1-24 輝く星の下で ④
ノストラダムスの言葉を聞いたゴーレムが自らの周囲を確認し、両手を頬に当てながら青ざめた。その生気のない顔でありながら、彼女の表情からは明確に動揺が読み取れる。
「お、お味方が全滅している――であります!」
「そう! 事前の調査で君の特異個体としての権能は『自身以外の味方の攻撃を大幅に強化する』ものだとわかっていた! 確かに極めて強力な権能だ、現に我々も一撃受けただけで半壊状態になった。だが、その効果はあくまで自分以外の味方に影響を及ぼすもの! 特異個体の権能を振るう相手が居なくなった今の君は、ただのいちゴーレムに過ぎんということだ!」
だが、ノストラダムスの言葉を受けてもゴーレムが降参することはなかった。それどころか、ゴーレムはブンブンと首を横に振り、正面から4人を見据えて攻撃の体制に入った。
「それでも……それでもワタシは……ワタシの夢を諦めない――であります!」
「いい台詞なんだけどさぁ……その夢が人類ダメ人間化計画なのはちょっとどうかと思うよぼかぁ……」
ヴァン兄貴のボヤキをよそに、ゴーレムはその両手を振り上げて再び【アースクエイク】の構えを取る。ゴーレムの動きを確認したウルトが待ち構えていたかのように、その手に光輪を構えた。
「既に半壊状態にある今、その攻撃は普通に痛い。やめてくれないか」
ウルトは再び光輪をゴーレムに投げつけ、その視界を封じる。だが、ゴーレムは両手を高速回転させることにより、先程【妨害】された【アースクエイク】機構を狙われないようにした。それを確認すると、ウルトは両手を合わせて指先から高圧の水流を放つ。今度は通常の水流であるらしく、ゴーレムのすぐ前にある地面をみるみる内に削り取り、ゴーレムの足が埋まる程度の深さがある溝が作られた。視界を奪われたゴーレムはそのことに気付けない。
「今度こそ食らうのであります! 【アースクエ――うきゃぁ!?」
ゴーレムは両手を地面に叩きつけるべく前に一歩踏み込む。が、そこに地面など既に無く、踏み込んだ片足は空を切りそのままゴーレムはバランスを崩して倒れ込んだ。顔面は溝の角に打ち付けられ、地面にはその形がくっきりと残っていたが、ゴーレムにダメージはない。
「あう……また不発にさせられたのであります……痛くない、痛くないけど心が痛い――のであります……」
「悪いが、こちらも遊んでいる余裕はないのでね。そうそうやられてやるわけにはいかんさ」
ノストラダムスがドラグーンファングを手に持ち、その光刃を展開しながら体制を立て直そうとするゴーレムに飛びかかる。真っ向から唐竹割りでゴーレムの頭部に斬りつけるものの、やはりというべきかその【装甲】を貫くことは出来ずに弾かれた。ノストラダムスが露骨に舌打ちをする。
「チィッ、だがやはり……硬い! 流石にそうやすやすとはいかんらしいな。もし私がもう少し自分で火力を出せるようになれば話も変わってくるやもしれんが……!」
ゴーレムの身体に今だ傷は少ない。だが、味方も居なくなり自らの攻撃を何度も失敗させられている状況には、ゴーレムも焦りの表情をにじませていた。
「ま、まだであります! 生き残って一撃当てれば、連れて帰ってお世話ができる――のであります!」
ジョンが攻撃体制に入り、何度目かのアプリ多重起動を行ってブラックオーへとその魔力を供給する。
「悪いが、私達はまだ君達の世話を必要としていなくてね! さて、これで終わらせられるかな……?」
ブラックオー右腕の機構が稼働し、各所からシリンダーが飛び出した。更に肘の大型シリンダー3本が飛び出し、【鬼殺し】の体制に入る。配信によって得られた余剰魔力も込められているらしく、各シリンダーが淡く光を帯び始めた。右腕を引いたままズシンズシンと体制を崩したままのゴーレムの目の前へと歩いてき、その腹部にこぶしを打ち込んでそのまま持ち上げる。
「バイバイ! ゴーレムのお嬢さん!」
ブラックオーのシリンダーが稼働し、圧縮魔力がゴーレムを吹き上げた。しばらく上空を舞ったあと、ゴーレムは首から地面へと叩きつけられる。すぐに立ち上がりこそしたものの、そのふらついた足取りは受けたダメージが決して少なくないことを示していた。
「い、いたいのであります。痛いのであります!」
好機と見たのか、ヴァン兄貴がスライディングをしながらゴーレムの下へと潜り込み、アイドルタンマツで配信用カメラを操作する。
「おおっと! いいローアングルが貰えそうだ! 【シャッターチャンス】! ゴーレムは人間じゃないから猥褻は一切ない! いいね!?」
そのままヴァン兄貴はゴーレムの周囲を回りながら、その妙になまめかしさを感じさせる姿を余すこと無く配信へと映し続ける。時折、何かキラリと光るものがヴァン兄貴の手元からゴーレムの方へと伸びているのが見えた。
「お前ら美少女の拘束好きかい? いや、好きだって知ってるんだ、ぜ!」
ヴァン兄貴がその手元をグイと引っ張れば、ゴーレムは全身をキラキラと光る糸で全身を締め付けられる。それは純銀の金属糸であり、ヴァン兄貴が使用する戦闘用装備群のひとつであった。ゴーレムは不快感を示さず、その頬を赤らめながらも拘束に抵抗している。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいであります……」
「へっへっへ……中々いい表情するじゃねぇか……」
そのままヴァン兄貴は片足を伸ばして姿勢を低くし、背負うような形で銀糸を肩越しに右手で強く引いた。
「ナムアミダブツ! なんてな」
彼は左手に魔力を込め、銀糸を一度だけ弾く。魔力は銀糸を伝い、ゴーレムの全身を電撃のように焼いた。配信による魔力の効果もあってか、その攻撃はゴーレムの【装甲】に守られた内部に有効打を与えるだけの威力があった。
「あっ……なんでありましょうか……何か新しいものがワタシの胸に生まれそう――であります」
「待て! それはちょっと開いちゃいけない扉だ!」
「それを君が言うのかい!?」
ノストラダムスのツッコミが入る中、ヴァン兄貴は思わずゴーレムの方へと振り向いた。彼がその姿勢を変えたために、ゴーレムの拘束が緩み、その四肢は解放された。しかしゴーレムは既に戦闘可能な状態に無いらしく、その場にへたり込んで動く様子が見られなかった。
――戦闘終了、戦いは機動戦士月神部屋の4人の勝利に終わった。




