1-17 それはまるでこの世全ての悪を地獄の業火で煮詰めて72柱の悪魔の呪詛を浴びせ続けたような ①
キレー牧師が岡持ちを開け中身を取り出す。果たしてそれは一杯のラーメンらしかった。そのどろりとした赤褐色のスープに赤々とした油が入り混じり、たっぷりと入った縮れた太麺の上には炙られた厚切りチャーシューが所狭しと敷き詰められていた。中央にはこんもりと油で揚げられたネギの山が載せられ、横には薄く色づいた半熟の味付け卵が半分に切られて浮かべられている。しかし何よりも機動戦士月神部屋の4人をおののかせたのは、もはや劇物としか言いようがないほどの、猛烈なスパイス臭であった。取り分けるための食器を4つ取り出しながらキレー牧師は微笑み、ジョンとウルト、そしてノストラダムスの3人が目に見えてたじろいだ。ただ一人、ヴァン兄貴が貼り付けたような笑顔をヒクつかせながらキレー牧師に叫ぶ。
「おい、おい……!まさかとは思ったけどお前……やっぱり西麻布の殺人カレーラーメン屋じゃねぇか!」
「残念だが、それは違う」
キレー牧師は目を閉じて軽く首を振った。
「私は西麻布の麻辣カレーラーメン屋だ。麻辣が重要なのだよ、そこを抜かされては困るな――実に困る」
「西麻布の麻辣カレーラーメンって確か前にヴァン兄貴が話していた所じゃなかったかなぁ!? 確かラーメン好きの彼女さんがキレ散らかしてたっていう……!」
「だーかーらー、彼女じゃねーってノストラダムス! まあアイツがキレてたのはあってるぜ……! アイツはラーメンである限り多少の激辛程度なら涼しい顔で食べるくらいのトンデモラーメンフリークだ。今目の前にあるこのバケモンは、そのアイツが顔面グシャグシャにしながらそれでもプライドかけてどうにかこうにか完食したってシロモノだからな……! 俺もまあアイツの手前残さずに食いはしたが……2人揃ってその後30分ダウンして動けなかった……!」
「ほう、そうか君達だったか。二人共完食したカップルの客は極めて珍しく……いや、君達だけだったな。よく覚えているよ」
「ああこっちもよーく覚えてるよこの外道店主め! お前俺達がこの辛うじてラーメンとして成立しているナニカを食べて苦しんでる間ずっとこっちを見てニヤついてただろうが!」
「これは心外な……私はギブアップして札が数枚分軽くなった財布を悔恨と共にしまう者を眺める愉悦……ではなく。決して安くない出費を無理矢理にでも失わんとすべく強引にでも食を進める者を眺める愉悦……でもなく。この辛さを乗り越えた果てに味わえる至高の旨味を共有する喜びのために、店をやっているのでね」
「邪悪だ! 邪悪で外道だぞこの人!」
「邪悪とは失礼な。ジョン君、私はね……一度もコレを食べることを誰かに強要したことはないのだよ。みな自分の意志で食し、そして苦しみ悶えながらもその深奥にある旨味の虜になるのだ。現に店へ足しげく通うリピーターも、ありがたいことに数多くいる。彼らのおかげで店の経営が成り立っていると言っても過言ではないくらいだ。それに150種以上のスパイスと20種のガラや野菜で煮出したスープは栄養満点でね。極めて強力なデトックス効果がある。食べれば身体が一気に軽くなることは間違いない」
「確かに軽くなったさ……ケツからハラワタ全部が呪いと共に煮溶かされた泥みたいな3日分のナニカが出てきてな……!いや、それ以上に身体の調子が何故か良かったのは間違いないんだけど」
「ちなみに今ここに取り出した一杯は、君が食べたものといささかレシピを変えてある、ヴァン兄貴。カロリーと魔力供給に有効な素材で作り上げた、探索補給スペシャル。一口食べるだけで全身に活力と魔力がみなぎる特製品だ。無論味は同じになるよう整えてある」
「メチャクチャありがたいけど味をなんとかしろぉおおおっ!!!」
「とんでもない。素材を変えた上でこの味を維持するのにずいぶんと苦労したのだぞ? それにこの味であることで、我々ライバー向きのシロモノになるのだよ。この一杯でありながら、視聴者には【大食いチャレンジ】の類に見えるようでな。食べるだけで撮れ高になるのだよ。それも特大の、だ」
その言葉に機動戦士月神部屋の4人は言葉無く互いを見合わせた。




