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2-17 違法建築注意報。狂気の産物につき⑦

爆発が収まり、そこには倒れ伏したレギオンが残る。ジョンはタンマツでモンスターの全てが戦闘不能状態になっていることを確認すると、ブラックオーを収納し戦闘態勢を解いて額の冷や汗を手の甲でぬぐった。


「ふーっ……全く、肝を冷やしてくれる。いっときはどうなることかと思ったぞ?」


「いやー、流石だな、ジョン! あの切り札の【バーサク】を使った一撃は本当に凄まじかった!」


「それを言うのなら、あの隕石の方が恐ろしさすら感じるくらいだったのだがね、ノストラダムス」


「アレはちょっとしたインチキだよ、私自身の力じゃない。だから純粋に自分の能力だけであれだけの威力を叩き出せたジョンの方が凄いのさ」


「すまない、オレが出遅れたせいでとんでもない無茶をさせてしまった」


「それこそ時の運というものだ、ウルト。気にすることはない。むしろそのおかげで私の理論が正しかったことを証明できたんだ、これがいわゆる塞翁が馬、ってヤツだろう」


「つか、何食ったら理論値に足りないリソースをあんな『偽聖杯』なんてワケわかんねぇモンで補おうって思うんだよノストラダムスよぉ、やっぱバカだろおめぇ」


「おいおいひどいなヴァン兄貴、私はそれなりにできるという勝算があったからこそ試したんだ。まあ、そうだなぁ……強いて言うなら最近朝食をコーンフレーク山盛り2杯食べるようになった、くらいかな?」


4人が強敵である特異個体のレギオン相手に無事に勝利できたことを喜んでいると、コロッセオの出入り口の方から全力疾走の足音が響き、普段の調子と変わらない様子のキレー牧師が息も切らさずに現れた。


「おや、私が来るのがいささか遅すぎたかな? 遅れてしまったようで申し訳ない」


「いや、今ちょうど戦闘が終わったとこだから逆にドンピシャ。つか、逆に1人であの特異個体を2体さばききったアンタのほうが遥かにすげぇよ……」


「それほどでもないとも、ヴァン兄貴――と謙遜しすぎるのも良くはないな。賛辞はありがたく受け取るとしよう。もっとも、君たちが4人でかかるのならば、早晩あの程度の相手には十分戦えるようになると思うがね。まあそのことはいいだろう、こうして合流できてるのだから、済んだ話だ。それよりも、本題の『偽聖杯』はどうなった?」


「あそこで伸びている特異個体のレギオンが持っていた。どうも、接触したモンスターを特異個体化させる能力も備えていたらしい。そのせいでこのコロッセオも、つい先程までヤツの眷属が密集して身動きすら満足に取れないくらいだった。おかげで随分と苦労する羽目になった」


ノストラダムスがキレー牧師へと状況の説明をしている間、ウルトは自身のスカウトタンマツで周囲をスキャンしていた。目当てのものを見つけたらしく、コロッセオの一角を示しながら他の4人へと声をかける。その指さす先には、直立不動のまま動く気配のない『偽聖杯』があった。


「あったぞ、『偽聖杯』だ」


「しゃあっ! でかしたぞウルト! 今だ囲め、逃げ場を無くせぇっ! 今度こそ捕まえてやるぞ!」


ヴァン兄貴の号令と共に、5人は素早く『偽聖杯』を取り囲み、ジリジリと距離を詰めて包囲網を狭めていく。


「私も流石に、再び区を一周などはごめんだぞ。いい子だから、大人しくしなさい!」


ジョンの呼びかけに反応してか、『偽聖杯』がブルブルと小刻みに震え始める。だがまた走り出すような気配はない。一歩また一歩と『偽聖杯』へ近づきながら、ノストラダムスがニヤリと口角を釣り上げる。


「逃げ出そうとしているらしいが、そうはいかん。逃げ場などどこにもない! 大人しく捕まるがいい!」


彼らがその手を伸ばせば掴める、という距離まで近づいた瞬間、『偽聖杯』は突如として足の裏から轟音とともに炎を噴射した。そしてそのまま猛烈な勢いで上空へと飛び上がり、瞬時に空の彼方へと消えていった。あまりに予想外の出来事に全員が言葉を失い、辺りを静寂が支配する。ようやく事態を飲み込めたのか、それとも飲み込みきれずに思考が漏れているだけなのか、キレー牧師が途切れ途切れに声を出す。


「…………は? ――は? 何? は?」


「飛んだ!? ジェットで!? バカじゃないの!? ねぇ本当バカじゃないの!?」


「ジェットだな! ジェットだよなヴァン兄貴!? アレではとても追えないぞ! どうする!? どうしたらいい!?」


騒ぐジョンをよそにウルトは急いでスカウトタンマツのスキャン機能を使用し偽聖杯の位置を探るが、タンマツの画面には何の反応も表示されず、ただ虚しくスキャン音が響くだけであった。


「……行ってしまった。なぜ、こんなことになってしまったんだ」


「――ああ、もう見えなくなってしまった。我々全員の落ち度だ、とても君たちを責める気にはならんよ」


キレー牧師がしみじみとつぶやいた直後、唐突に大地――コロッセオとその下の東京ビッグサイトやブラン城、更にはハワイを模した地形そのものが割れる。更には空までもが空間をちぎったように細切れになっていた。その光景を見てキレー牧師が叫ぶ。


「やはりというべきか、『偽聖杯』がダンジョンコアであったか! この分だと『偽聖杯』はダンジョンの外へ逃れたのだろうな……! コアを失ったダンジョンが崩れる、用心しろ!」


「用心しろったってどうしろってんだよぉ!」


ヴァン兄貴の嘆きと共に、ダンジョンは崩壊し跡形もなく消え去った。

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