1-20 特異個体の気配
キレー牧師が去り、機動戦士月神部屋の4人は改めて探索を再開することにした。食後しばらく経ったこの時になってようやくタンマツの肉体保護が働いたのか、彼らには痛みなどもなく、万全の状態に整えられていた。ジョンがコーヒカップに残ったコーヒーを飲み干して言った。
「やれやれ、酷い目にあった。全く、ずいぶんと濃い男だったな。あの様子だと、知見や実力は確からしいが……」
「『偽聖杯』か、そうそう見つかることもあるまいが、もし存在するのならこの目で見てみたいものだ」
「確かに興味深い話だが、関わったら確実に面倒事になるだろう、ノストラダムス。流石に今のオレ達の手に負える自体を超えるんじゃないか? さて、そろそろオレ達も自分の配信に戻ろう。オレは次の部屋の偵察に行ってくる」
「うーす、頼んだぜ。いってらっしゃーい」
気の抜けたヴァン兄貴の声を背に、ウルトは偵察へと向かった。
それからしばらくしてウルトが彼らの元へ帰ってきた。あいも変わらずその仮面のような顔からは表情が読み取れないが、その所作からしてどうも新たな厄介事に遭遇したらしかった。
「ただいま。調べられはした。が……少しマズイかもしれない」
「なにっ! どういうことだウルト、説明しろ!」
ウルトは自身のスカウトタンマツを操作し、たった今調査した内容を他の3人のタンマツに共有する。例によって、次の部屋にも4体のモンスターが待ち構えているようだ。
「まず問題はこのゴーレムだ。ギルドからのリストに記されている通常の個体反応よりもエーテル反応が強く、更には高い知能を持つような行動が確認できた。――特異個体だ」
「えっ、マジで? こんな浅い所に特異個体?」
「残念ながらそれだけではない、ヴァン兄貴。地面が砂地、しかも罠の反応があった。特徴からしてフロア・スペクターだろうなおそらくは足を取られて動きが鈍る。それに加えて敵の動きを早めるモンスターもいるようだ」
「なんだそれは、まるで示し合わせたような組み合わせじゃないか!」
「ああ、厄介だな、ジョン。実に厄介だ。さて、そうなると我々はどうするべきかな……? こうなっては撤退も視野に入ってくるか」
「いや……やりようはあるぜ、ノストラダムス」
「どういうことだ、ヴァン兄貴?」
「なぁに、簡単な話だよ。相手が地の利を取るのなら、俺達はそれを逆手に取ればいいのさ。相手がいつどうやって俺達の動きを止めて、どういうタイミングで加速をいれるのかを予測できれば、そいつらより更なる先手が取れる、だろ?」
「なるほど、より詳細に相手や地形のことを調べれば相手の機先を制すことができる、ということか。ならば私が解析に回ってみるとしよう」
「がんばえー、ダメだったら俺がフォロー入るから」
ノストラダムスは自分のウィザードタンマツを起動し、ウルトのスカウトタンマツと接続する。ウルトが既に収集していた地形データや、モンスターの行動パターンの解析をおこなった結果、彼がおおよそ取るべき行動の指針となる情報は確保できていた。
「うむ、我ながら中々の成果だな。これだけ分かれば十分対処可能だろう」
「やるじゃなぁい……じゃあ私は歌を歌わせてもらうわねぇ……」
「あー、ヴァン兄貴? なぜ【ファッション】アプリで女装している? そのネットリとした喋り方は?」
「ヤダねぇ、これはこれからやる歌がそういういコンセプトだからってだけよぉ? それにぃ、こうやって適度に味変を入れないと視聴者が飽きちゃうじゃなぁい?」
そう言い残し、ヴァン兄貴は【歌ってみた!】アプリを起動、歌配信を開始した。果たして本当に女装の効果があったのか、配信の数字は順調に伸びている。
「よし、なら次の部屋へと案内しよう」
ウルトの先導に従い、機動戦士月神部屋の4人はダンジョンの奥へと進んでいった。




