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2-20 急襲、タマリバに(平和)②

彼らが食べ終わり、ゴミの処理を終えた後、手塚が改めて4人に向き直る。


「ごちそうさん、っと。さて、本題に入らせてもらおうか。昨日のお前達の配信はもう見てある。中々派手にやらかしたな。あの足付きには笑わされたが」


「それは……どうも、ありがとうございます、でいいんですかね?」


「褒めてるんだぜ?そこは素直に受け取っておけ、あー……確かヴァン・ヘルシングをやってる門楠だったな。ま、これでもダンジョンに関わってから長いんだ、お前達が有望な探索者だってことはわかる。ただな……桐谷、だったか? ノストラダムスをやってるヤツってのは。お前さんだけはちょいと話が変わってくる。わかるな?」


「確かにノストラダムスは私ですが……それはつまり、『偽聖杯』のことですか、ポカニキ?」


「シレッと定着させようとしてないかそれ? まあいい、わかってるんなら話が早くて俺も助かる。いくら配信を使って余剰魔力溜め込んだとしても、まず根本的にタンマツで一度に扱える魔力量の限界って物がある。そいつは概ね、使用者の存在の力の規模に応じて変動する。だが、昨日お前が特異個体相手にぶっ放したあの一撃に関しちゃ、誰がどう見たってお前個人の存在規模をぶっちぎった魔力量をしていた。ま、種は割れてるんだがね。桐谷、お前さんの論文、読ませてもらったよ」


「あの『空想魔術』の論文ですか? 今思えばアラや訂正する箇所が多くて書き直したいくらいなんですけどね」


「そう謙遜するな。理論は間違いなくあってる。実地調査を長くやってきた俺も保証しよう。だが、実現するためには現実的に不可能な条件がいくつもあったから、『空想魔術』なんて扱われてた。その条件を一足飛びに片付けられるもの、つまり『偽聖杯』が目の前にあったから、理論を実証するためにアレをつかったって所だろう。違うか?」


「少し違いますね、ポカニキ。あの時、極めて耐久力の高い特異個体のレギオンやその眷属に有効打を与えるための手札を探して、他に頼れそうなものが無かったから『空想魔術』を現実に出来るかどうかの賭けに出た。それだけのことですよ」


その時、藤倉が申し訳なさそうに手を小さく上げた。


「ごめん、ちょっといいかな……その『空想魔術』って、何?」


「ああ、去年の秋頃に私が出した論文の通称だね。出した後学部の教授陣総出でツッコミが入って笑い話になっているがね。だから君が知らないのも無理はない。門楠、説明してやってくれないか?」


「そこで僕に振るのかよ!? 自分の論文なんだから自分で解説したらいいだろ桐谷!」


「頼むよ、自分で失敗作のことをつらつらと解説するなんて、とても気恥ずかしいんだよ?」


「僕が解説しているのを横で聞くのも大差ないと思うんだけどな、ったく……とりあえず藤倉、まずは基礎のおさらいからだ。俺達がダンジョンを探索する時、なんでわざわざ配信をする必要があるのか、答えられるか?」


「えっと、配信をして閲覧者に認知されることで探索者の存在規模を増強して、ダンジョンに満ちてるエーテルからの侵食に抵抗するため、だよね門楠?」


「ああ、それでいい。で、ここからが重要なんだがな……ライバーってのは配信で閲覧者が抱いた認知に影響されて変質する現象が確認されてるんだ」


「えっマジ? 初耳なんだけど門楠」


「マジだぞ。僕も、お前も、青本も桐谷も、2回も配信を終えてるからその分存在が変質してるはずなんだ。どこがどう変わったかを自覚するっていうのは中々難しいんだけどな。で、これが『空想魔術』の話に繋がってくるんだ。このことを知った桐谷は考えたわけだ、もしこの認知を操作して自分にとって都合の良いものだけを集めればもっと効率よくダンジョンで戦えるんじゃないか、ってな」


「……できないの?」


「そう簡単に出来るものじゃないんだよ。一回青本とウルトで例えてみるか。藤倉、仮にお前が閲覧者としてウルトの配信を見たら、どう認知して見ると思う?」


「え? えーっとじゃあ、宇宙人だ! とか?」


「そうだな、本人がそう名乗ってるんだしそう思うだろうな。じゃあウルトが本物の宇宙人だと思うか?」


「いや、そんなワケ無いじゃん。あくまで配信の設定なんだし、みんな偽物だってわかった上で、あたかも本物であるていで楽しんでるんでしょ門楠」


「よくわかってるじゃないか藤倉。つまりお前1人の認知だけでも、『ウルトは宇宙人だ』『偽物の宇宙人だ』という認知の両方が混じってライバーに届くわけだ。だからどれだけ青本が宇宙人として配信をしても、本当に宇宙人としての能力を得たりはしない。その代わり、【ファッション】アプリとかを駆使することで、それっぽく見せてエンタメに仕立て上げているってことだな。で、だ。桐谷の理論は、何人もの閲覧者が持つ入り混じった認知の中から、ライバーが望むものだけを抽出しつつ不要な認知を弾いて適用したら、もっと効率的にライバーを強化できるんじゃないかっていうものだったんだ。ウルトの例えで言うのなら、『ウルトは宇宙人だ』って認知を束ねて集めて、本当に宇宙人の持っているような超能力を使えるようになるって具合だな」


「……ねえ門楠、それだとウルトが本当に宇宙人になっちゃわない?」


「お、鋭いな藤倉。そう、それだとライバーが認知の影響をモロに受けて、配信上で演じてる姿そのものになってしまう。だから桐谷はそこに安全策を用意したんだ。そうやって閲覧者の認知で拡張される肉体を魔力で編んで、着ぐるみのように着る。そうするとウルトの例えなら、ウルトが宇宙人の着ぐるみを着て超能力を使えるようになって、なおかつ用済みになったら全部魔力に戻してしまえば中の青本は影響を受けずに人間のままで居られるってわけだ。ちなみにその理論を応用して作ったのが、お前の使ってるブラックオー、つまり魔力で作った着るタイプの武器だな」


「え、完璧じゃん。ダメな所あった?」


「まあ理論だけならな。だが残念ながらタンマツに収まる程度の魔石じゃ、そこまで大規模な認知の選別に必要な出力に全く足りてないんだ、藤倉。桐谷の理論を実現するために必要な出力は試算したらダンジョン一つ分以上の魔力が必要だった。魔石の大きさで換算するなら、20階建てのビルに相当するという試算もあったな。だから机上の空論で、現実には不可能な空想でしか実現できない『空想魔術』なんてあだ名がついたのさ。大体こんなものかな、何か訂正する所とかあったか?」


門楠の問いかけに、桐谷は微笑を浮かべながら目を閉じて首を横に振った。


「完璧だったよ、門楠。今なら私の代わりに改良した論文を書けるんじゃないか?」


「よせよ、桐谷。今話した内容だって、全部お前から教えてもらったことの受け売りなんだぞ?」

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