2-8 偽りのハワイ……か?①
彼らはキャンプを片付け、ダンジョンの奥へと歩みを進める。
高く青く広がる空に、照りつける太陽、そしてそれを反射する白い街並み。道路脇に植えられたヤシの木の並木が風に葉を揺らしていた。遠くからは波が浜辺を打ち付ける音が僅かに聞こえる。彼らがダンジョンの部屋同士を繋げる狭く暗い通路を抜けた先は、南国であった。ジョンがうんざりした表情で額を拭う。彼は拭いこそしたが、そこに汗はなかった。錯覚であろう。
「いやはや、ここもまた随分と暑いな。先程のジャングルは湿度の高いムシムシした暑さだが、こちらはカラッとしてて太陽が照りつけるような暑さか」
「いやー、俺達のみたいな厚着勢はヤんなるねこれホント。でもよジョン、なんか風は涼しいぜ。海の匂いもするし、潮風が吹く港町じゃないかここ?」
ふと、辺りを見回していたウルトが何かに気が付き、路傍の方へと歩いていく。
「ふむ、これは標識か? ダンジョンの構造物にしては珍しく読めそうだな……崩れているが、これは―――わ……い……き……き、か?」
「ワイキキ!? つまりここはハワイということかウルト!?」
「だが、ここは所詮ダンジョンによって再現された偽物に過ぎない、ノストラダムス君。あまり過度な期待はしない方がいいだろう」
その時全員のタンマツからアラート音が鳴り響き、その音を聞いたウルトがすぐさま叫ぶ。
「――敵性反応だ! 来るぞ、構えろ!」
現れたのは、サメであった。2匹、空を悠々と泳いで彼らの元へとやってきていた。それらはエモノを見つけたらしく咆哮を上げて猛スピードで突進を始める。キレー牧師がそれを正面から迎え討ち、2匹の鼻面を寸分の狂いなく殴りつけた。不意を突かれて動揺したのか、サメ達はキレー牧師から距離を離し、エモノを見定めるように彼の周囲をゆっくりと泳ぎ始める。
「見ての通りだ、これは君達の手に余る。こちらは私が引き受けよう。だが、流石に少々本気を出さねばならん。君達の援護はできないと思ってくれたまえ」
「サメばかりは我々にはどうにもな……我々は自分たちの相手に集中するとしよう。もし手早く仕留めれば援護くらいはできるかもしれん。すまないがそちらは任せるぞキレー牧師」
「うむ、任された。ノストラダムス君」
キレー牧師がサメとの本格的な戦闘に入ったタイミングで、更なるモンスターの群れが現れた。1体は骸骨の形をかたどった幽霊、1体は前の部屋でも遭遇したチンピラ、1体はうぞうぞと這い回る毒々しい緑色の粘液塊、1体は身長が190cmは下らないほどの巨漢で筋肉モリモリマッチョマンの鳥だった。ヴァン兄貴が敵モンスターの編成とタンマツに送られたウルトが集めた情報とを照らし合わせて確認する。
「ゴーストが1、ダンジョンチンピラが1、ポイズントラップが1と白い閃光……?が1か。前情報通りだな、さーっすがはウルトだ」
「ありがとう、と言いたいところだがオレも少し自信が無くなってきた。白い閃光はフクロウタイプのモンスターのはずだが……あの異様な姿は何だ? 強いていうならばニワトリ……か?」
対峙する白い閃光がその屈強な上半身を見せつけるようにポージングをし、威嚇するように咆哮を放つ。
「コミケーット!」
「やっぱりニワトリじゃな―――なんて?」
困惑するジョンをよそに、ダンジョンチンピラが更なる威嚇のような叫び声を上げた。
「コミケイクッゾコラーッ! オフパコスッゾオラー! スッゾスッゾコラーッ!」
「何でハワイでコミケなんだよっ!? つーか言ってることがあまりにも最低すぎるぞテメェっ!」
「所詮はダンジョンに生み出された存在だ、大した答えなどあるまい、ヴァン兄貴。ともかく、仕事の時間だ!」
ジョンがそう叫びブラックオーを起動する。両陣営が対峙し、戦闘開始となった。




