2-5 ピラミッド遺跡、熱帯雨林にて②
戦闘態勢に入った両陣営の中で、一番に動いたのはウルトだった。彼は手元のタンマツを操作し、【パワーポーション】を呼び出しつつ、【Re:サイクル】アプリを起動。一時的なキャッシュデータを生み出すことにより本来は消費物である【パワーポーション】を手元に残し、その効果を十全に発揮した。魔力の霧となった【パワーポーション】はブラックオーの両腕へと宿り、それを淡く発光させた。
「早速の支援だ。受け取るといい、ジョン」
「支援をくれるのはありがたいが、その動作を怪しくするのはやめないかねウルト!」
光が収まると共にジョンはウルトへとツッコミを入れる。ウルトは支援をすると共に、何やら怪しげな動きでふしぎなおどりを踊っていた。無論、【パワーポーション】の発動にも、【Re:サイクル】アプリの起動にも一切必要のない動作である。一つため息をつくと、ジョンは改めて目の前の敵と対峙した。
「さて、早速だ。今の私のパワーを、試させてもらおうか!」
ブラックオーの右腕部各所からシリンダーが飛び出し、それぞれにタンマツから魔力が送られる。肘から3本の特に大きなシリンダーが飛び出すとジョンは右手を大きく引いて攻撃体制には入った。機動戦士月神部屋の配信ではもはやおなじみとなりつつある、【鬼殺し】の構えである。相変わらずその重厚感に似合わないほどのスピードでブラックオーは目の前に居るリザードマンへ肉薄し、その胸部へ右手を思い切り叩きつけた。各部シリンダーが稼働し、圧縮された高濃度の魔力が勢いよく拳から飛び出す。
「グエーッ!!!」
リザードマンはその大口を開いて苦悶の表情と共に声を絞り出す。だが、まだ倒れることはなかった。その両足を踏ん張り、両手の装備を構えて目の前にいるブラックオーを威嚇した。
「シャァーーーッ!!!」
「流石に1撃では倒れてくれないか。だが……!」
ジョンの言葉が終わると共にリザードマンはその目を大きく見開いた。その視線は今自分に突き刺さっている右の拳ではなく、むしろブラックオーの背後に注がれていた。そこにあったのは【鬼殺し】の構え。それはタンマツの最適化によって解禁された2連撃のもう一方。すなわち『左』であった。
「1度で足りないのならば、2度撃てばいいということだ!」
『左』の【鬼殺し】が今度はリザードマンの顔面を正面から捉えた。高濃度圧縮魔力が一息に放出され、ビームと見紛う光がリザードマンの頭を焼く。リザードマンの四肢からは力が抜け、膝から崩れ落ちた。今対峙しているモンスターの中で最も強力な個体が成すすべ無く倒れ、その戦場に居たものは敵味方問わず一瞬あっけに取られたままだった。ダンジョンチンピラに至っては、その手に回復用の【ポーション】を握ったまま固まっている。本来ならばすぐさまリザードマンへと投げつけることでその生命を繋ぐことが出来たはずが、ブラックオーのあまりの迫力にただ固まってしまっていたようだ。そんな中、ヴァン兄貴がハッと気がついた様子で素早く自らのアイドルタンマツを操作し、【シャッターチャンス】アプリの補助によって攻撃体制から構え直したブラックオーの姿を配信に映し出す。
「Foo!!! 流石はジョンだ! 俺達には出来ないことを平然とやってのける!」
「しかしあのペースでのあの高火力攻撃だぞヴァン兄貴。あれではタンマツの魔力消費もバカにならないだろう。全く、随分と無茶をする。だが、一番の強敵を何もさせずに倒したのは見事だな。さて、私も自分の戦闘力を試させてもらうとしようか。若干消化試合のような感じもしているがな」
「まあ、あのリザードマン以外の攻撃だったらウルトの回復が間に合うだろうしなぁ……よーしノストラダムス、ここは一旦配信向けの派手なやつで頼むぜ」
「了解した。先程の2撃程ダメージが出るかはわからんが、やってみるとしようか! さあ、我が手足となってゆくがいい……ドラグーンビットよ!」
ノストラダムスは【拡大】アプリを使用して攻撃範囲を広げると共に、新たにインストールしたアプリ、【賢い魔法計画】【グリモワール】【追加詠唱】【コンセントレイト】を起動する。特に【賢い魔法計画】は戦闘中にも細かい魔力操作が可能となる補助アプリであり、敵への攻撃時に魔力量を操作し、命中部位にのみ局所的な高出力を生み出すことができるようになっていた。それによりジョンのアサルトタンマツに比べて魔力の最大出力が抑えられているノストラダムスのウィザードタンマツであっても、十二分に強力な攻撃が可能となるのである。後手に回ることで魔力をストックできるアプリ、【追加詠唱】も加えることで更に火力を増したノストラダムスは、今や前回のような回復役と妨害役の中間という中途半端な立ち位置にはない。十分に戦闘力を発揮できる立派なアタッカーとなっていた。ドラグーンファングがその持ち手を起点として5つ集まり、光刃を外に広げる。あたかも大きな光る花のような形となって回転し、残ったモンスター3体へと襲いかかった。配信映えを意識したからか、倒れたモンスターこそ居ないものの、今にも倒れそうになるほどの深手を負わせるには十分な威力であった。ダンジョンマスゴミが恨みを込めて叫ぶ。
「正義のジャーナリストになんてことを……許せないな、燃やしてやる!」
その言葉が終わるや否や、機動戦士月神部屋の配信におびただしい量のノストラダムスに対する批判的なコメントが書き込まれ、またたく間にノストラダムスは《炎上》状態に陥ってしまった。
「わああああああっ!? 私のアカウントが荒らしコメントまみれに!?」
「まあ落ち着け、その程度なら薬をタンマツにかけておけば治る」
そう言ってウルトは自らのタンマツのストレージから【特効薬】を取り出してそれを直接ノストラダムスのタンマツへと振りかける。するとすぐさま荒らしコメントが減っていき、ノストラダムスの《炎上》状態はまたたく間に収まってしまった。タンマツで自分のアカウントの状態を確かめながら、ノストラダムスはウルトへと視線を向ける。
「ああ、本当に治ってしまったな。……なぜ薬剤でアカウントの《炎上》が収まるんだ?」
「……さあ? オレにもよくわからん。おおかた、薬剤の形を取っているが実情としては、何でも治る概念という認知を込められた液体をかけているとかじゃないか? 論文にできるかもしれないな」




