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1-18 それはまるでこの世全ての悪を地獄の業火で煮詰めて72柱の悪魔の呪詛を浴びせ続けたような  ②

「……食おう」


「お前マジか!? マジで言ってるのかウルト!?」


「さっきの目線、お前だって思ったはずだヴァン兄貴。この一杯には受ける苦しみを補って余りあるメリットが存在すると」


「わかった、わかったよ! やってやろうじゃねぇかこの野郎! クソッ、2度と食うかって心の底から思ってたのによ……」


ヴァン兄貴が愚痴をこぼす中、機動戦士月神部屋の4人がそれぞれの分の食器を手元に引き寄せて席についた。屋内テラス席の中央には辛うじて食物と呼べるスパイスの煮凝りが一杯。キレー牧師はその横に立ち、微笑を浮かべたまま不動で彼らを眺めている。一見すると先程までと変わらぬように見えて、その目は隠しきれない喜色を帯びていた。4人がそれぞれ自分の小椀に一口分の麺や具材を取り分ける中、ヴァン兄貴が他3人に真剣な表情で話しかける。


「いいか、食べる前にあらかじめ言っておくぞ。こいつにはちゃんと戦い方がある。口に含んでから一瞬、一瞬だけだが……人体が刺激を認識するまで、のタイムラグがある。その間にどうにか咀嚼して飲み込んでしまうんだ。その一瞬を逃すと口を動かせなくなるからな……マジでその一瞬の隙をどれだけモノにできるかどうか、それにかかってる」


そう言ってヴァン兄貴は一つ大きく深呼吸をし、自ら目の前の小椀に盛った一口分のラーメンを一気に頬張り、数度咀嚼して一息に飲み込んだ。そして両手を握ったままテーブルに置き、少し顔を伏せて何かを待つ。突如、彼が椅子から転げ落ちる。


「うぎゃああああああああああ!!!!」


まるで暗殺拳を食らって今から全身が爆発しそうな表情をしながらヴァン兄貴は地面の上を胸を押さえてのたうち回る。その後彼は倒れたまま、他の3人に見えるよう右手を伸ばしてサムズアップをして見せる。そしてそれはまるで溶鉱炉に沈みゆくようにゆっくりと机の下へと降りていった。それを見て彼らが再度互いに目を合わせる。ウルトが一つ頷くと、――その微動だにしない口でどうやったのかはわからないが――ヴァン兄貴の手順通り一息に自分の小椀に盛られていた一口を飲み込んだ。一瞬の静寂――――その後ウルトは両手を脱力させて天を仰ぎ、そのままピクリとも動かなくなった。


ノストラダムスとジョンが互いに顔を見合わせる。ノストラダムスが一つ頷いて、ヴァン兄貴が出した指示を正確になぞってみせた。飲み込んだ後1つ息をつき、口元をどこからか用意したナプキンで拭う。彼はなぜか食器を少しどけて自分の前を空けた後、これまたどこからか取り出した濡れふきんで自分が今しがた空けたテーブルのスペースを拭いた。ふきんをテーブル中央、煮えたぎっている地獄の釜を錯覚させる丼の横に置いた後、彼は糸が切れたかのようにうなだれ、彼が付けている仮面とテーブルが衝突して鈍い音を響かせた。


残されたジョンは無言のまま、自分の小椀を見つめている。意を決して一度に小椀の中身をかきこみ、ヴァン兄貴の指示通り一気に飲み込んだ。カン!と音を鳴らして小椀をテーブルに置いて立ち上がろうとしたが、中腰の姿勢になったところで停止し、そのまま固まった。その姿勢は、ガッツポーズをしようとしていたところを無理矢理に時間を止めたかのようだった。


辺りが静寂を支配する。ヴァン兄貴は床に倒れ、ウルトは天を仰ぎ、ノストラダムスは突っ伏したまま、そしてジョンは立ち上がろうとして固まり、4人ともがピクリとも動かなかった。その光景を見てただ一人キレー牧師は満足げに笑みを浮かべたままゆっくりと頷いた。


ふと、ジョンの手がピクリと動く。ゆっくりと彼の肩がわずかに上下していて、かすかな呼吸音が響く。


「―――――――――kkkkkkkkkaaぁぁぁああったぞ!」


ジョンが立ち上がり、右手を突き上げて見せた。ヴァン兄貴がそれに気が付き、上体を起こす。


「再起動だと!? 馬鹿な、速すぎる!」


他の2人もその声で反応したらしく、顔だけをジョンに向けた。ウルトが何かに気がついたらしく、弱々しく声を絞り出した。


「ジョンのアサルトタンマツが反応している……どうやら、痛覚を『攻撃』とみなして戦闘モードが起動し、その結果戦闘可能な状態まで肉体のブーストが入ったらしい……戦闘特化型のアサルトタンマツ故の反応……だろうな」


「と、となると、今の私はコレをまともに食べて攻略できる、ということか!?」


ジョンは立ち上がったまま小鉢に一口分の麺をとりわけ、また先程と同様に一息で飲み込む。額の汗を手の甲でぬぐってニコリと微笑を浮かべた後、そのまま固まって倒れ込んだ。幸いにもちょうど椅子に座り込む形で着地する。そのまま両肘を両膝に預け、両足を広げた姿勢で顔を落としてうなだれ――固まった。ノストラダムスがその姿勢を戻さずにか細い声を出した。

「ああ、あくまで戦闘可能状態に戻した、ということなんだね。だから耐性が出来たわけじゃないんだ。回復するまでが早くなった、それだけなんだよ」


ジョンがうなだれたまま、他の3人に問いかける。


「それはつまり……私だけ……苦しむ回数が増える……ということ、か?」


痛いほどの沈黙が、辺りを支配した。

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