1-23 輝く星の下で ③
フワリと、4人の目の前のレイスが言葉もないままに揺れ動く。その輪郭は周囲に景色ににじむようにぼやけ、全身も霞むように消えかかっていた。だが、確実にその場には存在していて、明確に4人へと攻撃の意志を持っていた。レイスがその両手を揺り動かすと、周囲のエーテルが彼らの背後に寄り集まり、猛烈な勢いで風と氷が渦巻いた。ノストラダムスの【骨砕き】によって貫かれたその腕の動きはぎこちないが、周囲のエーテル濃度が濃いこともあり、レイスが吹雪と見紛うほどの【ストームガスト】を生み出すには十分だった。ゴーレムがその渦巻く吹雪に手をかざす。その手のひらから光が放たれ、吹雪の中に飲み込まれる。
「ワレワレの願いを乗せるのであります。貴方にならできる――のであります!」
瞬間、吹雪の規模が一気に跳ね上がり、機動戦士月神部屋の4人を飲み込むべく彼らへと迫った。
「バックアタックか……! まずいな、最前に居る私ではカバーが効かない!」
ジョンはアサルトタンマツを操作し、【ウォール】アプリを起動する。魔力による障壁を遠隔配置して他の3人を守ろうとするが、遠隔では障壁の強度が足りなかったのか、わずかに吹雪の勢いを削いだ程度の影響しか与えられなかった。ヴァン兄貴が顔面蒼白になりながら騒ぎ立てる。
「うわああああ!!! 死ぬんだぁああああ!!!!」
「配信の要はヴァン兄貴のアイドルタンマツ……今ここで機能不全に陥るのはマズイな、相殺する! すまないが、ノストラダムスは自力で耐えてくれ!」
「そうは言うが、流石にこれは……いささかキツイな!」
ウルトが十字に組んだ腕から光線を放つと、吹雪の壁の中に人1人分の切れ目が生まれた。彼はすぐさまヴァン兄貴を抱えてその切れ目の中に放り込む。ヴァン兄貴は驚いた様子で自身の状態を確かめるがダメージは無い。だが吹雪はその勢いを増して切れ目をも覆い、ヴァン兄貴とウルトとノストラダムスがそれに飲まれて、白い嵐の中に姿を消す。【ストームガスト】がジョンの目の前で停止し、彼は固唾をのんで見守るしか出来ずにいた。吹雪が消え、3つの白い氷像が残された。その内2つが震え、崩れ落ち、中からウルトとヴァン兄貴が姿を表す。だが、ノストラダムスは微動だにせず固まったままであった。ヴァン兄貴がやや大げさに叫び声を上げる。
「ノストラダムスゥウウウ!!! おのれぇ、よくもノストラダムスを! 許さんッ! 八つ裂きにしてくれるわ!」
そう言ってヴァン兄貴はレイスの下へと駆け出した。
「あ、ノストラダムス、これさっき拾った【特効薬】ね。多少の凍傷程度ならこれで回復するっしょ」
そう言ってヴァン兄貴はタンマツを操作し、前の部屋で拾っていた【特効薬】の薬瓶を手元に呼び出した。そして振り返りもせず後ろ手にノストラダムスの氷像めがけて投げつける。粉々に砕けた薬瓶から薬液が飛び散り、ノストラダムスは何事もなかったかのように戦線へと復帰した。
「やれやれ、助かったよヴァン兄貴。こういうことがあるから、【特効薬】は常備しろと言っていたんだな」
ノストラダムスが振り向くとヴァン兄貴は配信による余剰魔力を込め、渾身の力でレイスを殴りつけていた。既にジョンの攻撃によって限界近くまで追い詰められていたらしく、ヴァン兄貴の右フックでその身体は掻き消えた。消える間際の表情が心無しか、納得がいっていないものだと感じられたのは気のせいだろうか。いつの間にか起動していた【戦闘実況】アプリを使用してヴァン兄貴が配信を盛り上げている間に、ノストラダムスは【ファストヒール】で先程ウルトが受けたダメージを回復していた。彼は戦況を整理すべく、他の機動戦士月神部屋の3人、そしてその配信の視聴者へと語りかける。
「さて、我々も中々の消耗になったが……実のところ、見た目ほど状況は悪くない」




