2-7 合同キャンプ、祭壇の上
ウルトは手元のスカウトタンマツで周囲の敵影が無いことを確かめると、それを全員に伝えた。彼らはテキパキと作業を分担し、遺跡の祭壇の上にキャンプを張り終える。椅子に座って一息ついたジョンが誰に向けてでもなくつぶやいた。
「こうして遺跡の中、更には祭壇の上にキャンプを張るというのもいささか気が引けるものがあるが、まあダンジョンの中だ。流石にこれも本物ではなかろう」
「そういえば前回はダンジョンそのものに割合くつろげる空間が用意されていたからな。本格的なキャンプを張るのは今回が始めてだったか。さて早速だが、オレは情報収集に向かうとしよう。敵の編成がわからないことには、方針の立てようもないからな」
偵察に向かったウルトが戻り、その情報を共有すべくキレー牧師を含めた全員をジェスチャーで集めた。彼は手元のスカウトタンマツの画面を表示しながら一同へ向かって話し始めた。
「ジュワワ、ジュワワワワ。 ジュワ、ジュワジュワワワワ」
その言葉に対し、ヴァン兄貴がすぐさま返答を返す。
「デヤデヤ! デヤッ、デヤヤヤヤッ」
2人の会話になにやら疑問があったらしく、ノストラダムスが質問を挟んだ。
「シャアシャア、シャシャシャシャア。シャシャッシャシャア、シャア?」
ウルトのタンマツの画面を見て何かに気がついたのか、それにジョンが答えた。
「ヘアッ、ヘアヘアッ! ヘアッ! ヘヘヘヘアッ!」
何やら機動戦士月神部屋のやっていることに得心がいったのか、キレー牧師も会話に加わった。
「シュワ、シュワワワ……シュワワシュワ。シュワッチシュワッチ」
「「「「いや、日本語で頼む」」」」
「やめたまえ! いたいけな中年をもてあそぶのは!」
4人が口を揃えて返答したその言葉にキレー牧師は鬼気迫る表情でツッコミを入れた。そう、ここまで何も話は進んでいなかったのである……!
ウルトが改めてスカウトタンマツを操作し、全員のタンマツへと偵察した情報を共有する。
「悪ふざけはここまでにしよう。まずは情報を共有する、それから対策の考案だ」
「……どの口が言うのかね、それは」
「見ての通り、オレに口はないんだ、キレー牧師。ともかく今はモンスター編成の確認だ。正直今回も情報が得られていなければ少し危うかっただろうな。まず敵の群れが2つ。この部屋と同様に、片方はオレ達でも片付けられる程度の組み合わせだが、もう片方は明らかに無理がある相手だ」
「そちらは私が請け負うとしよう」
「強力な敵を請け負ってもらえるのは本当に助かる、キレー牧師」
「時にウルト君。この編成の仕方、何かしらの意図を感じないかね?」
「所感でいいか? 意図、というよりは限界だろう。下手なモンスターを揃えただけではキレー牧師に蹂躙されて終わり、かといってそちらに全力を振り分ければオレ達がフリーになってダンジョン奥へたどり着けてしまう。だからまず特記戦力であるキレー牧師を止められるだけのモンスターを用意し、その後残ったリソース全てを注ぎ込んでオレ達へ差し向けるモンスターを生成しているのだろう。使えるエーテル量が限られているのか、何か他の制約があるのかはわからないが、おかげでオレ達は比較的余裕を持ってモンスターと戦えているがな」
「なるほど、その考えには納得がいく。おおよそ当たらずとも遠からず、といったところだろうな。さて、私の方はそろそろ休憩がてら相手する敵の対策を考えるとしよう。先の戦闘で使用した魔力の補給も必要だからな」
そう言ってキレー牧師は1人離れて行き、キャンプセットで鍋の湯を沸かして何かの麺とレトルトパウチを茹で始めた。改めてウルトが機動戦士月神部屋の面々を集めて作戦会議に入る。
「で、だ。オレ達が相手する方のモンスターの群れだが……連中の内1体が不意打ちの構えを取っていた、部屋に入る時には注意する必要がある。とはいえ、事前に情報を取れたからそれはいい。不意打ちの動きをあらかじめ知っているオレ達の方が有利だ」
「ウルトの言っているモンスターとは別に、かなり素早そうな相手が敵陣に居ることが少し気がかりだが……まあこちらが先手を取って処理できれば大した問題にはならんだろうな」
「ノストラダムスの言う通り、さっきの戦いのように出鼻をくじいてしまえばいいだろう。さて、もう少しやれることはありそうだな。ジョンのまだ少し回復しきっていない魔力を【エリアヒール】で回復させるとしようか。その後にまだ動けるようなら……【エムカリ】で余った【ポーション】辺りを売りに出そうと思うが構わないな?」
他のメンバーの承認を受けたウルトは【エリアヒール】を起動し、全員のタンマツへと魔力を供給する。彼らのタンマツの魔力を最大値に至らせるには十二分の量を供給できたため、ウルトは【懐中時計】と【Re:サイクル】を使用してタンマツの処理を加速、空いた時間で【エムカリ】アプリを起動した。ジョンが余剰魔力を持て余し、ウルトへと問いかける。
「流石にこんなには魔力を供給する必要はなかったんじゃないか?」
「何、余った分はキレー牧師へ回すといい。少なくともある程度足しにはなるだろう」
ジョンが余った魔力を手元に集め、ボールのようにキレー牧師の方へ投げると、その魔力塊はキレー牧師のタンマツに吸い込まれた。彼は自分のタンマツを確認し、機動戦士月神部屋の4人へと声をかける。
「ふむ、これはありがたい。配慮に感謝しよう」
その声と共にチャッチャという音が辺りに響く。ヴァン兄貴がその音の正体を確かめるべくキレー牧師の方へ振り返ると、彼はちょうどラーメンの麺を茹で終わり、それを丼へと盛り付けるところであった。その光景にヴァン兄貴が思わずツッコミを入れる。
「おいおいおい! キャンプでやる規模のラーメン調理じゃねぇだろそれ!」
「フッ、私のことは気にしないでくれたまえ。君達は君達で配信を進めているといい。むしろゆっくりしてくれる方がありがたいくらいだ」
ヴァン兄貴とキレー牧師のやりとりをよそに、金額自体は微々たるものであったものの、ウルトは【エムカリ】アプリで【ポーション】を売ることに成功していた。
「まあ所詮は【ポーション】だから売値はこんなものだろうな」
「むしろたかだか【ポーション】程度のどこでも手に入る物を売りに出せただけでも喜ぶべきだ、ウルト。さてせっかくだ、私も何か出品してみるとしよう。手元に使わないツールが余っていることも確かだからな」
そう言ってノストラダムスも手元のタンマツで【エムカリ】を起動し、手持ちの【携帯食料】を売却する。彼が売却処理を終えてタンマツを仕舞おうとした時、ジョンが暇を持て余していることに気がついた。ウルトによってタンマツの魔力を完全に回復した現状、あえて休憩をして魔力を回復させる必要もなくなってしまっていたのである。ノストラダムスはジョンの隣に座り、2人のタンマツを接続、一時的にジョンのタンマツでも【エムカリ】が使用できるようにした。
「ほら、ジョンもやってみるといい。慣れておくと何かと便利だぞ? 試しにこの【携帯食料】を売りに出してみるといい」
そう言ってノストラダムスは自らのタンマツのストレージから【携帯食料】を取り出してジョンに渡した。
「まあ、暇つぶしにはちょうどいいか。ええと、ここをこうして……なるほど。悪くない小遣い稼ぎだな」
他の3人が【エムカリ】で小遣い稼ぎをしている間に始めていた【歌ってみた!】アプリでの歌枠をちょうど終えたヴァン兄貴がジョンに話しかけた。
「お、また売れてんねジョン。いいなー、俺ももっとお金欲しい」
「何を言っているんだ、この機動戦士月神部屋の4人の中で1番稼いでいるのは歌枠で閲覧数を次々増やしている君じゃないか、ヴァン兄貴」
「俺だって! 俺だってぇ……! 楽してズルして稼ぎたいんだモン!」
「……そうは言っても、私の見立てではもう既に歌だけで食っていけそうじゃないかと思うのだがね?」
「キレー牧師の目から見てもヴァン兄貴の歌は十分凄いのか……」
「数字が全てを物語っているだろう、ジョン君」
一同がのんびりとキャンプを楽しんでしばらく後、ノストラダムスがパンパンと手を叩いて注目を集めた。
「よし、もうキャンプの時間はいいだろう。そろそろ次の部屋に向かうとしようじゃないか」
「もう行くのかね? 少し待ちたまえ、すぐに片付けるとしよう」
「まだ食ってたのかよキレー牧師お前ェ!?」
「フフフ、ソロと同じ気分で食事を楽しみすぎたな。何、残りはスープだけだ、一口で済ませよう」
そう言ってキレー牧師は両手で丼を持ち、器の7割ほど残っていたスープを一気に飲み干した。わずかに残った油が、白い丼を赤々と染めていた。彼が食べていたのは、無論例の殺人麻辣カレーラーメンである。キレー牧師が一つ大きく息を吐いて、両手を合わせる。
「ごちそうさまでした、と。すまない、待たせてしまったな」
「……それさっきダンジョンの外でも食ってたろ」
「運動すれば腹が減る。至極当然のことだろう、ヴァン兄貴?」
「アンタすげぇわ。人間かどうかちょっと疑うくらい」




