1-27 帰還。そして日常へ…… ②
機動戦士月神部屋の4人は廃校の食堂、彼らのタマリバへと帰ってきた。全員がそれぞれに椅子やソファーを選びへたり込む。疲労困憊といった様子ではあったが、彼らは皆清々しい表情をしていた。藤倉がテーブルに突っ伏しながらも喜色が籠もった声で叫んだ。
「あぁ……いきててよかった!」
「本当にな! 我ながらあんな装備で特異個体に突っ込んだのは中々の無茶だった!」
「いやいや門楠、私はこのメンツだったら特異個体相手にも勝てるとは思っていたさ! 青本も大丈夫だと思ったから、撤退を提案せずにそのまま私達と討伐に向かったのだろう?」
「そうだな桐谷。それに、仮に敗北したとしても無事生還する算段は立ててあった。それで特異個体相手に一当てして、その情報を持ち帰ってギルドに報告すれば、その分の報酬は得られていただろう」
「え、そうだったの?」
「あの特異個体ゴーレムは価値観がおかしいだけで、人間に対しては基本友好的だということは偵察した時点でわかっていたからな。もし全滅したらその時はジョンの交渉……つまるところ藤倉の口八丁で撤退を見逃してもらうという算段だった」
その言葉を聞いて藤倉は思わず起き上がる。勢い余って椅子ごと倒れそうになるが、ギリギリのところで持ち直して青本に向き直った。
「ええっ!? そこで俺に丸投げだったの!? バカじゃないの青本!?」
「そりゃあ君ならできるって信じてたからね! 門楠だってそう思うだろう?」
「まあなー桐谷。あの感じだったし、藤倉ならいっそ仲間に引き入れるくらいのことも出来たんじゃないかって思ってるよ」
「門楠までそんな事言うの!? 俺のこと何だと思ってるのさ!」
抗議の声を上げる藤倉をよそに、門楠がタンマツを操作して機動戦士月神部屋のチャンネルの情報を確認する。
「まあ、その辺の話は終わったことだし置いといてさ、配信の結果を確認しよう。おっ、早速【収益化】の効果が出てるな」
「えっ、【収益化】ができるまでって結構ハードル高くなかった?」
「それは最大手のラビチューブライブの話だろ、藤倉。実はニタニタ生放送の方が結構な穴場でな。金額こそ大したことないけど、【収益化】は簡単にできるんだ。まあ多少活動資金の足しになる程度の話だろうけどな」
そう言いながら門楠が操作しているタンマツを、桐谷が後ろから覗き込む。読み込み画面の後に表示された収益額を見て、彼は驚きの声と共にタンマツの画面を指さした。
「あれっ!? そういうけど門楠、この金額って結構凄いんじゃないのか!?」
「ああ、実際凄いぞ桐谷。僕も驚いてる。しかもこれはあくまで機動戦士月神部屋の放送の方の収益だ。これとは別に、ギルドの方からダンジョン探索の報酬が送られてくるぞ」
「そういえば、私達のチャンネル登録者も増えているのかな? 私は戦闘や探索に夢中であまり確認は出来てないが、我ながら中々の盛況だったんじゃないかと思うんだ」
「そうは言っても僕だって最後の戦闘が終わってからはヘトヘトで確認する気にはなれなかったからな、桐谷。今どんな状況かはわかんないぞ。じゃあ見てみようか、ええっと……?」
門楠が表示した機動戦士月神部屋のチャンネル画面には、既に駆け出しを抜けて中堅一歩手前程度と評価される数の登録者数が表示されていた。彼は一度手で目元をこすり、改めて画面を確認する。先程見た数字が見間違いで無いことを確認すると、驚愕した顔で他の3人にタンマツを向けてその画面を見せた。
「すっごい増えてる……なんだこれ、怖……」
「凄いよこれ! なんだかよくわからないけど、一気に数字が増えてる! これが俺達の成果なの門楠!?」
「ああそうだ、間違いなく僕達4人の成果だ、藤倉」
そうこうしていると4人のタンマツからメール受信の通知音が響く。彼らがそのメールを確かめると、果たしてそれはギルドからのメールであった。それぞれにメールを開き、内容を確かめると共通の内容であった。
『改めまして、初探索の成功おめでとうございます。報酬査定が終わりましたので、送金を致しました。特異個体討伐の報酬もあるので、多少色を付けております。初探索のご祝儀とお考えください。では皆様のサイドの探索をお待ちしております』
タンマツに送付されていた報酬金額を確認し、青本が少し困惑した様子で他の3人に問いかけた。
「ん……? 何だ、ギルドからの報酬もいやに多くないか?」
「多分特異個体がそれだけ強い相手だってことなんだよ。だから、そのゴーレムから出てきたこれについても、早く何とかしないとなんだろうけど……どうしよう? やっぱキレー牧師待ちだよね」
そう言っている藤倉の手にはダンジョンで回収した『偽聖杯』が握られていた。思わず門楠がツッコミを入れる。
「うぉーい、出すな出すな出すな出すな。そんなモン、タンマツの中にしまっとけしまっとけ。まだ何が起こるかわからないシロモノ何だぞ?」
藤倉がタンマツのストレージに『偽聖杯』をしまうと、桐谷が一つ大きく手を叩いて他の3人に提案する。
「さて! 全員無事に帰還できたどころか、初配信で大成功を収めたんだ! せっかくだし祝勝会で夕食を食べに行こうじゃないか!」
「そうだな、腹も減ったことだし早速行こう! 実はさっきのメールに添付で商品券が付いていたんだ。今夜はこれでちょっとしたパーティだな!」
門楠がタンマツに送られていた商品券を見せ、彼らはどこで夕食を取るか相談を始めた。ああでもないこうでもないと話を続け、彼らは喜びを噛み締めながら祝勝会へと出かけていった。
だが、これがまだ彼らの物語の始まりでしか無いこと。既に彼らが巻き込まれる大騒動が、水面下で動いていることを彼らは知らない。
その物語はまたいずれ、語られることであろう……




