2-16 違法建築注意報。狂気の産物につき⑥
着弾。ノストラダムス渾身の即席予言は今ここに現実となり、衝撃によって辺りが紅蓮の炎に包まれる。【霊体】故にダメージが通り辛いレギオンは、その増強された耐久力を十分に削り取られているようであった。ダンジョンマスゴミもまた巻き込まれ、跡形を残すことも無く消し飛んだ。チカアイドルは手元に用意していた【ハイポーション】を自分の全身に浴びせ、その場にうずくまっていた。全身を黒焦げにしながらもどうにか生き残ったらしく、肩で息をしつつ子鹿のような立ち上がり方をしながら、震える声で言った。
「な、なんとか生き残って、やったわよ……」
コロッセオを埋め尽くしていたヒトモドキの肉の壁はその半数が吹き飛び、ようやくライバー達が満足身動きが取れる状況となっていた。その光景を見てヴァン兄貴が喜びの声を上げる。
「FOO!!! サイッコーだぜノストラダムス! あのクッソ邪魔だった人の壁も一気に吹っ飛んだ! ってーわけで、じゃあ俺の番になるわけだ。ままま、俺はあんなエグい火力なんて出せないから大丈夫だーいじょーぶだって、安心しなよぉ……というわけで死ねよやぁ!」
ヴァン兄貴は唐突に武器を取り出し、目の前に居たレギオンに対して【ポールダンス】で攻撃を仕掛ける。ノストラダムスが放った隕石の一撃が衝撃だったのか、レギオンは攻撃を受けても未だに呆けたままである。【ポールダンス】をひとしきり終えた後、ヴァン兄貴は【シャッターチャンス】を起動し、配信のカメラをチカアイドルへと向けた。
「あ、そこのアイドルさんこっちに目線ちょーだーい。ポーズも取ってねー、そーそーそーそーいいねー、いいよいいよー。これが最後の姿になるかもだから気合い入れてねー」
「へー、この私の魅力に気づくなんて、ニンゲンのクセに中々やるじゃない! ……え、今なんて?」
おおよそ撮り終えた後、ヴァン兄貴はチカアイドルの言葉を無視して自らのアイドルタンマツを確認しながら仲間の方へと振り返る。
「ノストラダムスのヤツが余剰魔力を全部使っちまいやがったからな、ジョンが使う分をある程度溜め込めれば、ってことでやってみたけど……悪い、思ったよりうまく行かなかったわ」
「こういう時の運ばかりは仕方がない。全力でやれることをやって、後は祈るだけだ。というわけだ、後は頼んだぞ、ジョン」
ウルトは【Re:サイクル】と【パワーポーション】を組み合わせ、【懐中時計】も活用してフル回転で強化をジョンに重ねる。
「全く、期待が重くて涙が出そうだな! さて、ここまでお膳立てされたんだ、派手に行くとしようか!」
ジョンはアプリマクロを起動しタンマツから魔力をブラックオーの頭部へと流し込む。
「まだだ、まだこの程度で終わらせるつもりはない、今こそ切り札を切るときだ! 【バーサク】起動! 大団円を迎えるとしようじゃないか!」
ジョンが用意していた切り札、【バーサク】アプリ。1度の探索につき1回しか使えない代わりに、絶大な魔力を一度に供給できる、仮想式外付け魔力貯蔵アプリである。【バーサク】による魔力が注ぎ込まれ、ブラックオー装甲の各所が展開する。両腕装甲があたかも盾のように広がり、両肩部の装甲が展開、内部機構から蒸気と見紛うほどの高熱が吹き出して急速排熱が始まる。腰からはブラックオーを中心に8方向へとアンカーが射出され、その全身を大地に固定する。続いて胸部の中心が展開、内部からブラックオーそのものよりも巨大な砲塔が現れた。ブラックオーは砲塔両側部に空いている穴へ両手を差し込み固定、両腕装甲や肘からシリンダーが飛び出し、圧縮魔力の熱によりシリンダー表面も赤熱した。ブラックオー周囲に漏れ出す魔力すら光を帯びる。ジョンは確信した。――まだ足りない。ブラックオー越しの視界に、ジョンは『偽聖杯』の輝きを見つけた。
「『偽聖杯』よ! お前はまだ、人の願いを叶えるつもりはあるか!?」
ジョンの眼には一瞬、『偽聖杯』がキラリと光を放ったように見えた。ブラックオーから小さくカチッと何かが噛み合った音がした。――これで十二分足りる。ジョンが渾身の力を込めて叫ぶ。
「ブラックオー・ジ・ラストスタンド!!!」
ブラックオーの両目が白く輝き、限界まで強化された【土竜】の一撃が残ったモンスター達へと放たれる。その致命的な一撃は特異個体の権能によって強化されたダンジョンチンピラも、ノストラダムスの一撃を辛うじて生き残ったチカアイドルも、更には特異個体である傷ついたレギオン自身をも消し飛ばすには十分な火力であった。極大の魔力奔流を前にチカアイドルが泣き叫ぶ。
「びええええええ!!! まだ何も出来てないのにぃ!!!」
「ザッケ……ザッケンナコラー!!!」
ダンジョンチンピラが【ポーション】をチカアイドルへと投げつけ、その瞬間にモンスター達はブラックオーが放った魔力光に飲み込まれる。光が消え、残ったのは【再生】能力によって復活したレギオンと、消滅の間際に【ポーション】で生き残ることに成功したチカアイドルだけであった。レギオンが辺りを見回してしばらく呆然とした後、顔面蒼白となって叫んだ。
「余、余の眷属たるレギオンが全滅しているではないか!?」
残されたモンスター達に、ジョンがまるで食後のコーヒーを勧めるかのような口調で語りかける。
「ところで、まだカーテンコールが残っている。遠慮せずに受け取るといい」
「こっちはもう2回も一撃で消し飛ぶダメージ受けてるのよ!?」
騒ぎ立てるチカアイドルの言葉を無視するように、ジョンは再度タンマツから魔力をブラックオーへと供給し、その両目から【土竜】の一撃を放つ。その光景にレギオンとチカアイドルが声を揃えて叫び声を上げた。
「「まだ何もしてないのにぃ! 爆発オチなんてサイテー!!!」」
その言葉を最後に、モンスター達はブラックオーが放った攻撃の爆発に飲まれた。




