2-19 急襲、タマリバに(平和)①
翌日のこと、機動戦士月神部屋の4人が昼食を取るためにタマリバから出かけている頃。1人の男がその廃校の食堂へと入り込んでいた。彼は辺りを見回して一言つぶやく。
「……へぇ? ここがアイツラのタマリバってやつか。コイツは中々どうして悪くないじゃないか。久々に会うとは言えあの甥っ子だ、さほど心配こそしちゃいなかったが……いい友人が出来たようで何よりだな」
その頃、当人たちはと言えば昼食を終えてタマリバへと戻るところであった。錯覚ではない、正真正銘のうだるような暑さに藤倉が愚痴を吐く。
「あっつぅ~~~……なんでこう毎日毎日暑いんだぁ」
「夏だからだろ、そりゃあ……近所だから食いに行ってもいいかな、とか思ったけどまさかこの距離でもこんなに汗をかくことになるなんてな」
「まあまあ門楠、味は最高だったからその甲斐はあったじゃないか! 量も申し分なかったし、また行こう! もし出前があったらなぁ……」
「そうは言うが、あの味は出来たてじゃないと相当に劣化するタイプだろう桐谷。だから出前をやっていないのにも相応の理由があるということだ。ともかくさっさとタマリバに戻ろう。調理場の冷凍庫にしばらく分のアイスを詰めたある。昼食を食べたばかりとは言え、そのくらいは入るだろう?」
「さっすが青本だ! それじゃあ早く戻ろう、そうしよう!」
藤倉が喜び勇んでその歩くペースを早める。他の3人もそれにつられて足早にタマリバへと帰って行った。彼らが帰り着いて食堂の扉を開けると、その目の前には1人の男が座っていた。腰まであるだろう金髪に、目元を完全に隠したサングラス。胸元を大きく開けたシャツの上に直接黒いコートを羽織ったその姿は、インテリヤクザ然としていて、一言で表すなら胡散臭い風貌の男である。彼が帰ってきた一同を見て声をかけた。
「よう、はじめまして……それと久しぶり、だな」
「おじさん!? どうしてここに!?」
「誰ぇっ!? えっ、青本今おじさんって言った!?」
青本の言葉に藤倉が驚いている一方で、門楠はその金髪の男を見て完全に固まっていた。
「えっ、戦いの神……? 本物か? 【ファッション】アプリを使っていないのか……? それが青本のおじさん……?」
「なにっ!? 知っているのか門楠!? この胡散臭い金髪ロン毛のマフィア見たいな男を! というか無断で入り込むのは不法侵入だぞ!?」
「おいおい、人の顔を見て胡散臭いはないだろう。というか不法侵入に関しちゃ、こんなところにタマリバを構えているお前さん達も人のことは言えないだろうに……」
「いや、ここを使うと決めた時点でもう土地ごと買い上げてある、言ったら秘密基地感がなくなるから言ってなかったけど」
「オーケー、勝手に入って悪かった、降参だ。だから頼む、通報だけはやめてくれないか。俺は可愛い甥っ子にちょっとしたサプライズを仕掛けたかっただけなんだ」
桐谷が明かした事実に対し、金髪の男は両手を上げてホールドアップの姿勢を取る。彼は誰も通報をするような素振りを見せないことを確認し、彼は両手を下ろして改めて4人へと声をかける。
「ありがとう、感謝するぜ。ともかく、まずは自己紹介と行こうや。俺は手塚統理、ライバー名『戦いの神テスカトリポカ』としてちょいとばかり名の知れたライバーをやっている。んで、そこにいる翔吾の坊やは昔面倒を見てた俺の甥っ子だ」
そう言いながら懐から紙巻きタバコを取り出して咥える手塚に、すかさず青本が厳しい目をしながら注意をする。
「ここは禁煙だぞおじさん」
「口寂しいんだよ、ライターもマッチも持ってきちゃいない、このくらいは許せ」
手塚の言葉は本当のようで、彼は火のついていないタバコを咥えたままそれを吸う素振りをしている。それを見ながら門楠が未だに驚いた様子で話しかけた。
「いやいや、ちょいとばかり名の知れたライバーって……それは流石に謙遜が過ぎるだろ。『戦いの神テスカトリポカ』といえば、今の配信を活用した形の第3世代探索者の方式が確立する前、つまりは第2世代からの生き残りの猛者として有名じゃないか」
「ちょいとしたカラクリはあるがね。昔取った杵柄を活かした、みたいなところだ」
「もし門楠の話が本当なら凄いな、本当に!『戦いの神』を自称するくらいだ、彼は強いのか、青本?」
「ああ、射撃はド下手くそだが間違いなく強いぞ桐谷。射撃は信じられないほどにノーコンだが」
「そこはわざわざ2度も強調しなくてもいいだろ、翔吾……俺だって少しは傷つく心くらいあるんだぞ? まあいい、座れよ。外を歩いて疲れてるんだろ?」
「あ、じゃあみんな先座ってて、俺アイス出すから」
「悪いな、頼んだ藤倉」
「いいよいいよ気にしないで青本。テスカトリポカさん……だとちょっと長いな、ポカニキもぜひどうぞ。市販のアイスだったら大抵ありますよ」
「おいおいマジかよ、ならガリガリくんのコンポタ味でも貰おうかね」
「お、最後の一本ですねこれ」
「ヒューッ、そいつはラッキーだ。言ってみるもんだな」
藤倉が両手で人数分のアイスを抱え、他4人が待つテーブルへと並べた。各々自分の好きなものを手に取り、言葉を発することもなく食べ始める。締め切った部屋には空調の音と、わずかに外から聞こえるセミの音が響く。何ということはない日常のひとときであった。




