2-18 何よりの報酬、生還。
5人が気がつくとダンジョンの外へと放り出されていた。キレー牧師が周りを見回すが、そこには彼ら以外に人の気配も、モンスターの気配も何もなかった。
「ここは……先程ダンジョンへと突入した路地裏か。ダンジョンへと続く空間の穴は綺麗さっぱり無くなっているな。無事外へと弾き出されたらしい」
「か……帰ってこれたーっ! 生きてる! ははは、生きてるよーッ!」
「あーっ、バカバカバカ、ジョンのバカヤロー! まだ配信生きてんだぞ! えーっと、ハイ! ご視聴ありがとうございました! また見てくださいね! ……ふう、ったくヤバかったのは全員そうだし、無事戻れて喜ぶ気持ちもわかるけど気をつけろよな」
キレー牧師もまた、彼らの様子を眺めながら自らのタンマツを操作していた。
「ふむ、これでよし、と。配信内外でキャラが変わると大変だな。ああ、私の方は気にしなくていい、つい先程配信は切ってある。これで気兼ね無く話をすることができるだろう?」
「では改めて……肝心の『偽聖杯』を取り逃したわけだが……これからどうするのかな?」
「どうもしない。というよりも正確に言えば、今すぐにはどうにもできまい、桐谷君。逃げた先はわからぬし、魔力反応も拾えない以上は、な。だが、幸いにも波長は記録してある。――ならば網を張り、かかるまで待つ。それしかあるまいよ」
「長期的に魔力反応を探査し、『偽聖杯』の反応が現れるまで待つ、ということかキレー牧師。それで本当に見つかるのか?」
「公算は高いとも、青本君。ダンジョンコアの魔力波長と、ダンジョンそのものの魔力波長は一致する。そのことは既に研究データとして公に出ているし、実務上我々も確かめたことがある」
「ねぇキレー牧師……それって要はあの『偽聖杯』ダンジョンを作るまで待って、反応が見つかったらすぐに突入して捕まえよう、ってこと? しかも他の人に先をこされる前にやるんでしょ?」
「そういうことになるな、藤倉君。そのために、君たちにはしばらくダンジョン探索に備えて待機をお願いしたい。我々が『偽聖杯』の反応を見つけ次第すぐに探索へ向かえるようにな」
「生憎だがキレー牧師、オレ達はただの学生だ。そこまで拘束される筋合いはないし、過剰に戦力として期待されても困る」
「無論、待機中も報酬を出そう青本君。まあ、所詮はバイト代程度ではあるがね。それに君達は新進気鋭ながら特異個体を2度も屠ったライバーだ。私から見ても十分見込みがある。ぜひともその実力をアテにさせてもらいたい」
「いや、ニートのような状態で金を貰うっていうのも、それはそれでちょっとな……」
「何、探索中に実力をフルに活かせるよう、君達には十分な休息を取って万全のコンディションを維持してもらいたいのだよ。これはそのための必要経費に過ぎない。今回に関してはライバーというよりもダンジョン探索者としての仕事だ、休むのも仕事の内、ということだよ門楠君」
「それならまあ……いいかな? しばらくはダンジョン外でゲーム実況配信とかをやる期間にしたらいいかもしれないね」
「そう時間はかかるまいよ、桐谷君。これは私の所感だが、あの『偽聖杯』には本能があるように見えた。ダンジョンを作る、という本能がね。ならば、すぐに見つかるだろう。さあ、今はかえって休むといい。顔色も先程会ったばかりの時とは大きく変わっている。肉体的にも精神的にも疲れが見えているぞ?」
キレー牧師はそう言い残し、カツカツと足音を足音を響かせながら路地裏を後にした。機動戦士月神部屋の4人もまた、その棒のように重い足を引きずりながら、タマリバへと帰っていった。
辺りが薄ぼんやりと暗くなり始めた頃、彼らはタマリバである廃校の食堂へと到着した。藤倉がいの一番にソファーへと寝転がり、仰向けで体を伸ばしながら疲弊した表情で荒れた声を上げる。
「ぬあーっ! 疲れたよ、もーっ!」
「いやぁ、今回ばかりは大変だった。私も随分ヒヤヒヤしたもんだ。賭けがうまく行って本当に良かった。」
「事前に用意していた作戦通りに行かなかったからな、桐谷……あの時オレがちゃんと先に動いてお前に【パワーポーション】を渡せていたらもっと楽に勝てていただろう」
「そうは言っても、今回の相手はあの耐久型の特異個体だったんだ、火力役2人が気疲れしてたのは変わらなかっただろ。2人共おつかれさま、おかげで大助かりだ! さ、そろそろ配信の審査も終わった頃だろ、お楽しみの報酬タイムと行こうじゃないか!」
門楠はそう言って、自分のアイドルタンマツをゲームのために設置されている大型モニターと接続し、画面共有により機動戦士月神のチャンネルページを表示する。そこには開始前に比べ大きく増えた登録者数が記されていた。同時に門楠のタンマツへ通知が届き、【収益化】の結果が出たことと、キレー牧師から報酬を添付したメールが届いたことが知らされた。門楠がその中身を確認すると、果たしてその金額は合計すると前回の配信収入の約2倍となっていた。
「あれ……? 【収益化】の額ヤバくね? キレー牧師からの報酬も来てるけど、でも【収益化】の収入の方が多いぞこれ」
「ねえ、このチャンネル登録者数の数字さ、これひょっとして俺達もう中堅ライバーの仲間入りしてる!?」
「もしかしなくてもそうだぞ、藤倉」
「だよね門楠、やったぁ!」
藤倉はソファーの上で膝立ちになりガッツポーズをするが、その後すぐにコテンと倒れ、そのまま片手を床に垂らして仰向けに寝転がる。
「あー……本当にもう体力が無いや。今日はもうゆっくりしよう、そうしよう」
「流石に疲れたからな……今日は出かけないで出前を取るとしよう」
青本の提案に対し、3人の気が抜けた「さんせーい」という声が返る。
そうして届いた夕飯を楽しみながら、彼らは「生きててよかった」と互いに無事を喜び合い、そのまま何をするでもなくタマリバでだらけて英気を養った。




