2-1 つかの間の日常
廃校の食堂、つまりは機動戦士月神部屋のタマリバとなったそこに、今日も今日とて彼らは集まっていた。門楠はそこに広げられた段ボール製の配信部屋で日課となりつつある歌配信を行い、藤倉と桐谷は角に設置されたテレビ台に向かい、対戦ゲームを2人で遊んでいた。青本の姿はないが、荷物が置かれているところから、彼がいっとき外出しているということがわかる。しばらくはゲームの音だけが部屋の中に響いていたが、対戦の決着がついたらしく、藤倉が手にしていたコントローラーをクッションに放りながらゴロンと横になった。
「あー負けた! くっそー、後少しだったのになー」
「ははは、惜しかったね藤倉クン。まあ、このゲームはそこそこやり込んでるからね、そう簡単には負けてはあげられないさ」
「ちぇー、ちょっとくらいは勝たせてくれてもいいじゃん。それにしても、初配信から今日でもう3日経つんだなぁ、そろそろまたダンジョン行きたいや」
その言葉を聞いて、ちょうど歌配信を終えたところらしい門楠が2人のそばの椅子に座る。彼は手元のタンマツを操作しながら、藤倉に答えた。
「つっても、あの胡散臭い牧師からの連絡が来ないことには次の探索に出られないだろ。僕は嫌だぞ、『偽聖杯』なんてあんなわけのわからないもの抱えてダンジョンに潜るの」
門楠がその言葉を言い終わったタイミングで、青本が両手にビニール袋を提げて部屋に帰ってきた。それまでの会話を聞いていたのか、ビニール袋をテーブルに置き、その中身を一つずつ広げながら藤倉に話しかける。
「こればかりは焦っても仕方がない。前回こそ順調に探索を終えられたが、俺達はまだ初心者ライバーもいいところだからな。不確定要素はなるべく排除しておくべきだ」
「おかえり青本。出前行ってくれてありがとねー。……やっぱあの牧師の連絡を待ってからのほうがいいと思う?」
「だろうな。それより、まずは冷めてしまう前に買ってきたものを食べるとしよう。好きなものを取るといい」
「外に出て買ってきてくれたんだし、最初は青本が選んじゃってよ」
「そうか藤倉。他の2人もそれでいいんだな? ならオレはこれを貰おう」
そう言って青本が袋から取り出したのは、丸く薄いパン生地に挽肉や砕いた野菜が乗せられて焼き上げられた、ピザのようなものだった。
「え、ナニコレ? 新しいピザ?」
「ラフマジュンだ、藤倉。トルコ式の薄焼きピザだな。あの近所のケバブ屋が新商品を出していたからな、気になって買ってみた」
青本がラフマジュンを取り出している間、桐谷は袋の中から別々に入っていたスープと麺を取り出し、麺をスープに入れて軽くかき混ぜる。別添えの具を乗せて出来上がった担々麺をすすりながら、彼は2人の会話に加わった。
「まあ、藤倉クンの気持ちもわかるけどね。流石に毎日ダンジョンに潜るわけにはいかないけど、こうして進展がないまま待つだけというのも歯がゆい。せっかく初配信で私達のチャンネルに登録してくれた人達が離れてしまわないかとも心配にもなる。あ、担々麺はもらうよ」
「もう口つけてるだろ桐谷。ったく……まあなんだかんだ言って、閲覧者は僕の【歌ってみた!】配信である程度維持できてるから大丈夫だろ」
「いやでもさぁ……毎日こうしてタマリバに集まって、何をするでもなく門楠の配信を見守るだけでダラダラ過ごすってのも、これはなんかちょっと……違うじゃん! あ、タコスもーらい」
「ん、残ったのはキーマカレーか。そこそこ辛いけどあのラーメンに比べたら平気だな。毎日って言っても今日入れてまだ2日しか休んでないだろ藤倉。普通の専業ダンジョンライバーでも大抵探索は間に2日間は開けて探索するぞ?」
門楠のその言葉を聞いて、桐谷がなにか思いついたらしく一つ手を打ってから3人へ提案した。
「それなら、今度向かう探索で潜るダンジョンについて、今から先に考えておくというのはどうだい? 前回と同じ東京タワーダンジョンも悪くないけど、次は遠征してどこか遠くのダンジョンを狙ってみるのも面白そうだろう?」
「はーい! はいはい! なら俺ハワイ行きたいよハワイ!」
「バカ! 流石にいきなり海外遠征はないだろ藤倉。そんな金も……いや、配信の収益で行けなくもないのか。それならちょっと欲が出てきたな、せっかくだしドラキュラゆかりのブラン城……いや、モデルのヴラド三世の居城ならポナエリ城も見たいな。そうなるとルーマニアか」
「配信のガワとして使っている内に、ヴァン・ヘルシングへ愛着が湧いたのか、門楠。そうだな、オレは中南米のジャングルにあるピラミッドは興味がある。あの辺りのダンジョンは特徴的らしいからな。他にはローマのコロッセオ辺りも面白そうだ。知り合いもいずれ行きたいだとか言っていた覚えもある、あそこのダンジョンに潜ればいい土産話ができそうだな。それで、言い出しっぺの桐谷はどこか行きたいところはないのか?」
「私かい? フフ、実は前々から気になっているところがあってね……コミケ行ってみたい!」
「「「さっきまでの話は何だったんだよこのおバカ!」」」
あまりにも脈略のない桐谷の言葉に、他の3人は声を揃えてツッコミを入れた。
4人が腹ごしらえを終え、残ったゴミを片付けているとふと、門楠のタンマツから着信の通知音が鳴った。彼はタンマツを操作し、その内容を確認する。
「お、メッセージの着信だ。相手は……キレー・マルボ、あの牧師が『偽聖杯』を直接見たいってさ。明日にでもキレー牧師が所属してる世界探索者教会に持っていってほしいんだと」
「え、ホントに? じゃあ明日行こうよ。別にやることがあるわけでもないんだからさ」
「まあ確かにな、藤倉。向こうも向こうで急いでるみたいだ、こういうのは善は急げ……でいいか。よし、アポ取れたぞ。明日は世界探索者教会で、キレー牧師と合流だ」




