2-9 偽りのハワイ……か?②
先手を取ったウルトは、淀みない動きで【罠解除】と【遠隔解除】を起動し、ポイズントラップめがけて十字に組んだ両手から光線を放つ。
「まずは邪魔な罠にご退場願おうか。継続ダメージをバラ撒かれては面倒な上、その場にいるだけでそのダメージも増加する。鬱陶しいことこの上ない」
ウルトが放った光線はまっすぐポイズントラップに命中し、それを戦場から叩き出すことに成功した。ウルトの動きを見てジョンがすぐさま追撃に移った。
「さて、私は軽く削りを入れるとしようか。勢い余って何体か仕留めてしまうかもしれないがね!」
ジョンはブラックオーの両拳を胸の前に合わせ、頭部から魔力のビームを放つ。アプリマクロによって強化された【土竜】の一撃は残った敵の全てに命中し、いとも容易くダンジョンチンピラを全損させた。ダンジョンチンピラは息も絶え絶えになりながら手持ちの【ポーション】で辛うじて戦場に残る。白い閃光やゴーストのダメージも決して軽くはなかった。ジョンは再度素早くタンマツを操作し、ブラックオーの両目には魔力が込められると共に光が漏れる。
「さあ、おかわりだ! 遠慮せずに受け取りたまえ!」
モンスター達が受けたダメージを立て直す前に、ブラックオーから【土竜】の第2射が放たれ、同様に全員へと命中する。ダンジョンチンピラもゴーストもその魔力光第2波には耐えきれずに身体をエーテルに溶かしながら消滅した。戦場に残ったモンスターは白い閃光のみ、それも既にかなりの深手を負っている状態である。ジョンに続いてノストラダムスが武器を構えた。
「流石だなジョン、殲滅力も実に大したものだ。さて、私の手番だな。時に君は、私のエモノを残すために、わざと範囲攻撃を連打したのだろう?」
「さて、なんのことやら。私はただ面倒な相手が残るのが嫌だっただけだ、ノストラダムス」
「フッ、そういうことにしておこうか。――ここからが本懐か。今の私にどれだけできるか、だな……!」
ノストラダムスは【儀式魔法】や【グリモワール】、【追加詠唱】などのアプリを起動し、前回使用していた【骨砕き】と入れ替える形で新しく習得した【居合】を試みる。タンマツの補助により、彼の視界にはモンスター身体の上に、エーテルの接合部を表す黒い線が現れた。
「おお……、凄いなこれ。なんとも独特な世界だ」
「え、何? 仮面の両目が青く光ってるけどノストラダムスそれどうなってんの?」
「中々に面白い光景だぞ、ヴァン兄貴。そうだな、流石に同じ攻撃を君にも使わせるようなことはできないが、私が今こうして見ている光景をヴァン兄貴のタンマツへ共有することくらいは【リモートアクセス】で出来るか? ヴァン兄貴のアイドルタンマツなら、その映像をそのまま配信に乗せることもできるだろう」
「どれどれ……? おっ来た、ナニコレ気持ち悪っ!?」
「凄いだろう? どうやらこの線がダンジョンで生成されたもの一つ一つにあるらしい。この線に沿って綺麗に切断さえできれば対象のエーテル接合部を破壊してより大きなダメージを与えられる、ということらしい。ほら、あの辺りなんか空間に線がある。もしかするとダンジョンそのものも解体できるのかもしれない。まあつまるところ、この能力を活かせるかどうかは私の腕にかかっている、ということらしいな」
「ほうほう。なるほどがんばえー」
ヴァン兄貴の声援を受けて、ノストラダムスはドラグーンファングを光刃を出さず、腰に差した刀のように構える。攻撃目標の白い閃光までの今の距離では光刃を展開しても届かない。すなわち踏み込みながら切りつけることを必要となる位置関係であった。彼はじっと白い閃光を見つめ、その身体に走る線を注視する。白い閃光の方は、その身体をふらつかせながらもノストラダムスを迎え撃つべく構えを取る。
「ふう……」
ノストラダムスが一つ息をついてから口を一文字に結び、相手を見据えたままに魔力を両足に込め、すれ違いざまに白い閃光を切り上げた。固まったまま微動だにしない両者。だが白い閃光の胸部を斜めに引き裂くように傷口が現れ、そこから凄まじい勢いでエーテルが吹き出した。白い閃光は膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れてからその肉体がエーテルへと溶けて消えてゆく。ノストラダムスはドラグーンファングをウェポンラックへとしまい、振り返って消えゆく白い閃光を眺める。
「ふむ、まあこんなものだろうな。もう少しお膳立てがあれば、もっと火力も出せるのだろうが……やはりというべきかジョンのようにはいかんな」
「いやいや、十分にいい火力を出せているじゃないか。しかも今回は単体相手だが、【拡大】アプリを使えばその高火力を複数対象へとバラ撒くことができるのだろう? その時点で既に前回の私の戦闘力を優に超えているじゃないか。実に頼りになると、私は思うがね。しかし改めて考えるとよくわからない相手だったな。このハワイでコミケなんてやるはずが無いだろうに」
「おおかた、何かしらの情報がダンジョン生成の時に混ぜられてこうなったんだろう、ジョン。言動こそ妙なところはあったが、今回の相手も軽い消耗程度で済んだのは救いだな。さて、キレー牧師の方はどうなったか……」
彼らは辺りを見回すが、キレー牧師の姿はどこにもなかった。ウルトが自らのスカウトタンマツで周囲のスキャンを行い、反応を確認して叫ぶ。
「上だ!」
彼らが見上げた先には、空中で次々と襲いかかかるサメの嵐を1頭ずつ飛び移りながら、変わらず爪のように構えた剣で確実に着地したサメを仕留めて回るキレー牧師の姿があった。彼は最後の1頭を仕留めた後、その鼻面を殴りつけて頭を下に向け、背びれと尾びれをそれぞれ片手で持ちながらサメをクッション代わりに着地した。土煙の中からキレー牧師が機動戦士月神部屋の面々の方へと歩いてくる。
「多少手間取ったが、見てのとおり無事だ。全く、サメの嵐とは勘弁してもらいたいものだな」
「正直アレだけの数のサメ相手に単独で勝てるのはバケモンって言いたくなるんだけど?」
「鍛え方が違う、と言いたいところだがアレはやや出来が悪かったのだよ、ヴァン兄貴。いかに私とて、単独でフルスペックのサメをああも多く相手は出来ない。動きがどうにも大味で、スピードもやや遅い。連携もまるでなっていない。付け入る隙があったからできたことだ」
「確かにそういう違いは私にも見て取れた。だが実際に相手取るとなると、やはり我々にはまだ無理があると言わざるを得んな……さて、我々の消耗はさしたるものではないが、激戦を制したキレー牧師のこともある。ここはキャンプを張って休憩と行くべきだろうな」
「ああ、オレも偵察に向かいたいからな、ノストラダムス。それに『偽聖杯』の位置も未だ不明瞭だ。次の偵察で何かしらの手がかりくらいは掴んでおきたい。さて、どこにキャンプを張るべきかだな」
「ああ、それなら俺にいいアイデアがあるぞ、ウルト」
ヴァン兄貴はそう言ってタンマツのストレージからキャンプ道具を取り出し、テキパキとその場、つまりは先程まで戦っていた道路の上に広げていく。
「ここをキャンプ地とする!!!」
「ただの路上ではないかね!?」
偽りのハワイの空に、ジョンのツッコミは良く響いた。




