味方全体への被害を軽微なものへ抑えた。彼はブラックオーの防御姿勢を解き、今度は遠距離攻撃の体制に入る。
「やれやれ、なんとかなったか。では、お返しをさせていただこう! 【コンセントレイト】【クリティカル】【ブレイブ】【インパクト】多重起動! 【土竜】の一撃だ、いささかエレガントさに欠けるとは思うが、これが君たちには似合いだろう!」
ブラックオーの両目から高熱を帯びた魔力の光が放たれ、敵陣を薙ぎ払う。その光線は先程アルラウネが種子を放った器官に命中し、的確にその部位を使用不能にした。他の2体は既に負傷している中でブラックオーの高出力ビームを受けて息も絶え絶えになっていた。戦闘続行はおろか、もう助かることもないだろうことは容易に見て取れる。ヴァン兄貴がどこからか青い液体が注がれたカクテルグラスを取り出し、配信のカメラへ向かって掲げる。
「フフ、【シャッターチャンス】……まばゆく光る君の瞳に、乾杯」
「比喩ではなくこの光ってる瞳に乾杯したら蒸発するだろう」
ジョンは配信カメラを操作しているヴァン兄貴にカメラ目線でツッコミを入れた後、ブラックオー頭部の排熱機構を操作しながらアルラウネに向き直って語りかける。
「すまないがこちらにもあまり余裕はない。君が増殖するための器官は焼かせてもらったよ」
「ナンテコトヲ……」
その後の展開は語るまでもない。ウルトやヴァン兄貴が視聴者に向けたパフォーマンスで配信の数字を稼ぎ、ノストラダムスの【ファストヒール】によるリソース回復を受けながらジョンがブラックオーの【鬼殺し】でアルラウネを仕留めた。
ブラックオーの戦う姿をウルトとヴァン兄貴が実況で視聴者に解説して見せたことがウケたらしく、配信の数字は戦闘前に比べ大きく伸びている。戦闘を終えて敵が残した物資を回収しながら、4人は配信の成果を共有して喜びあった。だが、その瞬間に彼らのタンマツからアラート音が響き、通路の奥から更に4体のモンスターが現れる。戦闘体制を取りながらヴァン兄貴が叫ぶ。
「待て、新手だ! みんな構えろ!」
「バカな! 先程この部屋は隅々まで反応チェックを走らせたはずだ! なぜ引っ掛からなかった!」
4人が戦闘体制を取る中、敵の一団はゆっくりと近づいてくる。だが、ついに戦闘が始まることはなかった。モンスターが4人と接敵するその瞬間、彼らの直上にあった渡り廊下から直剣のようなものが降り注ぎ、全てが正確にモンスター達を貫いた。モンスター達が息絶える中、1つの人影が同じ渡り廊下から飛び降りてくる。
「新人ライバーの窮地と見て、勝手ながら横槍を入れさせてもらった。それとも、君達の取れ高を奪ってしまったかな? それならお詫びしよう」
現れたのは、司祭服を身につけた一人の男であった。
(胡散臭い)
(胡散臭いな)
(胡散臭いね)
「胡散臭いよ」
「何を言い出すんだヴァン兄貴! いや、助けていただいたのに申し訳ない……」
謝るジョンに対し、司祭服の男は表情を変えずに、しかしわずかに沈んだ声で答えた。
「気にすることはない。自覚くらいは――――ある」
(傷付いた)
(傷付いたな)
(傷付いたね)
「傷つけちゃった……」




