1-19 それはまるでこの世全ての悪を地獄の業火で煮詰めて72柱の悪魔の呪詛を浴びせ続けたような ③
――改めて、死屍累々であった。テーブル中央の丼にはスープのみが残され、機動戦士月神部屋の面々は皆一様に椅子の背もたれに背中を預け、天を仰いで放心していた。それぞれのタンマツがピピッと小さく通知音を鳴らし、その画面に表示されている魔力量が最大値となっていた。ジョンがその姿勢を一切動かせないままに、ヴァン兄貴へと話しかける。
「これを一人で一杯ずつ食べたのか……凄いな、ヴァン兄貴は……彼女さんも……」
「いや、コレ店のやつよりかなりデカいぞ……絶対3人分の超大盛りはある……この感じだとジョンが1人分食って、残りを2/3人分ずつ俺達で分けたんだろうな……」
その言葉が終わると、辺りにゆっくりとした拍手の音が響く。キレー牧師はその変わらぬ表情の中に喜色を隠さないまま、4人に向かって話しかけた。
「実にいいものを見せてもらった。ところで少々はしたない話ではあるのだが……残ったスープを貰っても構わないかね? このスープを捨てるのは、どうにも惜しくてね」
「このありさまを見て……俺達が気にするとでも……? そもそも、取り分ける食器も……分けてあるんだし……俺達は全員野郎なんだから……好きにしたらいいだろ……」
「感謝するよ、ヴァン兄貴」
キレー牧師はそう言うと自らのタンマツを操作し、ストレージの中から3つのタッパーをテーブルの上に呼び出した。一つは油通しをされた豆腐、一つは炒めたひき肉、そして一つは白飯が詰められていた。キレー牧師その全てを丼の中に入れ、どこからか取り出したレンゲでかき混ぜる。
「これで即席の麻婆カレーライスの完成、というわけだ。店でも中々に人気のセットでね……」
そう言ってキレー牧師は迷いなくレンゲで丼の中身を掬い、自らの口へと運んだ。
「ハムッ……ハフハフ……ハフッ……!」
その手が一切止まることないままキレー牧師は猛スピード食べ進み、ついに米の一粒、スープの一滴すら残さずに丼の中身を食べきった。
「――フーッ……お粗末様、でした」
「アンタすげぇな……むしろバケモンの方かもしないけど」
「褒めるほどのことではないよ、ヴァン兄貴。私は自分の好物を楽しんだだけに過ぎない。ちなみに、店の公式通販ではこの探索補給スペシャル【大食いチャレンジ】版を通信販売している。注文してから作っている都合上、しばらく時間はかかるが、完成したらツールデータとして直接タンマツへ送られる。また食いたくなったら、もしくは撮れ高として視聴者に好評となったのなら、注文するといい」
「――もう2度と食うか!」
ヴァン兄貴は既に叫び声を上げられる程度に回復していた。他の面々もおおよそ活動可能となったようで、それぞれ立ち上がり軽く身体を動かしていた。
ふと、ジョンのタンマツの画面がチカチカと軽く点滅し、その後魔力の光が放たれて彼の全身を包む。ジョンは試しにブラックオーを起動し、その両手を握っては開きと繰り返して動きを確かめた。
「おお、魔力の巡りが明確に良くなっているな」
ジョンがブラックオーをしまうと同時に、ウルトが何かに気がついたのか、ジョンのズボンのポケットを指さして問いかけた。
「ジョン、その光っているものは何だ?」
ジョンがそれを取り出して確かめると、先ほど【携帯食料】を食べた時に出てきた紙片であった。
「これは……さっきの紙か。妙だな、私はこれをポケットに入れた記憶など無い」
「む? ジョン君、その紙は一体何だ? どこで手に入れた?」
ジョンがことのあらましをキレー牧師に話すと、彼は自分のタンマツで紙片を撮影し、何やら画面上で解析されているらしいその画像を見ながら口元に手を当て、少し考え込む。
「この紙切れに、何か気になることでも?」
「【携帯食料】を食べた際に出てきた、『願いを言え』と書かれた紙切れにささやかな祈りをささげると、魔力の巡りが良くなった。それ自体はいい。ダンジョン探索ではままあることだ、さして気にすることもない。だが……その紙片の魔力波長、これがバチカンの記録で確認した、アンティオキアで発見された『偽聖槍』と似ている」
「つまりこれが、『偽聖杯』に関わるシロモノである、と?」
「断言は出来んよ、ノストラダムス君。しかし、我々が探し求めているものに関係あるのやもしれん。ジョン君、すまないがこれを私に預けて貰えないだろうか? 持ち帰って詳しく解析したいのでね」
「私は構わない。むしろ、私としてはこの紙切れ1枚がそう大層なものだとも思えない」
「もちろんそれだけで疑ったわけではない。それ以外の複合的な要因もある。実際、1度の探索で2回も魔力の巡りが良くなることは中々に珍しいことでね。紙片そのものか、それとも君自身に何か自分でも気が付かぬものがあるのか……そこまではわからないが、調べるべきだと思ったまでだ。私はこれで失礼するが、探索を続けるのならば用心することだ」




