2-21 急襲、タマリバに(平和)③
ふと、何かを思いついたらしく、藤倉が口元に手を当てながら声を上げた。
「あれ……? これもしかしたらさっきの『空想魔術』さ、『偽聖杯』が無くても出来るんじゃないの?」
「おい何言ってるんだ、ついさっきタンマツレベルの魔石程度じゃ無理だって言ったばかりだろ」
「そりゃあ、普通に配信したらそうだと思うよ門楠。でもさ、例えば100人くらいに『ウルトが宇宙人だ』って頑張って認知してもらうようにお願いして、その人達だけを集めたプライベート配信をやったらこの理論実現できるんじゃない? もちろん完璧に認知は出来ないだろうけど、こうしたら排除する認知はかなり減るんじゃないかなと思うんだけど」
藤倉の言葉を聞いて、他の4人はその場で固まり、空気が凍った。門楠が重々しげにその口を開く。
「藤倉、その話はもう2度とするんじゃない」
「え、なんかマズイこと言っちゃった?」
「ああ、本当にマズイ話なんだ。あるんだよ、100人程度だったらお前の提案したお願いよりも確実で、ゲスな手段――洗脳って方法がな」
門楠の放ったその言葉を聞いて藤倉の顔から一気に血の気が引く。
「わ、わかった……この話はもうしない。もし本当にそんなことをされたら大事件になるもんね」
「確かにマズイ発想だ、俺もギルドの方に報告を上げて変な真似をする奴が居ないか監視させる必要があるだろうな。ま、ともかくだ。そんな『空想魔術』を実現できる力が『偽聖杯』にあるとわかっちまったんだ。ありゃ相当な危険物だと、テスカトリポカ思うわけ。ギルドもな」
「えっ、ポカニキ今ギルドって言った?」
「ああ、確かに言ったぜ藤倉。お前達も前々回か? ずーいぶん世話になったあの探索者ギルドだ。連中もお前達の配信をみて『偽聖杯』の危険性を認知したからこそ、その要請を受けて翔吾をよく知ってる俺がここにいる、ってワケ。ま、あんな真似をしたらタンマツに異常な負荷がかかるに決まってる。そうでなくてもあんなワケのわからんモンにアクセスして2度も3度も『空想魔術』をぶっ放しちゃ、ダンジョンの外にまで変な影響が出かねない。ギルドとしちゃそんなリスクは負えるわけがない。平たく言っちまえば、俺はお前達へのギルドからの監視役ってことだ。コンゴトモヨロシクってな」
「そ、それって……俺達がギルドから目をつけられた……ってコト!?」
「まあそう嘆くな藤倉。無茶しなきゃいいのさ、無茶さえしなきゃな。それに、何もギルドからはムチばかり飛んできてるワケじゃない。そら、受け取れ」
手塚はそう言って懐からタンマツを4つ取り出してテーブルに並べる。門楠は一つ一つを手に取ってそれがどんなものであるかを確かめる。
「このタンマツは……あまり見ない機種もありますが……乗り換えろ、ってことですか?」
「いいや? 同時に使え、だとさ。何でも新開発のデュアルデバイスシステムとか言うものらしい。コイツを使えば、1人につき2つのタンマツを同時に稼働できるんだと。ま、つまるところお墨付きが出たのさ。新システムを預けていい、というギルドからのお墨付きがな。た・だ・し、『偽聖杯』なんざもう使うなよ、という条件付きでな」
「ポカニキそれは要するに……新しい力くらいはくれてやるから『偽聖杯』の力にはに頼らず捕まえてみせろ、ってことですか」
「ま、おおよそそんなとこだろうよ桐谷。重ねて言うが、別にギルドもお前達を責めてるわけじゃねぇ。もしそうだったのなら、とっくにライセンスもタンマツも取り上げてるだろうしな。ただ、『偽聖杯』はそれだけ未知の存在であり、危険なシロモノだとギルドも考えているってことだ。ま、当然だろうな。俺だって、あっちこっちで好き勝手にダンジョンを作られちゃ、たまったもんじゃねぇ。ましてや市民の安寧を守るのが仕事の御役所サマは考えるに及ばず、だ。となると当然、お前達になんとしてでも確保、いや捕獲してもらいたくもなる」
「……その感じだとギルドは自分で動く気が無いのか? そこの所どうなんだ、おじさん」
「まあおおかた、あまり派手に動くとダンジョン教だの面倒な奴らに気取られる、だろうな翔吾。俺達は例の……世界探索者教会、だったか? アレから連絡を受けて『偽聖杯』の性質は知っている。だが視聴者にはそれが伝わってないと考えていい。なにせ、配信内では『偽聖杯』がモンスターを特異個体化することは見せちゃいたが、ダンジョンを作る能力があるなんてお前達は一言も言っちゃいなかった。意識してかせずかは知らんが、偉いぞ」
「でもポカニキ、モンスターを特異個体化する時点で十分マズイんじゃ……」
「ああ、そりゃそうだな藤倉。そしてそれはタチの悪いダンジョン教だのがやってるテロリストにとっておも同じことなのさ。なにせ特異個体は知能が上がって扱いづらい。ダンジョンを利用したい連中にとっちゃモンスターはバカの方がいいんだよ」
「ってことは……現状表にでてる情報だと、モンスターが扱いづらくなる『偽聖杯』をテロリストが欲しがる理由がない!」
「逆にギルドが総力を上げて『偽聖杯』を探すことで、『ダンジョンを生成できる』という性質があることをテロリストに気取られたくない、ということですか」
「前評判通りキチッと頭が回るチームだな、いいね。ま、ギルドの連中の考えはおおかたそんなところだろうよ、門楠、桐谷。流石にいざとなればなりふり構わんだろうが、今はまだそうじゃない。俺からのアドバイスとしちゃあ……せいぜい好きにやりゃあいいさ。そのフォローをするために俺がここに居るわけだしな。俺としてもしばらくは時間がある、決着までは面倒見てやれるよ」
「……おじさん普段そんな暇じゃないでしょ。ひょっとしてまた商売に失敗したの?」
「……バカ言え翔吾。ちょっとウチのハチドリに俺の立ち上げた不動産を任せただけだ。経営は順調どころか大好評だよ。おかげでハチドリはそっちに集中することになって、結果としてライバーチームに欠員が出て配信できなくなっただけだ」
「あー……ついに経営乗っ取られたのかぁ……今頃リアル建築シミュレーションされてるんだろうなぁ……」
青本は俯く手塚の肩に手を乗せて慰める。そこには歴戦の探索者の姿はなく、悲しみに満ちたその背中は妙に小さく見えた。




