表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
40/47

2-13 違法建築注意報。狂気の産物につき③

先へと進んだ4人は人のような何かでごった返している東京ビッグサイトの中を駆け抜け、はしごを登って開けた空間へと出る。暗所から太陽の下へと出たことで視界がいっときぼやけるが、しばらくすると目が慣れてはっきりと見えるようになった。周囲を見渡すと満員の石造りの観客席に囲まれていた。無論、観客は本物の人間ではないらしく、その様子から道中に密集していたヒトモドキであるようだ。


「ここは……コロッセオの中か!」


「どうやらそうらしいな、ウルト。見てみろよ、見渡す限りの人だ! 道中でなぜか普通にやっていたコミケも人口密度が凄かったけど、こっちもこっちで凄いなこれ!」


4人が辺りの状況を確認していると、鈴を転がすようでいて、はっきりとコロッセオの端から端まで聞こえるようなよく通る声が響く。


「よく来たな! 外の世界の勇者たちよ! 余こそが! このコロッセオ改め……ブランビッグサイトコロッセオ黄金劇場の主であるぞ! 好きなだけ崇めるが良い!」


「ちょっとー! 1人だけ目立つなんてずーるーいー!」


声の方へと振り向くと、そこには2人の少女の姿があった。


1人は赤と白を基調としたドレスに身を包んだ小柄な少女であった。黄金色の髪をまとめて朗らかに笑うその姿にはどこか王族を思わせる気品が漂っていた。もう片方はステージ衣装のような黒と白の衣装を身に着け、スタンドマイクを手に騒ぎ回るアイドル然とした赤髪の少女であった。全身を使いながら騒ぎ回るその姿はどこか子犬を思わせる雰囲気がある。金髪の少女――ブランビッグサイトコロッセオ黄金劇場の主を名乗った少女が赤髪の少女をなだめる。


「まあまあ、良いではないか、良いではないか! 余こそがこの豪奢絢爛なステージを用意したのだ。多少浮かれるくらいは許すが良い!」


「実に大掛かりな場を用意したものだ。独力で作ったのなら、恐ろしいくらいだな」


「うむ! と、胸を張って言いたいところだが実のところは違うのだなぁ……わかっておるぞ、お前たちが求めるのはこれなのだろう?」


ジョンの問いかけへと答えるように、主を名乗る少女は手にした黄金の杯を見せつけた。杯はその底から生えている脚をフラフラ揺らしている。ウルトがすぐさま自らのスカウトタンマツをその杯へと向けた。


「間違いない、オレ達から逃げ出した『偽聖杯』だ。タンマツのスキャンでも、魔力反応が同一と出ている」


主を名乗る少女は満面の笑みで愛おしげに『偽聖杯』を撫でながらライバー達へと語りかける。


「こーれが中々に愛いヤツでなぁ……余が手にすれば知恵が湧くわ、やりたいことができるわ、願えばそのやりたくなったことを叶えるわでありがたーいモノなのである! 余はな、お前たちの言うこの『偽聖杯』に触れて外の文化を知ったのだ。中でも特に、『歌』というものを気に入ってな……余もやってみたーい! と、そう願えばほれ、観客にステージに更には共演者まで用意してくれたぞ!」


彼女がそう言うと、コロッセオの檻から先程相対したようなダンジョンチンピラとダンジョンマスゴミが1体ずつ現れた。


「オオオオオオオオオッ! コミケライブダッコラー!」


「さああっっすがは陛下! 素晴らしき手腕にございます!」


「だーかーらー! ちょっとは私にも目立たせなさいよ!」


ノストラダムスが手元のタンマツのデータとその場にいるモンスターを見比べて一つ頷いた。


「ふむ、ダンジョンチンピラが1、ダンジョンマスゴミが1、先程から騒いでいるのがチカアイドルで1、最後にあの皇帝然とした『偽聖杯』を持ったレギオンが1。これで出揃ったな。しかし妙だな、あのモンスターは本当にレギオンなのか? 特異個体となったからああ、ということだろうか」


「なーに、それはこれから確かめればいいだろ、ノストラダムス! というわけで行けぇい、ジョン! 交渉人の力を見せつけてやれぇい!」


「そこで私に丸投げするのは勘弁していただきたいのだがね、ヴァン兄貴……」


ジョンは小さく「全く……」とつぶやくと特異個体のレギオンの前へと進み出てひざまずく。


「おそれながら素晴らしき陛下よ、その杯を我々に譲っては貰えないだろうか。こちらはその対価として、我々の配信で陛下の歌を配信する、というのはいかがか。そこのヴァン兄貴と呼ばれている男は、道化として既に一流の腕にございます。彼の腕にかかれば、陛下の歌を世界中に広げることも容易いでしょう」


ジョンがチラリとヴァン兄貴を見ると、彼はまさしく顔面蒼白といった様子で首を横にブンブンと激しく振っていた。ジョンは彼の様子に構わずそのまま話を続ける。


「モンスターである陛下御自ら人々を魅了する幻惑の歌を配信する、その事実だけでもこの激動たる世界には衝撃の一言に尽きます。もし陛下の存在が世界に認められれば、外の世界を白昼の中、暮れなずむまでも好きに歩きながら陛下御自ら歌を広めることも出来るやもしれません。そのお手伝いを我々が行う、それでは対価に不足でしょうか?」


レギオンは微笑を浮かべながら、その手に持った『偽聖杯』の縁を人差し指で撫でている。


「うむ、実に魅力的な提案だ。確かに余が1人で歌うだけではつまらん、実につまらん。外の世界にで直接人々と触れられる可能性があるのもいいな! だが……断るぞ!」


「我々に何か落ち度がありましたか、陛下?」


「ならば断言しようジョンとやらよ、落ち度などない! もし余がこの地を統べる王として生まれ、しかる後に知恵を得たのならばお前の提案に一も二もなくとびついていたであろう。しかし、だ。余の本質は王にあらず。故に願いの本質も違うのだ! こうしてお前達と話こそできるが、根本的に相容れぬ存在と知るが良い!」


「ではその願いの本質とは?」


「うむ、よくぞ聞いてくれた、ジョンとやら。改めて言うが、余は生まれながらにして王であったわけではなかったのだ。そう、余はレギオンとして生まれ、この『偽聖杯』とお前達が呼ぶものに出会った。そして知恵を得たことで、レギオンのあるじとなったのだ。レギオンのあるじとは逆説的に軍団を率いる者であり、すなわちこのコロッセオの主人でもあり、さするにローマそのものである! しかるに、余はこの世の全てを征服しよう! すべての道はローマに通ず、つまりは全てがローマである! レギオンである余がローマならば、レギオンあるところは即ちローマ、であろう? さあ満ちよ! 増えよ! 進軍せよ! 余であり……ローマたるレギオン達よ!」


レギオンがその手の『偽聖杯』を高く掲げて高らかに声を上げる。その声がコロッセオ中に響き、観客が一斉に声を張り上げて応えた。空を割るような声が収まると、今度は大地を揺るがすような地響きが起こり始めた。周囲を見渡したヴァン兄貴が叫ぶ。


「おいおいおいおい! 観客席からどんどん人が降りてくるぞ!?」


「人海戦術による肉の壁、といったところか。流石に本物の人間ではないから遠慮せずともいいのが救いだが……これだけの数が揃うと流石に厄介だ」


「そもそも相手は特異個体だ、ノストラダムス。これくらいの芸当はできるだろう。むしろ本当に厄介なことは、『偽聖杯』にモンスターを特異個体化する機能が備わっている、という事実だ。――何としてでも確保するぞ」


「言うは易く行うは難し、という言葉は知ってるだろうに、ウルト。ああ、珍しく交渉人としての面目躍如と思っていたのだがね、やはりこうなったか」


ジョンは肩をすくめて首を横に振った後、ブラックオーを起動した。――戦闘開始である。


「そう、余が! 余こそがレギオンであり、ローマである! さあ、お前達も大人しくローマとなるがよい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ