2-10 偽りのハワイ……か?③
「まあ、先程我々が自分で敵を掃討したからな、安全地帯であることは確かだ。ともかく、オレは偵察に行ってくるとしよう。このダンジョンはつい先程出来たばかりだ、そろそろ最奥に到達できる頃だろう」
そう言い残し、ウルトは掛け声と共に飛び上がり、空の彼方へと消えていった。数分後、先程飛び去った方の道からトボトボと歩いてウルトが戻ってくる。
「どうした、ウルト。まさか失敗、したのか?」
「いや、情報は無事集められた、ノストラダムス。集まったんだがな……少々ではなく厄介な状況になった」
そう言ってウルトは他のメンツのタンマツへ集めた情報を送信した。
「見てのとおりだ。特異個体反応、それも2グループのモンスター両方にだ」
「ふむ、例によって強い方のグループは私が請け負うとしよう。特異個体故に多少手こずるかもしれんが、何、遅れは取らんとも。それはそうと――食うか?」
キレー牧師はどこからか取り出した岡持ちを開き、中の麻辣カレーラーメンを見せた。
「いや、毎度言うけどアレだけ苦しんだのにまた食うわけねぇだろ!」
「そうか……それは残念だ、ヴァン兄貴。ではこれは私が自分でいただくとしよう」
そう言ってキレー牧師は岡持ちを手にすごすごと自分の椅子に座り、岡持ちからラーメンを取り出して食べ始める。離れていくときの背中には寂しさがにじみ出ていた。改めてヴァン兄貴は、手元のタンマツを操作してウルトから貰った情報を確認する。
「さーて、俺達が戦う相手はっと……ナニコレ、カチカチじゃん。どうしてこんなカチカチになるんだよ……」
「特異個体のレギオン、とはな……【霊体】故に攻撃が通りづらい相手である上に、特異個体の権能として自分と眷属の耐久力を高めると来た。実に面倒だぞ、これは」
「オレ達でやれることを全部やってみるしか無いだろう、ノストラダムス。ひとまずリソース回復だ。相手が特異個体であるのなら、せめて万全の状態で戦いたい」
ウルトは【懐中時計】と【Re:サイクル】を組み合わせつつ、【エリアヒール】を起動する。それの効果により、機動戦士月神部屋の4人の魔力は回復した。ヴァン兄貴とノストラダムス、ウルトの3人は損耗が軽かったこともあり、その回復でタンマツの魔力量は最大値へと達した。だが、唯一ジョンだけは、魔力の消費量が多い攻撃を使っていたこともあり、タンマツ魔力量の最大値にはやや足りていなかった。ウルトはストレージから【ポーション】を取り出し、ジョンヘと投げ渡す。
「すまない、回復しきれなかった。せっかくだ、何度か拾っていた【ポーション】を使うといい。万が一のために温存していたが、こうもダブついてはストレージを圧迫して仕方がない。さて、どうしたものかな……」
「一つ助言するのならば、情報収集を活用するといい、ウルト君。相手の弱点をあらかじめ知っておけば、それを突くことで攻撃の有効度を高めて一気に制圧することができるだろう。もっとも、2度目以降は敵も対策を練る、出会い頭にしか使えんだろうがな」
「なるほどな……助言に感謝する、キレー牧師。ならひとまずオレはまた情報収集に向かうとしよう」
「ちょっと働きすぎじゃない……? 大丈夫……?」
「このくらいなら問題はない、ヴァン兄貴」
ウルトが再度の情報収集に向かった時、ジョンは【ポーション】の瓶の蓋と格闘していた。正しく表すのならば、彼は【ポーション】を投げ渡されてから今に至るまでずっと格闘していた。ウルトが戻り、集めた情報を全員に共有する。
「戻ったぞ。敵モンスターの弱点部位やその狙い方を全個体分だ。これなら全員ある程度の有効打を狙えるだろうな」
「流石だな……ウルトッ……! これなら、特異個体相手でもッ……十分なッ、ダメージを与えられ……そうだなっ……あっ!」
ジョンがついに【ポーション】の蓋を開けることに成功した。が、彼は勢い余ってその瓶を取り落とし、中身を辺りにぶちまけてしまう。少量の【ポーション】がジョンの身体へとかかってタンマツの魔力が回復する。極めて僅かに。しばらく沈黙が辺りを支配した。ノストラダムスがあたかも何も起こらなかったかのように話を続ける。
「だが、それらはあくまでモンスターそのものの情報だ。戦場の地形情報については何も調べられていない。素早いモンスターの情報もある、このままでは先手を取れない可能性もあるな……やはりいささかの不安が残る。次の策のこともあるし、私も情報収集へ回るとしようか」
「……なあ、せめて誰か何か言ってくれないか!?」
「まあまあ、私も差し込みで回復するからそう気を落とすな、ジョン」
そう言ってノストラダムスもまた情報収集へと向かった。しばらく経って彼が戻り、戦場の地形情報を他の3人へと共有した。
「これが戦場の地形情報だ。この情報があれば、今回のモンスター相手でも十分先制を取れるだろう。ただ……敵のいる場所がかなり遠かったな。タンマツのスキャンモードで情報を集めたから直接視認もできていない。ウルトの方はどうだ?」
「実はオレも直接敵のいる場所まで行って見てきたわけじゃない。どうしてもキャンプから離れすぎるからな。おそらくはこのハワイと同じ空間の中にある。その上で物理的な距離を離して、擬似的に部屋を分けている、というところか。そうした理由はわからないが」
「やはりそうか。しかし地形情報を見るに相手はどうも特徴的な場所に居座っているらしい。我々より上、つまりかなりの高所に陣取っているが、どうにもビルの上のような地形情報ではない。何かこう、複雑な形をしたランドマークのような物の上に居るようだな。足場は安定しているようだから、そこの心配はなさそうだ……おっと、そういえばジョンの回復がまだだったな」
ノストラダムスは【ファストヒール】を起動し、ジョンのタンマツへ魔力を供給する。その効果により彼のタンマツもようやく魔力が最大値まで回復した。
「回復ありがとう、ノストラダムス。ところで少し聞きたいのだが、私はこのキャンプ中何をしたらいいのかな……?」
「ああそうか、魔力を全回復したから休憩に専念する必要もなくなったわけか。少し待ちたまえ、私の代わりに【エムカリ】を動かしてもらおうか」
ノストラダムスは【リモートアクセス】で【エムカリ】を共有し、先程の戦闘でモンスターから入手したばかりの【ぬいぐるみ爆弾】を出品する。売値こそ市販品に毛が生えた程度ではあったが、次の探索に向かうまでに売り払うことができた。
「やれやれ、なんとか売ることには成功したか。時間に追われるとどうも気疲れがするな。しかし、皆が次の戦いに向けて情報を集めている中【エムカリ】を動かしていると、どうにも自分だけが楽をしているようで気が引けてくるな」
「あんだけ戦闘で大暴れしといて何言ってんのジョンはさぁ? 次の戦いでも敵をボッコボコにするために今は大人しくしとけって、な? まー後は俺がどれだけ閲覧者を引っ張ってきて、余剰魔力のストックを溜め込めるかどうかにかかってるわけだ……緊張するなぁ! ああ、本当に緊張するなぁ!」
「その言動ではとても緊張しているようには思えないぞヴァン兄貴」
ヴァン兄貴は自身のアイドルタンマツを起動し、【歌ってみた!】アプリによる歌配信を始めた。
「ほーれほれほれヴァン兄貴の歌枠だぞー!よーってらっしゃい見てらっしゃーい!」
彼の歌配信によって閲覧者数が増えたのは確かだが、その数字を見てヴァン兄貴は少し渋い顔をする。
「ちょーっとかんばしくなかったかな? 思ってたほど魔力がプールできてねぇや。この後大丈夫か心配になるぞ……」
「まあ、できることをやる。それくらいしかないだろう、この状態では」
「案ずるより産むが易し、という言葉もある、ノストラダムス君。戦ってみれば案外何とでもなる場合は結構多いぞ? 私の経験則だ」
「アドバイスはありがたいけどさ、キレー牧師はそれいつまで食ってんの? つか毎回食ってるのに飽きないのか」
「すまないが勘弁して欲しい。先程から見ての通り私は戦闘特化型の探索者だ、自力で配信の撮れ高など用意は出来ん。ソロで配信する以上、この激辛の【大食いチャレンジ】は私にとっての生命線なのだよ」
「あ、そういうコトだったの!? 自分じゃ歌枠とかできないから撮れ高は全部【大食いチャレンジ】でまかなってたのね!?」
「どうしても金はかかるがな……だからたまに先のキャンプのようにまとめて自作したりもする。ふむ、ごちそうさまでした、と。また待たせてしまったな、申し訳ない。では次にむかうとしようか」
キレー牧師は話をしている間にラーメンを完食していたらしく、気がつけば丼は空になっていた。5人は全員でテキパキとキャンプの道具をしまい、モンスターが待つダンジョンの奥へと向かう。




